21. 隣国と日常と
ここは祐紀経のお隣の国エルモニア国。エルモニアの王であるアルメド・ドゥ・ミランジュは焦っていた。事の始まりは奇妙な親書からだった。
山脈を越えた場所に新しい国を作ったと。
山の向こうは深い森が広がり、開拓出来る様な場所ではない。旅の商人は大きく回り込んでこの国までやって来るのだ。見通しの悪い森では魔物に怯え、入り込む余地もない。
それに加え人を拒むのが、この山である。夏でも白く染まる山頂にはドラゴンの咆哮が鳴り響く。険しい山と最強の生物が人間の侵入を拒んでいた。
それなのに到底人が住むと思えない場所に国を興したと?飛んでもない嘘つきなのか、或いは大賢者なのだろうか。
この大胆なペテン師の正体を掴んでやろうと、初めは考えていたのだ。城に招き入れ、どの様な魔法を使うのか。或いはどれ程の屈強な男なのかと。
よしんば国を興したとしても、あの山は越えられる物ではない。この国の魔法使いと軍隊を総動員しても無理だろう。
そうしてやって来たのはたったの三人。だが、その組み合わせはあり得ない物だった。エルフ族とドワーフ族。どちらも独自の文化を大切にし、他者に屈しない頑固さを持つ。そんな二人を率いるのは、凡庸な男だった。
とても上質で変わったデザインの服を着ているが、それ以外に目立った所は無い。こんな男がどうやってエルフとドワーフに取り入ったのかは分からないが、とても王の器と思えなかった。
軽く挑発をし、我が国で一番剣と魔法を使える騎士に戦って見せろと言いつけて置いた。この男の器を図る為だ。だが予想に反し男はへっぴり腰だ。
やはり国を興した等とはハッタリだったのだろうか。
そう思った矢先だった。騎士の剣が崩れ落ちた。続けて石で造られた玉座が砂と化した。同時に側面の壁も砂となり、崩れてしまった。その時何処からか声が聞こえた。
『我が主を傷つける者は、精霊に敵対すると考えよ』
光の玉が現れ宙を舞った。精霊!それは遠い昔の伝承にしか過ぎない話だった筈。精霊の怒りを買った国は滅びる。次々と声が聞こえ、光が舞う。そうして王は自分の失態を悟ったのだ。
国を興したのはハッタリではなかった。幾つもの精霊が彼の者に力を与えている。
深い森を切り裂き山をも越える力を持つ精霊。その場にいた魔導師は腰を抜かしていた。到底人間では尽力が及ばない相手に喧嘩を売ってしまったのだ。
だが以外にも男は最初の要求以上のものをしなかった。精霊に愛される人間は無欲でいなければ駄目なのだろうか。エルフが、そしてドワーフが彼に従う理由が分かった。
王としてこれ以上間違えては成らない。今更ながらにこの男、ヒ・イズル国を敵に回してはいけないと悟った。
それから三日後、王は各国に通達をした。魔導師により離れた国へもその声は届いた。精霊に護られし国、ヒ・イズル国の誕生を。決して手出ししては成らないと。
その事実は大陸に震撼を与えた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
そんな事は全く知らない祐紀経は畑仕事に精を出す。米ぬかやクズ野菜を隅っこで混ぜていた。
「ユキツネ何してんの?」
「おう、エレノア。これは肥料を作って要るんだ」
「肥料?」
積み上げた野菜は精霊達があっという間に水分を抜いて、干からびさせた。こねくり回して後は自然に任せる。
「土も栄養が無くなって行くからな。養分が必要なんだよ」
「ふぅん」
森で直接食料を得るエルフにとって不思議みたいだ。エルフも多少は栽培もするが、其れほど農業に感心はない。最も俺もそんなに知ってる訳では無いが、土が痩せてしまうと、ちっこいオッサンに言われるから。野菜だって無理やり育てまくっては、栄養が行き届かなくなる。
まあ家庭菜園で育つ植物はサイクルが早いので助かる。それにちっこいオッサンのお陰で野菜の種類が豊富だから、無理に育てずとも色々な野菜が採れる。
「玉子や牛乳も欲しいな」
玉子は時々買ってきてくれるが、牛乳はない。その玉子も其れほど大量には売ってないのだ。
「そっかー。村長に相談してみるよ。村で鳥を育てられれば、ユキツネも食べられるもんね」
この世界にもチーズがあるみたいだから牛乳が欲しいが、流石に村で育てるのは難しいもんな。でも待てよ。
「今度…… プリンを作ってみるか」
「プリン??」
玉子が手に入ったら作らないとな。上手く出来るかは分からないけど。
そんな俺の呟きを受けて、エルフが玉子を買ってきてくれた。十一個も。これで色々作れるな。
「プリン~!」
「プゥーリンー」
「プッ、リン~」
「………… 」
「いや、何故君達は居るのかね」
エレノアと愉快な子供達だ。エルガー少年は訓練中である。
「ユキツネが今日プリン作るって言ったから」
「まだ上手く出来るかは判らんぞ。失敗する可能性もあるし」
うちの姉がお菓子だけは作ってたんだ。簡単な材料だけで出来る。牛乳、玉子、砂糖。牛乳は無い。皆は城の屋上に上がり、こたつに入る。
「DVD見せてー」
「どれでも適当に見ておけ」
テレビに夢中な子供達を置いて料理に取りかかる。先ずは大豆。一晩水に浸けた物をミキサーにかける。それを水と共に鍋にたっぷり入れて、煮る。布で濾して絞れば豆乳の完成。それに溶き卵、砂糖を入れて茶漉しでこす。
それを蒸し器で蒸す。最後にカラメルソースをかければ完成だ。
「出来たぞ」
「ギャアア!」
「ワアアッ!」
「ウオッ!」
「………… ッツ!」
何事かと思いきやどうやらホラー映画を見ていたようだ。アニメでも見ているかと思ったのに。
「ほら、食べてみろ」
プリンの入ったカップとスプーンを配る。思ったより反応が薄いな。だがスプーンを刺すと驚きの声をあげた。
「ユキツネ、これプルプルしてるよ。何なのこれ」
「食べれば分かる」
各々恐る恐る口に運ぶと無言で凄い勢いで食べ初めた。あっという間に完食である。
「プリン美味しい!」
「そりゃ良かった。上手く出来てホッとしたよ。牛乳も無かったし」
俺もプリンを食べる。初めて作ったがなかなかだ。でもやっぱり牛乳のプリンが食べたいな。
「牛乳?!それがあればもっと美味しいの?」
「無理は言わないよ。他の物と違って、新鮮なまま運ぶのも難しいだろうし」
「牛乳のプリン~」
「プリンー」
「プ…… リン」
いかん、エレノアのせいで子供達の期待があがってしまった。俺は王様であって料理人ではない筈なのだが。その後もDVDを楽しんだ四人は村へ帰って行った。




