13. 遠い場所
俺が初めて売りに行った果物は大好評だった。少し高めの値段設定にもかかわらず、次々売れた。俺の畑でとれる果実は大きくて甘い。そんな物が纏まって手に入いるのは少ない。
エルフの二人もアクセサリー等の小物を売って金を稼いだ。そうして最後に買い物を済ませ、村へと戻った。
次の日にはエルフがガザールを迎えに行って、戻って来た。ガザールは荷車に溢れんばかりの品を載せて帰って来た。
「何がそんなに載っているんだ?」
街の広場に着いたガザールに聞くと、小麦粉や塩の他にガラクタを沢山載せている。
「これは鉄屑さ。不用品を安く回収してきたんだ」
鉄屑を溶かして新しい道具を作るそうだ。しかしよく見れば他にも大きな龜が積まれている。
「あれはなんだ?」
「ああ、これは俺達の命の水さ!」
ドワーフの命の水、酒の入った龜が積まれていた。ドワーフと言えば酒だな。ドワーフ一同のたっての希望で、酒を買ってきた。
そうして何度か買い物に行き、季節は冬を迎えようとしていた。エルフは森の木の実や野草を保存食として蓄える。干し肉等も多めに買って冬に備えた。
この辺は雪は余り降らないようで、凄く厳しい寒さにはならないみたいだ。
ある日エレノアが元気よくやって来た。
「ユキツネ例のあれ、出来たよ」
「何、本当か」
例のあれ、とは大分前にエルフに頼んでいた物である。畑で取れた大豆を何とか出来ないものかと。醤油と味噌造り。
エルフの村にも発酵食品があるので、何とか作れないものかと頼んでいたのだ。
幸いにも爺さんの持っていた本に数少ないヒントがあった。発酵食品や家庭菜園、野菜を活かした料理の本。ちっこいオッサンが様々なものを育ててくれるので、それを活用させる為の本。
早速料理をしてみようと家に帰ることにすると、エレノアが着いて行きたいと申し出た。
「ユキツネの料理って変わってるし、前から部屋も見てみたかったんだよね」
「何にも無いぞ」
城の中は見せた事がある。ガランと広いだけのお城。いちいち屋上に登るのは良い運動と割りきる。
初めて屋上に出たエレノアは息を飲んだ。
「わっ、凄い」
屋上には日本庭園が広がる。自分では見慣れた景色だったが、庭園なんて無いものな。
「凄いよユキツネ、屋上に庭が有るなんて。しかもとっても変わった植物が生えてるね」
「俺の故郷の物だからな。あれは松の木って言うんだ」
松の木に白砂。小さな太鼓橋がかかり灯籠が配置されている。家具は作れない癖に庭は作れるちっこいオッサン共。
「さあこれが俺の家だ」
引き戸を開けると中に入る。玄関で靴を脱ぐように促す。
「以外と狭いんだね」
「元々はここだけだったんだ」
部屋の扉を開けるとこたつが目に飛び込む。
「ユキツネあれ、お布団?何か四角いし上に板が乗ってるよ」
「あれはこたつ。冬に足を暖める物だ。このスイッチを入れて暫くすれば、離れられなくなる恐ろしいアイテムなんだ」
「まっさかー」
ケタケタと笑うエレノアにミカンを差し出す。おこたと言えばミカン。
「ミカンでも食って待っていろ。味噌を味あわせてやるよ」
「やったー!楽しみだよ」
エレノアを残し台所へ向かう。ご飯も無いのに味噌汁じゃ味気ないな。前に貰った猪の肉を入れて豚汁を作るか。
エルフが作ってくれた味噌は色が薄く、良い香りがする。少し舐めてみればうん、味噌の味だ。
味噌もこっちへ来て暫くはあったんだけど、使えば減るもんだ。だがこれで味噌汁が飲める。
醤油は味噌を作る過程で出来る。だから醤油も作って貰った。これも薄い色をしている。
