32. その女、精霊魔術師
大国リンドガルディア。その首都ガナディウスは人口五十万超を誇る大都市である。そこで俺は変な女と出会った。精霊魔術師を名乗るティア・モルケッシュ。そこで俺は考える。精霊魔術師とは何ぞや。
精霊は一般人にはお目にかかれない、希少生物では無かろうか。エルフの夢は精霊と仲良く成ることだと言っていた。
「精霊って一般にはお目にかかれない存在じゃないのか」
本人に直接疑問を投げつけた。ティアは目を輝かせる。
「そうなのよ。その精霊と契約を結んで力を借りる事が出来るの。凄いでしょ、精霊魔術師」
リンドガルディアでは一般的ではない職業の為、ギルドでも高ランクの依頼が受けられず、困っていたそうだ。キングオルラシオンを倒して、その素材を回収したいそうだ。
「それにしてもそっちの男も荷物持ち扱いで良いのかしら?とっても強そうだけど」
「俺はユキツネの護衛だ。魔物退治は仕事じゃない」
「じゃあ取り分は荷物持ちの報酬だけで。無事に倒せたら、色を付けるわ」
明日の早朝にギルド前に集合して出かける事になった。山のような荷物を渡され背負う。
「ぐっ!」
「ちょっと大丈夫なの?そんなの普通の荷物よ」
キングオルラシオンの素材を出来るだけ持ち帰りたいと、荷物を渡された。貧弱な男子ですまん。テオは動きがとれないと俺が困った事になるので、なるべく多くの荷物を背負う。
結局途中まではテオが背負ってくれた。一向に前に進まないので、代わってくれたのだった。キングオルラシオンの出没する平原へとたどり着いた。
「ふーむ、現れないわね。美味しそうなエサがあるのに」
そう言ってこっちをチラッと見た。エサって俺の事?
「フッ、早くも我が力を見せる時が来たようね。精霊よ、偉大なる魔術師ティアに力を貸して。我が友よ」
ティアが杖をかざすと、何か現れた。小さな光がギュウっと詰まって、ポンと。ちっちゃい女の子だー!オッサンよりも小さい。キョロキョロしてる。
『へんなヒトいる』
俺を見て失礼な事を言う精霊。チョロチョロ動き回って俺を観察する。虫みたいだな。
「キングオルラシオンを探して頂戴。大きな魔物よ」
『しょうがないな。ティアはワタシがいないとダメなんだから』
フラフラと飛んでいったぞ。大丈夫なのだろうか。ちいちゃい子に魔物を探させる…… いや、人間じゃないし平気な筈。真っ直ぐに飛ばずにフラフラと飛んでいく様は、やっぱり虫っぽい。
「精霊が見つけてくれるわ。私は精霊と意志を交わせるの」
そうなのか?俺もちっこいオッサンとはよく話をしているぞ。だが余計なことは言わないでおこう。暫く待っていると先程の精霊が現れた。
『ふーう、あっちなの。あっちにオッキイのいたの』
チカチカ光って飛んでいく。その後を追ってティアと俺達は進んで行った。背の高い植物の間から巨体が見える。象の二倍以上はあると思われる身体、鎧のような皮膚。
ティアは人差し指を口に当てると、更に近づいた。俺達は立ち止まる。
ティアは背後に回り込み杖を構える。すると声が聞こえる。
「我が灼熱の炎で敵を打て!ファイヤーボール」
炎の玉が数個キングオルラシオンに向かって飛んでいく。不意討ちを受けたキングオルラシオンは声を挙げた。
「ヴォオオオ!!」
ドスドスと地面を揺らしながらティアに向かって走る。ティアはそのまま迎え撃つ。
「灼熱の炎よ、我が前に降り注げ!ファイヤーウォール」
今度は炎がカーテンみたく降り注いだ。だがオルラシオンは止まらない。
「ファイヤ、ファイヤ、ファイヤ!」
連続して小さな炎が飛んでいく。少し足を止めたものの、然程効き目が無いようだ。
『ティアをいじめちゃダメなのー!』
精霊が飛び出してオルラシオンの周りをうろつく。オルラシオンは精霊に気をとられ、足を止める。
