24. テオの秘密
俺の国に獣人のテオがやって来た。テオは俺の護衛になると言い、現在城に住んでいる。俺以外では初めての住人だ。朝は屋上に続く扉の前に待機している。屋上は俺が招かないと入れなくなっている。
俺は結構朝寝坊するので待たなくて良い、と伝えたが勝手にやっているので気にするなと言われた。気にするさ。
朝食を食べに一階へ降りると、大体俺しか居ない。皆は早起きなのだ。俺が食事を持って席に着くと、テオも向かいの席に着く。特に会話もなく食べ進める。食事を終えると何時もの様に訓練の様子を見る。毎日変わり無いが、暇なので見ている。
それからエレノアの店を冷やかす。
「よう、エレノア。儲かっているか」
「儲かりようが無いわよ。こーんなに美味しいのに」
店先のリンゴをかじるエレノア。大体村で使われる野菜や果物を採って、日が暮れないうちに帰るルーチンワークだ。
少し離れてテオはずっと着いてくる。俺の国で護衛は要らないけど、今はこんな感じ。
「そっちの人ももっと自由に生きれば?ヒ・イズルは自主性を重んじる国よ」
エレノアがテオに声をかけるが、尻尾をゆらゆらと揺らすだけだ。彼の尻尾は子供達に人気だが、周りで騒ぐと睨まれるので、今はまとわりつく子供はいない。
「俺はユキツネに助けられた。だから護る義務がある」
これが隣国だったら頼もしい限りだが、人口百人にも満たない国で事件は起きない。今日はドワーフ達にテオを紹介しようと川沿いの工房へやって来た。
「おお陛下、良く来たのう。今、斧を作っていたんだ」
工房の責任者タロスが出迎える。この所新しい国民の為の小さなナイフや剣を作っていたが、別の物も作りたくなったようだ。タロスは唯一四十代のオッサンドワーフで、貫禄がある。他は以外と若いが、髭面がデフォなので、全員オッサンに見える。
「あ、ユキツネ殿、いらっしゃい」
「ああ、ガザール。新しい住人が来たから紹介しようと思ってさ」
国境の街に一緒に行ったガザールに声をかけられる。他のドワーフもほぼここに居るが、仕事に集中している。
「こっちは獣人のテオ。俺の護衛に就くことになった」
「テオだ」
愛想の欠片もない自己紹介だ。
「獣人とは又…… 陛下は面白いのう。色んな人を惹き付ける。この国は良い国になりそうだ」
この国は異民族の集まりで出来ている。他国では虐げられたりもするが、俺の国ではそんな事はさせない。平和な国で育った俺は事なかれ主義です。
工房を見学した後、城へと引き返す。
「ユキツネ、大事な話がある」
帰り道でテオがそう切り出した。
「何だ、何でも言ってくれ」
自己主張の少ないテオとの距離感が今一掴めない。要望があれば出来る限り応えるつもりだ。
「俺は………… 実は獣人ではない」
「━━━ へえ」
ぶっちゃけテオが何であろうと、一旦受け入れたから国民で有ることに違いはない。だが、テオの話は予想外の物だった。
「俺は、人のふりをしているだけだ。だから本当の姿を見ても驚かないで欲しい」
そう言うと、テオの体が変化した。青みがかった黒の獣の姿に。大きな猫科の獣だ。
「すげえ。触ってもいいか」
『もっと驚くかと思った。触ってみても良いぞ』
俺の前にちょこんとお座りしたテオに近付く。頭から頬を撫でると何とも言えない手触りだ。極上のカーペットみたいな。前足にも触れてみる。太く丈夫な足だ。
「凄いなテオ。帰ったらブラッシングしたいな」
『ブラッシング?』
テオはそう言って人型に戻った。もっと見ていたかったが、城に帰ったら堪能出来るだろうか。
「ユキツネはもっと…… 俺に対して思う所は無いのか」
「えー。ああ、俺はこの世界の人間じゃあ無いから、こっちの普通とか解らん。エルフやドワーフだって居ない場所から来たんだ」
「そうか」
それからテオは沈黙してしまい、城へと戻った。その後はだらだら過ごし、夕飯を食べた。そして屋上にある家にテオを招いた。
「変わった庭だな」
屋上の日本庭園を見たテオの感想。ガラス戸を開けた縁側で待って貰い、荷物を探った。
「あった」
犬用のブラシだ。以前飼っていた犬が亡くなってしまってから、捨てられずに取っておいた品。新品を買ってから数日で居なくなってしまったんだ。
テオに頼んでさっきの姿になって貰う。横になって欲しいと伝えると、やや警戒した感じだったが、横になった。そっとブラシで撫でてみる。
黒っぽい毛並みが揺れる。最初は強ばっていた体も、ブラシで解いて行くと徐々に気持ち良くなってきたみたいだ。ゴロゴロと低い声を出す。
大きい体だから毛が一杯取れる。念入りに解かすと艶が出てきた。反対側も念入りに。テオはすっかり寛いでいる。
「そろそろ部屋に帰るか?」
『ここにいたい。庭を貸してくれ』
テオが庭で寝ると言い出した。それなら部屋に布団を用意すると言ったが、庭が落ち着くと言うので押し入れの座布団を出してやった。
「じゃあな。お休み」
テオはそのまま座布団を抱えて横になる。何だろう、この可愛い生き物は。普段は無愛想がデフォなのに、可愛いとかギャップありすぎだ。出来るならばあのお腹に顔を埋めて寝たいが、流石に変態臭いので言葉にはしなかった。猫も家にいたからあの姿に癒される。
「あれ?そう言えばテオって何なんだ」
『主殿、あれは霊獣ですぞ』
「ワッ!ドノム。急に湧いて出るなよ」
『あ奴等は気難しい生き物なんじゃが。主殿は気に入られた様子。滅多にお目に掛かれませんぞ』
そう言うドノムが珍しい生き物だろう。俺の国は珍しい生き物ばっかりだ。今更だ。ヒ・イズルに新しい仲間が加わった。本当は全身なでくり回したいが、人間の姿で出会ったから自重する。