肉や野菜を薄く切って煮込み手早く豚汁を作った。豚じゃないって突っ込みはナシで。部屋に入るとエレノアが丸くなっている。
「ユキツネ、これ何なの。足だけなのにスッゴく身体が暖かいよ」
「そうだろう。冬になればもっと良い感じになる」
豚汁をこたつの天板に置き、お椀に二人分よそう。
「ユキツネ、この変な棒は何?」
「これはお箸と言って、これを使って食べるんだ」
俺はお箸を持って両手を合わせて一礼して食べる。お箸の使い方を見せるために。
「うん、上手く出来てる。美味しい味噌だよ」
エルフが試行錯誤して作ってくれた味噌。少し熟成が足りないようだが、立派な味噌汁だ。
俺に続いてエレノアが味噌汁を啜る。
「うわ、あれがこんな味になるんだ。美味しいね」
よかった。正直初めての味噌は食べなれない人には、受け入れられないかと懸念したが、大丈夫みたいだ。
「それよりも気になる事が有るんだけど…… 」
「何だ?嫌いな具でも入っていたのか」
「違うよお肉。これって猪じゃないの?前に捕ってきてから随分経っていると思うけど。新鮮なお肉みたいじゃない」
そう、肉と言えば狩りに行ったもの以外だと、塩漬けか干し肉。それが普通だろう。冷蔵庫で保存していると説明してもいまいちな顔なので、実際に見てもらった。
「えー!お肉カッチカチだよ。氷の魔法なの?」
電気の説明をするが、勿論分からない。俺も詳しい仕組みは知らないので、とにかく食材を冷やして保存するものと教えた。
「あと気になっていたんだけど、あのツルッとした黒い
板は何なの」
こたつから見やすい位置にあるテレビを指指す。
「これはテレビ。えーと、映像を記録して見たりするんだ」
これもサッパリ伝わらない。こっちの世界には電波なんて無いものな。ふとテレビ台の下のDVDが目につく。子供向けのアニメが少しだけ並んでいた。近所の子供にでも見せていたのだろうか。
「エレノアにおあつらえ向きのがあるから、見せてやるよ」
電源を付け、DVDをセットしてみせる。
「ワッ!!ええ?絵が動いてるよ。ナニコレ」
おっかなびっくりDVDを観賞する。しかし意外な事が判明した。エレノアは登場人物が何を喋っているか分からないのだ。仕方ないので説明してやる。
「これは意地悪な継母に毒リンゴを食べさせられる話だよ」
「継母?毒リンゴ?」
大まかなストーリーを話してやると、エルフには理解出来ない話だと言われた。エルフは子供を大切にしていて、血が繋がらなくても皆でそだてる。他人の美しさに嫉妬するのも、意味が分からない。エルフは皆、美形だものな。
七人の小人はユキツネの精霊かと聞かれる。うん、十人のオッサンと似てるよなこれ。アニメみたく可愛くないけど。
もっと他にないかと聞かれ、じゃあアニメではなく実写を見せてやろうと別の物をセットした。
「えー!何で。小っちゃい人が入っているよこれ」
世界各地の列車で旅する人をひたすら映す映像はエレノアの好奇心を煽った。美しい映像、素早く走る列車、そこに写される人々。あれはあれはと質問を繰り返すエレノア。
「凄いねユキツネの世界は。信じられない物ばかりだよ」
「そうだろうとも。凄い技術を持っているんだぞ」
別に俺が凄い訳でははないが。しかし久しぶりに見た地球の風景は俺の里心を煽った。ずっと忘れた振りをして生きてきたが、もう遠い昔の記憶みたいだ。
だからといって元の職場には戻りたくはない。予定とは全く違うけど、スローライフなのは間違い無かった。
俺は逃げ出したんだ。都会から。煮詰まった人間関係から。
不便な事だらけでも今は俺の居場所がここにはある。
きっと、多分。