「風よ、我に力を!ウインドカッター」
ザクッと背の高い植物がなぎ倒される。風の刃がオルラシオンに当たって少しだけ皮膚を切り裂いた様だ。だが硬い皮に覆われたそれは、うっすらと傷を着けたに過ぎない。
ティアはウエストの辺りをまさぐり、なにか取り出した。
「これでも喰らえ!」
それを投げつけると、土煙を挙げ炎が爆発した。
「ウガァアアアアア!」
土まみれのオルラシオンが怒り狂う。するとあろうことか、奴は俺達を見つけ向かって来た。
「ヤバい、テオ!」
テオはナイフを構え、素早く走って行った。ナイフ何かで間に合うのかと思ったが、テオは地面を蹴るとオルラシオンの頭上までジャンプした。テオ凄い。
「ハッ」
「ギャウアアアア!」
テオがオルラシオンの右目にナイフを突き立て、素早く離れた。オルラシオンは血を流しながらも、テオに向かって行く。
「ブウォオオオオオオ!!」
テオは又も宙に浮いて、オルラシオンの頭に乗った。そのまま向きを変えると左目にもナイフを刺す。
「ヴォウ、グググ」
両目の視界を奪われオルラシオンは地団駄を踏んだ。地面が揺れる。
「土よ、彼の者の脚を止めよ。ティーフモア」
オルラシオンの足元が柔らかな土となり、少し地面にめり込んだ。すかさず攻撃をかける。
「炎よ、熱き雷となり、我が敵を打て。ファイヤボール」
オルラシオンの頭上から火の玉が降り注ぐ。だが焦げた匂いがするものの、致命傷には至らない。
「テオ、何とか出来ないか?」
するとテオは手の平に火の玉を作り出した。ソフトボール位の大きさになると、テオは走りだしオルラシオンの口に突っ込んだ。
「グォオオオ………… 」
暫くするとオルラシオンは動かなくなった。どうやら無事に仕留めた様だ。
「やったわ、貴方凄いのね…… 所でコイツの素材の事なんだけど」
どうやらテオが倒したので、これはテオの獲物と言う事らしい。テオは興味が無いので好きにすればいいと言った。色々話した結果、素材の買い取り金額をティアが支払う形で落ち着いた。
その後はギルドに戻り、討伐の証拠である両耳と牙を持って渡した。たった三人でキングオルラシオンを倒した事に驚かれた。ティアが欲しがっていた爪、牙、皮と肉等を持ち込んで査定してもらい、買い取り金額をテオに渡した。金貨三十枚になった。
残った部位は持ち帰れ無かったので、ギルドの職員が回収し後日手数料を引いた金額がテオに支払われる事になった。荷物持ちの代金も貰った。
別れ際にティアが言う。
「ねえ貴方、テオと言ったわね。私と組まない?二人で依頼をこなせば凄い獲物も倒せるわ」
「断る」
にべもない断りである。その後も執拗に勧誘するがテオは応じない。俺は空気である。
「分かった、でもまた会えたら考えてみて。私は役に立つ。損はさせない」
そうしてティアと別れた後、宿屋へと戻った。
「凄いわ。一杯稼いだのね。テオが居れば怖いもの無しね…… でも何でユキツネに」
エレノアの言いたい事は解る。正直テオは俺が居なくても一人でやっていけるし、俺を護る道理もない。
部屋に戻ると今日貰った報酬の入った袋をテオは渡して来た。
「全部やる。好きに使え」
「これはテオが稼いだものだ。俺には貰えないよ」
「金は腐るほどある。俺は本来は獣だ。だがユキツネの国を作るのには必要だろう」
確かに金は必要だ。だが他人の稼ぎを横取りするのは気が引ける。
「俺には美味しい食事とブラッシングが在ればいい」
どうやらブラッシングは気に入っているようで何よりだ。問答の末、金は使わせてもらう事にした。その夜は何時もより念入りにブラッシングしてやった。
特に予定の無くなった俺達はエレノアの仲間探しを手伝う事にした。エレノアがまだ行ってない東側の区域聞き込みをすると決めた。




