22. × × 拾いました
街に住人がやって来て1ヶ月。新しい生活も馴染んで来た様子。訓練を終えた子供達が広場で遊んでいる。やっと街になったなと実感する。
「王様だー」
「王様ご機嫌よう」
「王様って言っちゃ駄目だよ。陛下って呼ぶんだ」
教育中の子供達は精一杯の敬語で話す。いかんせん何時もそこら辺にいる俺に、敬意をはらえと言うのは難しい。子供達を横目にエレノアの店を覗く。
「いらっしゃいませ」
「らっしゃい」
「…… ませ」
「声が小さいわよ!」
エレノアと隣の家具屋が顔を出す。人が通れば声を出す特訓をしているようだ。
「ユキ、王様、ミカン美味しいよ」
うん、知ってる。俺の城の庭で採れたやつだもんな。現在畑は一括してエレノアが管理している。勝手に他の人が採ったりしないように、厨房にもエレノアが届ける。
わずかだが隣国の通貨も流通していて、ドワーフにもお金のやり取りをさせていた。
もう少し資源が整えば、ドワーフが自国の通貨を作ると言っていた。まだ先の話だな。城と店先を覗けば今日の視察が終わる。広場の前だけ見たら立派な街なのにな。
しかし今日の俺は一味違う。こっそり街を抜けて丸太の外壁へ来ていた。
『主殿、参りますぞ』
ちっこいオッサン、ドノムが扉を作り、外へ出る。すかさず幅が広めの道を作った。少しずつ進んで山の方へとやって来た。以前トンネルを作った場所と別の所に穴を空ける。
『えんやぁーホイ、どっこいしょ。道は続くよ何処までも、ホーレほれほれ深い道。やぁよいしょ、よいしょっと』
怪しげな歌と踊りで進めていく。前とは違い幅の広い、大きなトンネルだ。アーチ状のトンネルの上部は煉瓦みたいな石で出来ている。今度は向こう側迄、楽に行き来出来る様に馬車でも通れる程の道だ。
今度は幅が在るため前回よりもゆっくり進む。ある程度進んだら街まで戻った。オッサン達も結構な力を使うので、毎日地道に進める作戦らしい。トンネルの入り口まで戻ったら、入り口に鉄格子の扉が出来た。
『ここの行き来を楽にすれば国民も増やせると言うものじゃ』
『そうじゃそうじゃ。また土地が広がるのう』
ちっこいオッサン達はすっかり街造りに嵌まっている。俺が王様なので国民は家族と同等。家族が増えれば家も拡張しやすい。地球ではひっそりと暮らし力を発揮出来なかった分、今は愉しくて仕方がないみたいだ。
今はまだ家も余っているから街中は弄っても仕方がない。国民を増やすと言う目標に、オッサン等は燃えていた。
俺も大分体力が付いたのでトンネルを作る為の散歩も楽になった。ある程度進んだら、自転車で帰れる様にしよう。自宅で寝泊まりしたいし。
それから毎日少しずつ進んでやっと開通した。途中までは自宅に帰っていたから時間がかかった。出口側の穴は岩の扉が付けられた。簡単に出入りされないように、魔力を登録する仕組みらしい。尚、俺には魔力が殆ど無いそうなので、城と同じ鍵で開く。
久々に来たから買い物でもして帰りたいが、扉の外は隣の国。つまりオッサンの力が及ばない場所だ。多少の防御なら何とかなっても、護衛が居ない俺は出ない方がいい。
引き返そうとしたその時。
ガサガサと草むらを掻き分ける音。魔物が出た!と思いきや人影だった。そのままバタリと倒れて動かない。
「お、おい。大丈夫か」
返事はない。ピクリともしない人物を前に、見捨てる訳にも行くまい。幸い他に何も現れない様なので、意を決して扉から出た。
『主殿、気をつけるのじゃ』
人影に近寄るとどうやら男みたいだ。こんな場合はヒロインとの出会い相場なんだが。いやいや、取り敢えず男を引きずる。俺よりもやや体格のいい男を連れて来るのは大変だった。
トンネルに入ると一旦扉を閉めて、ライトを灯す。マントを被った男をひっくり返すと、その顔が露になった。
「なん、だ、と」
今まで見たことのない青みがかった髪。それ以上に驚いたのが。頭の上の、ちょこんと乗っかった丸い耳。猫耳?いや、熊耳?と言うか…… 。男の獣人かよ!マジでヒロインにしてくれないかな。
いかん、取り乱してしまった。初めての獣人は女の子が良かったなんて思ってないよ、ちょっとしか。うん、改めて考えれば、猫耳の女の子が(多分)この世界には存在するのだ。ビバ、異世界。
良く見るとこの男おかしいな。普通の耳も在るぞ。耳が四つ…… この丸いのは偽物、か。
ガッカリだよ。
ちっこいオッサンに休憩所を作って貰って、石のベットに男を載せる。しかしどうしたものか。連れて帰るには遠いし、放って置くのも気が引ける。
『ワシがジルフィン殿を呼んで来ましょう。エルフの村なら、もう一つの出口まで、直ぐでしょう』
ちっこいオッサンの一人、ゴメスが申し出た。ちっこいのに厳ついオッサンだ。
「宜しく頼むよ」
ちっこいオッサンは光の玉になって飛んでいった。普段は存在感が薄いが、頼りになるな。
それから一時間位経った頃だろうか。エルフが三人やって来た。
「ユキツネ殿、ご無事ですか!」
ジルフィンが何だか焦っている。
「俺は何ともないよ。ただ、行き倒れている人を拾っちゃって」
「なんと…… これは」
細かい説明は後回しにして村へ帰る事にした。エルフの背中に男を乗っけて転移の魔方陣があるトンネルへと移動した。
村の集会所に男を寝かせ、ジルフィンと話をする。
「焦りましたよ。光る精霊がやって来て、一生懸命点滅するので、ユキツネ殿に何かあったのではと。急いで駆けつけました」
急いだ割に時間が掛かったのは、村に男手が居なかったからだ。俺に何かあった場合ジルフィン一人では心許ないと、人を探しに行ったそうだ。
「済まんな。ウチのオッサンが」
俺から離れると姿を現せられないとか。光ってるだけじゃ状況が伝えられないものな。
「いいえ、精霊があの様に現れるとは。それだけでも大したものです」
もう日が傾いて来たのでこのまま男と共に集会所で一泊する事になった。一階の大部屋に寝床を用意してもらう。
「しかし驚きました。この者は人族とのハーフですね」
「え?やっぱり獣人なの」
希に産まれると言う人と獣人のハーフ。その容姿がどっち付かずな者は、人の村でも獣人の村でも暮らせないと言う。彼に耳が四つあるのは顕著な例で、その異様さが受け入れられないのだと。せめてどっちかの特徴だけであれば、良かったのだが。
その日は深い眠りについた。




