33. 再会、そして戸惑い
大国リンドガルディア。大陸で最も人口の多い国で、現在の王は若くして即位し、都市の発展に貢献している。その大都市の中でエルフを探す。テオの提案で、少しばかり危険な区域を探す事にした。
エレノアが見ていない東側の方に少し寂れた場所がある。裏路地に入ると見事に絡まれた。
「おう、兄ちゃん金だしな 。通行料だよ」
そこへテオが屋根から降り立ち、チンピラ二人の内一人を叩き落とし、もう一人を捕らえる。
「動くな、首をへし折るぞ」
テオがチンピラの首筋に力を込めれば、指の形にへこみが出来る。苦しげに咳き込んだ所でテオが力を緩めた。そこでこの辺で一年位前にやって来た人物は居ないかと尋ねる。
俺が囮となり路地を歩けば、直ぐ様チンピラが寄って来る。それを捕まえては情報を集めた。
幾つかの情報を元にこの街の住人が営む酒場を訪れた。普通の市民には貧民は嫌われるので、この地域の人間が集まる場所が有るのだ。
テオと二人で酒場に入ると独特の臭いが鼻に付く。店内は薄暗く寂れた雰囲気だ。昼間なので酒場は人気が少ない。軽い食事を頼み店主に話を聞く。
「ここ一年で訪れた奴ねえ…… 知らねえな。それよりあんた等随分羽振りが良さそうだねえ」
店主はヘラヘラ笑いながら話すと、奥から男が現れた。ソイツは三角の耳をしている!猫耳来たー!…… って又男かよ。
「知りたきゃ俺と戦いなよ。負けたら其なりの報酬を払って貰うぜ」
「へぇ、じゃあお前が負けたら俺が金を貰えるのか」
テオが立ち上がった。目の前の男は黄色い耳と長い尻尾、そこにヒョウ柄が配色されてる。テオと手触りが違うのだろうか。とても気になる。
「獣人に勝てると思うなよ。こっちへ来いよ」
酒場の後ろの空いたスペースに誘導する。少し出っ張った台があって、見せ物をするスペースの様だ。酒場にいた数人が賭けを始める。どっちが勝つかではない。どの位相手が立っていられるかだ。
テオはマントを羽織ったままだ。獣人の男は苛立ちを見せる。
「そんなもの着て勝てると思ってんのか?お友達に預かって貰えよ」
「お前等、敵ではない」
「そうかい、後悔すんなよっと」
言うなり男はテオに殴りかかった。凄い速さだがテオはすんなりかわす。続けて数発入れるがテオのマントを掠めるばかりだ。
「チョロチョロすんなよ!こ、のッツ」
力を込めるとテオのフードに爪が引っ掛かり、テオの顔が露になった。
「ッツ、てめえ獣混じりか。道理で余裕な筈だぜ。だが、所詮混じり物は本物に勝てないぜ」
テオの耳を見て、ヤジを飛ばしていた観客は押し黙る。獣人の男が優位と思っていたのに、その相手にも獣の耳が付いていたのだ。
男はテオを台の隅迄追いやり肩を掴んだ。刹那━━━━ 。
「ッツ痛つ…… 」
男が崩れ落ちる。テオの蹴りが至近距離で腹に食い込んだ。男がしゃがむと同時にテオの足を取った。
「離さないぜ、これで━━━ 」
男が言い切る前にテオはジャンプした。空中で身を捻るとそのか踵が。ドカッと音がして、台に穴が開く。男の前髪を掠める距離で。固まる男の首をテオが捕った。
「お前の首を折るのは造作も無いことだ」
男はテオを睨んだが、その差は歴善だ。テオの爪が食い込み血が流れる。男は諦め項垂れた。
「俺の敗けだ。認めるよ、完全な敗北だ」
シンと静まった観客立だったが、男に対してヤジが飛ぶ。テオが立ち上がり観客を睨むと誰も口を聞かなかった。
「約束の報酬だが」
「あんたこんなに強いんなら、こんな場末の酒場じゃない場所で稼げるぜ。ああ、でも約束だ。出来るだけ金は払う」
「金は要らない、情報が欲しい」
取り敢えず店の裏側で話をする事になった。男の名はロア。酒場の用心棒をしていて、時折来る力自慢の暴れん坊とやり合っては金を稼ぐ。今までは敗け無しだそうだ。
「新入りの情報ね………… それにしても何でそんな坊っちゃんのお守りなんかしてるんだ?」
ロアは俺を蔑む様に視線を投げる。
「コイツは坊っちゃんじゃない、俺の主だ」
主と言いつつコイツ呼ばわりはどうなのさ。別に尊敬して欲しい訳では無いけどさ。ロアに聞いた話によると一年程前に数人の男女が北の地区に住み着いたそうだ。見た目が良く、最初は絡まれていたらしいが、男も女も結構強いみたいだ。
