14. 国民なん人出来るかな
俺が別の世界に降りたってから、大分月日が流れた。一人きりの生活からエルフが加わり、ドワーフもやって来た。何故か折角出来た街には誰も住んでいないが、時折顔を見せる。
中でもエルフの少女エレノアは唯一店を開いて、忙しく行き来していた。隣国へ買い物に行けるようになってから、彼等の生活も潤っている。
「おうエレノア。あけおめことよろ」
「何のまじないなの?」
「俺の国では新しい年になると、こういう挨拶をするものだ」
「ふうん…… 」
エレノアには理解しがたい。例えば俺がエルフに王様認定されているけど、そもそもエルフの社会には王様って制度がない。
長生きイコール尊敬に成っていくので、王を敬うのはピンと来ないそうだ。
エレノアの普段の態度を見ても、王様と話すとかじゃなく、完璧に近所のお兄さん扱いだし。
ドワーフもここが俺の国で良いだろうと、国旗や紋章を考えてくれた。幻の聖獣である鳥をモチーフにした国旗は土、森、水を示す三色で表している。紋章も同様の鳥と十人の精霊を表す玉が描かれる。
しかしながら俺の家の下にある城、その玉座は常に空っぽだ。兵士も居ないし王様である筈の俺は屋上にいる。
そもそもエルフは愚かドワーフだって俺の事はユキツネと呼び、気軽に接する。
それでも街は発展して行く。暇をもて余したちっこいオッサン達は今日も街の拡張に余念がない。
只の踏み固めた土だった地面は石畳になり、少しずつ小振りな建物も増えた。ランタンを設置できる街灯が綺麗に並んでいるが、勿論無人の街に灯りが灯る事はない。
城の前のだだっ広いだけだった場所も、整えられた芝が生え、シンメトリーの美しい庭園になった。
ちっこいオッサン達はもっと街を作りたいらしいが、人が増えないと拡張出来ないと残念がっている。
『主殿、もっと人を増やしましょう』
『そうじゃそうじゃ。ワシら折角人がおるのに力が発揮出来ん』
エルフもドワーフも離れて住んでいるから、そっちは余りいじれなかった。要望があれば多少の設備も作るが、殆ど自分達で作って事足りるみたいだった。
「増やすって言ってもなあ」
大体俺は王様なんて柄じゃないし、こんなへんぴな場所に誰が来るって言うんだ。
『国を興した事を宣言しましょう』
『そうじゃ、首都に行って隣の国の王様に会ってこよう』
勝手な事を宣うオッサン共。
現在エルフ達は国境の街から足を伸ばし、とうとう隣の国、エルモニア国の首都へとたどり着いた。転移場所もその近くに設置して、首都まで買い物に行けるようになった。
だからといっていち庶民の俺が王様に会える訳がない。だけどこの話を聞いてエルフの皆は乗り気だった。
「先ずは親書を送りましょう」
「国を興した事を宣言し、手続きを経て認められれば良いのです」
ここは俺がいた世界みたいに端から端まで国境が決められている訳ではない。魔物と言う存在が人類の繁栄を拒んでいるのだ。
どんなに小さくとも周りの国に認められれば国家として成り立つ。
大きな国には必ず貧しい者がいる。様々な理由で貧困に陥った人を受け入れれば、人が増えるのでは?と。
幸いにも家が有り、食料も有る。今日の食事にも困った人達は、喜んで着いてくるだろう。と言うのが皆の総意だった。
ドワーフ達も人が欲しいと言っていた。現在物資も乏しく一つの工房で作業している彼等だが元々は皆、大なり小なりの工房を持っていた。
腕の良い職人が集まればより良い物が造れるが、現状では家具が殆どで、皆一人一人で造っている。そして下働きがいない。
全員が親方なのに造るのが家具ばかりで、技術を受け継ぐ人が居ないのだ。彼等はもの造りに飢えていた。もっと良い物を造りたい。それを受け継ぐ人も買う人もいない。
だけどそれを声高に言ったりはしなかった。国を飛び出した時点で、もう職人には戻れないかもと考えていた。しかしここにたどり着いた事で、再びもの造りの喜びに出会えた、と。
どんどん造られる家具は、城の空き部屋に収まらない程度になっている。新築された建物にはもれなく家具が配置され、もう十分だと言っても止まらない。
皆が望んでいた。人が増える事を。
俺も隣人は欲しいが出来れば国民ではなく、対等な立場の人間が欲しい。今だってそんなに敬われている感が無いけどさ。
「で、私に相談するの?前も言ったけど、私には王様ってピンと来ないんだよね」
「仕方ないだろ。ここで話し相手ってエレノアしか居ないんだ」
城の裏庭の畑に出入りするエレノア相手に話をする。毎日新鮮な野菜を収穫し、土を落として店に運ぶ。
時には見回りのエルフが見慣れぬ野菜を買い求め、ドワーフも出来上がった品を納めたついでに野菜を持って行く。
夕方近くになればエレノアは店先に並べた品を村に持って帰る。毎日大変だなと声を掛ければ、そうでもないと。
エルフの男達は毎日狩に出かける。女も狩に出るそうで、夫婦の場合は交代で出たりもする。だがエレノアは狩に参加出来ない。彼女は今十七才で、人間で言えば立派な成人と認められるが、長生きなエルフの社会では、子供の部類と言えよう。
独り立ちには早すぎるし、まるっきり子供でもない。
旅の途中で両親とはぐれたらしいが、大人として認められず、子供でもないエレノアは、仕事がない。だから食料の運搬を始めたのだ。
「ユキツネがしたいようにすれば良いんじゃない。ユキツネの国なんだもん」
そんな風に思えるのは若さ故の特権なのか。だが、ここに住んでいる人がいる以上、ここを居心地の良い場所に変えていかねばならないのだろう。
俺は腹をくくらなきゃいけないのか。




