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23. 絆

 

 どうも桧山祐紀経です。俺は今、絶賛死にかけております。ギブです。首が絞まってるって。俺の上には男が乗っております。こんな事なら拾うんじゃ無かったよ。


「そこまでだ!」


 バシッと音を立てて何かが飛んできた。縄が蛇みたいに蠢いて、男を拘束した。ジルフィンが助けてくれたようだ。


「うっ、ゴホゴホ」

「大丈夫か?」


「くっそ、ここ、は何処だ」


 獣人の男は身をよじる。


「お前は倒れていた所を、我が王に拾われたのだ」


「王?」


 男はキョロキョロと辺りを見回す。王様が居るような場所に見えないよな。


「ここにいるのが我等が王、ユキツネ殿だ。お前は丸一日寝ていたんだぞ」


「………… そうか、済まなかった。この縄を解いてくれないか」


 ジルフィンは男の拘束を解いた。その瞳も髪と同じダークブルー。丸い耳がピクピクと動いている。


「朝食を用意したから、あっちで食事をしながら話そう」


 テーブルに着くと彼は俺をじっくりと見回す。とても居心地が悪い。まあ王様って紹介された男がTシャツにジーンズ姿だし。

 聞けば男はずっと旅をしているそうだ。出会った時は熊の魔物に追われ、何とか倒したのだが空腹と疲労で気を失ってしまったようだ。


「助けて貰って感謝する」


 三杯目のスープを飲みつつ、男はそう言った。


「俺の名はテオ。見ての通り獣人、だ」


 少し言い淀んだのは余分な耳のせいだろうか。頭の上の丸い耳がピクピクと動いている。


「ここは…… ウェレーイズの街か?」


 国境に一番近い街の名を言う。


「いや、残念ながらここは別の町、もっと言えばエルモニア国でもない。山を越えた森の中の国、ヒ・イズルだ」


 ジルフィンの言葉に目を見開くテオ。


「ハッツ!馬鹿なことを。あの山にはドラゴンが居るんだぞ。例え空を飛べたとしても山は越えられない」


「疑うのは勝手だが、事実だ。我が王は山をも越える」


 おい、何か話が大きくなってんな。トンネル掘ったけれども。ちっこいオッサン達が。先ずは信じさせる為に外へと出た。ログハウスの並ぶ小さな村。取り囲む丸太の柵は建物よりも大きい。そこから見えるのは、濃い緑色の景色。


「そんな…… エルモニアにはこんな場所は無かった筈だ」


 尚も疑うので櫓に登って見ろと促した。櫓に登れば山も見える。下に降りたテオは呆然としていた。


「元の場所に戻るのなら、案内するぞ」


「山の、向こうへは、半年は旅をしなければ。ましてや森に入る等と」


 テオはぶつぶつと呟いていたが、キッと俺を睨む。


「お前が、やったのか?この山を越え、俺をここへ…… 」


「そうだよ。今なら一週間もかからない。戻るなら」


 するとテオは床に頭を擦り付け、土下座した。


「俺をここへ置いてくれ!何でもする。奴隷だって構わない」


 まさかのビックリ発言である。これが可愛い女の子のケモミミだったら心の中で祝福のラッパが鳴り響くが、いかんせんガッチリした男だ。どのみち奴隷は無いけれど。

 しかしここはエルフの村。エルフ以外は住まわせられないので、一旦街へと向かう。街は遠いが一本道の先に見える城にテオは驚いた。


「本当に…… あんな城がこんな森の奥に。夢じゃないのか」


 だよねー。不思議の国の王様、祐紀経です。俺には獣人の方が不思議な存在だが。エルフもドワーフも人間に近いが、ケモミミがピクピク動くのは異世界な感じが増す。


「そういえばテオは尻尾が無いのか?」


 丸い耳だけで尻尾が見えないのは、やっぱり熊さんだからか。そう思ったのだが。


「普段は隠している。耳や尻尾を出すと色々と面倒な事になる」


 そう言って自分のズボンをまさぐると、立派な長い尻尾が現れた。猫 ━━━ それも大型の猫だ。尻尾が揺れているのは苛立っているのだろうか。


 漸く見えた街の門を開く。ちっこいオッサンの活躍により、街は丸太ではなく立派な塀に囲まれていた。城塞都市ヒ・イズル。格好いいよね、中はスカスカだけど。


 メインストリートから広場に出て、城に向かう。城は門が有るけど常に開きっぱなしだ。皆お城に勤めているからね。ここには俺の国の人間しかいないのだ。城に入るとチビッ子が目につく。


「あ、王様だー」

「陛下ーご機嫌よう」

「ヘーカ、ご機嫌?」


 教官役である見回りエルフが居ないと、子供達は自由に過ごす。中には真面目にチャンバラに取り組んでいる子もいるが。


「お前達、そろそろ城へ戻っておいで。あら、陛下。変わった人を連れておいでだねえ」


 子守り役のおばばが現れる。なかなか言うことを聞かない子供に悪戦苦闘している様子。保母さんは大変だな。

 もうすぐ夕方。城はやることも少ないので、日が暮れる前には皆は家に帰る。


「ここは、城なのか。一般人が出入りしているようだが」


 テオの戸惑いも無理はない。立派な城の庭園でチビッ子が駆け回っている。まず他の国じゃ見られない光景だろう。


「ご覧の通り小さな国なんだ。全員が家族みたいなものさ」


「家族………… 」


 城の中へ入ればエプロン姿のメイドさんが赤ん坊を背負って働いている。そこへ外で遊んでいたチビッ子が飛び付く。


「本当に…… 城とは思えない」


「まあ建物だけ立派だけどまだ生まれたての国なんだ。皆がこれから育って行くんだ」


「そうか」


「だからテオも遠慮せず、ここに住んで良いぜ。気に入らなければ出ていってもいいし」


 テオの深い色の瞳が揺れる。何かを考え込む様に━━━ そして。


「ならばお前の護衛として仕えよう。お前は弱そうだし、盾になる位は出来る」


「そうか。なら、俺の国民だな。改めて宜しく。俺はユキツネ、ヒヤマだ」


「俺は━━━━ 何者か知らないのに良いのか?怪しい奴だとは考えないのか」


「俺の国の人は皆訳有りだ。誰もが精一杯生きている。仲間に加わりたいのなら、歓迎するさ」


 こうしてテオは俺の国の仲間に成ることに決まった。何だか色々抱えていそうだが、エルフやドワーフと同様にこの国に居れば、他の人にどうこう言われる筋合いもない。


 これが俺とテオの始まりだった。



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