翌日にエレノアも合流して北の地区に向かう。ここも少し寂れた感じがする。張りぼての建物に頭上にぶら下がる洗濯物、汚物の臭い。正直こんな場所に住みたくない。
数名の男女が暮らすと言う長屋にたどり着いた。古い木造の二階建てで、大きな板であちこち塞いでいる。建物は隙間だらけだ。きっと冬は寒いだろう。
ノックしてみるが反応がない。テオが任せろと言うので見ていたら、ドアに手を賭け扉を引き剥がした。ドコッ!と大きな音を立てて外れる扉。どんな腕力してんだよ。
中に入ると昼間なのに薄暗い。その一階の奥の部屋のノブにテオが手をかける。
「ここだ」
テオがそのままドアを引っ張り外す。ボロ屋が更にボロくなった。テーブルや本棚があるが、誰も居ない。
「この中だ」
テオが壁に手を賭けて、引き剥がす。酷い破壊活動である。ベリベリと剥がれた壁からホコリが舞う。その中に怯える子供の姿があった。
「ユージン!テレサ!カレンも…… 」
エレノアが声を挙げた。怯えていた子供達は涙を流す。
「お姉ちゃ………… 人拐いに捕まったの?」
震える子供達をエレノアが必死に慰める。
「この人たちは悪い人じゃないの。私の大切なお友達だよ」
?何やら気になるフレーズを聞いた気がするが、取り敢えずスルーしておこう。エレノアが新しい土地にエルフの村を作ったと説明した。最初は怯えて出てこなかった子供達だが、エレノアの説得で壁の間から出てきた。
皆痩せている。髪もボサボサで録な暮らしをしていないと解る。エレノアが手持ちのナッツをあげると子供達は喜んで食べた。大人は出かけていて、子供達で留守番をしていた。他人が入って来たら隠れられる様に壁に隙間を作っていたそうだ。
「エルフの子供は人拐いに狙われるから、家から出ちゃ駄目なんだ」
エレノアが楽しく暮らしていた間、人間に怯えて暮らしていた仲間をエレノアはギュっと抱き締める。
「これからは皆で暮らそう。村はジルフィンが村長を勤めていて、とっても快適だよ」
日暮れに帰ってくる大人を待って、留まる事にした。入り口をテオが壊してしまったので、ちっこいオッサンに頼んで修理して貰った。他人の家は管轄外だと渋々直してくれた。
なるべく驚かせたく無いので静かに待っていると、大人が帰って来たようだ。
「テレサ!居るの?ユージン、カレン」
「こっちだよ皆居るよ」
数人の足音が聞こえる。ドタドタと走って来る。やっぱり侵入者の存在に気付かれてしまったみたいだ。
「私よ、エレノアだよ」
エレノアが声をあげると、女性が飛び込んで来た。
「エレ、っこの人達は…… 」
「私の友達だよ。とっても美味しい料理を作るの」
おい、料理人みたいな紹介やめい。前回はそれで料理をする羽目になったんだぞ。他にも警戒しつつ男女が顔を出す。エレノアが俺に自己紹介をしろと言い出した。
「えっと、ユキツネ、ヒヤマです。森に国を作ったので、皆さん来て下さい」
ザワッとその場が空気を変える。険悪な顔で俺を睨む。
「ユキツネはいい王様なんだよ。エルフの村は人間の街と離れているの。ジルフィンが村長になったんだよ」
「ジルフィンが?ダルカスはどうしたんだ」
「ッツ、彼は………… 魔物から私達を、」
エレノアが下唇を噛み締める。それ以上は聞かなかった。彼等のリーダーは命を落としたんだったな。
「でも彼のお陰で私達はユキツネの国にたどり着いた。エルフがエルフとして暮らせる国だよ」
「嘘だ、お前はその男に騙されているんだ」
「そうだ。人間を信用するな!」
俺はポケットからスマホを取り出した。それを皆に見せる。
「これはジルフィンが皆に会えたら見せて欲しいって言ってた映像だ」
スマホの映像を再生する。
「私はジルフィンだ。今はエルフの村の村長を勤める」
「ノルンでーす。エドガーです。リザだよ。…… ユアラ」
「私達はここに村を作った。もしも困っている同胞がいたら、この言葉を聞いて欲しい。*********'******」
ジルフィンが古代エルフ語で何かを話した。それを聞いた大人は驚き、涙を流す。
「ああ、本当に…… 解った、あんたを信用しよう。明日にでも旅立つ支度をする」
「あなた!」
「ジルフィンは嘘はつかない。アイツは誰かに屈しない」
この場で再会を果たしたエルフはエレノアと共に帰還する事になった。勿論俺達も含め、皆一緒にだ。




