11.初めてのお使い②
ピピピピピ…… 起きなさいユキツネもう朝よ。待って眠いんだ母さん、ああ俺はいつ実家に帰ったのか。就職して帰って無い気がする。学生じゃ無いんだから寝てても良いだろう。
だって俺、家を貰ったし。暫くは何も考えずに過ごすんだ。あの嫌味ったらしい上司もいないこの場所で。
「ユキツネってば!」
「うわっ」
気付けばエレノアがライトを当てていた。眩しくて飛び起きる。
「この道具便利ね。自家発電?て言うの。魔石も魔力も使わずに使い続けるなんて凄いわよね」
そうだった此処は異世界 ──── グリフィールワーナとか言ったっけ?地球ではない場所。
手回し式のラジオ付き懐中電灯だが、ラジオの意味がない。ここまで地球の電波が届く筈もないのだから。スマホが充電できるのは有難いが。
スマホは使えなくても日付や時刻とか解るし。1日の周期は地球と変わり無いみたいだ。
時刻は朝の七時三十一分。俺としては早起きだが、夜明けと共に目覚めるエレノアとしてはもう遅い時間。
簡単に朝食を終えると今回の最大の目的である、買い物に出かける。塩や小麦粉がメインで、流石にじゃがいもとか売っただけでは布は手に入らないだろう。
だが家に有るもので売れそうな物も持って来た。爺さんの古着である。ある程度整理してあったので、大して品数は無いが此方では古着が売れると聞いて持って来た。半纏や下ばきのシャツ、靴下とか。
もう持ち主がいないから売ってもバチは当たらないと思う。
先ずはエレノアと古着屋に向かった。くたびれた外観の店の扉を開くと厳ついおばさんが店番をしている。
「こんにちは、あの買い取りをして欲しいのですが」
「いらっしゃい、まずは物を見せてご覧」
エレノアがおずおずと尋ねると、憮然として言い放つ。手持ちのリュックから出そうとすると。
「待った、そのカバンは何だい。とっても変わっているねえ」
リュックサックが気になったようだった。見たこともない布で出来た光沢のあるカバン。ジッパーを開けると仕切りに感心していた。是非とも売って欲しいと言われる。
「カバンは売れませんよ。売るのは中身です」
半纏や肌着を取り出すと、またもや驚きの声をあげる。
「こりゃあ新品同様じゃないか。しかもこの布何だい、凄い伸びるよ」
肌着を手にすると、おばさんは驚いていた。保温効果のある、暖か下着である。半纏も好評価であった。
「参ったねぇ。ウチはこんなに良い商品は扱って無いんだよ。こんなのお貴族様が着る物だろう」
「どうしても売りたいんです。少しでも買って貰えませんか」
色々交渉した結果、半数を買い取って貰った。対価として金貨と古着を少し譲ってもらえる事になった。
「ユキツネ凄いわね。金貨三枚にもなるなんて。これで大金持ちだよ」
物価には疎いが大金持ちではないだろう。その足で市場に出向き、塩や小麦粉を買い求める。小麦粉はもっと欲しいけど、重いのである程度で諦める。
それから布を売っている店に行く。布を買って帰ればエルフ達が色々縫ってくれるみたいだし。
予想通り布は高かった。手持ちの金貨を使って買い求めた布を洞窟へと運ぶ。
「ユキツネここでエルフの叡智を集めたこれの出番よ」
洞窟に作られた休憩するための部屋に着くと、不思議な色の珠を地面に埋め込む。それから何やら長々と呪文を唱えていると、地面に魔方陣が浮き上がった。
「これで準備が整ったわ。村まで一瞬で転移出来るわよ」
エレノアと共に俺と買い揃えた品を載せた自転車は光に包まれる。
古代エルフの言語だと言うそれを口にすると、景色が歪んだ。おお、何か異世界っぽいよななんて思っていると、木目に囲まれた部屋へとたどり着いた。
「ここは…… 」
「村の中心部、集会所よ」
あれほど苦労した道のりを一瞬でたどり着いてしまった。あの珠は大勢のエルフが魔力を長い年月をかけて創るそうで、そうそう気軽に扱える品ではないようだ。
今後も物流のために買い物が必要であるから、設置したのだ。真っ暗な場所を何日も移動しなくて済むようになった。これは有難い。
「エレノア、帰ったのか!」
すぐに気配を察してジルフィンが俺達のいる部屋のドアを開けた。たまたまここに来ていたらしい。
ジルフィンはこの村の村長になった。本人はそんな器ではないと言ったらしいが、この集団のリーダーが亡くなってから、ジルフィンが皆を引っ張って来たのだ。
集会所は村長の住む家でもあり、皆の拠り所にもなっていた。
俺達の無事の帰還を喜び、持ち帰った品を受けとる。
「ユキツネ殿、この品々で貴方の為に出来るだけの物をつくろう」
そんな風に言うが俺は衣服に困っていないので、皆の役に立つ物を優先して欲しいと伝えた。するとジルフィンは大袈裟に膝をつき、我が王の御心に感謝しますという。
正直背中がムズムズする。学芸会の主役に急に抜擢されてしまった気分。
王様なんて柄じゃないしそんなつもりもなかったから。
それから家に帰るとドワーフ達が待っていた。
「ユキツネ殿お帰り。ご無事で何よりじゃい」
ドワーフ族の代表であるタロスが言った。それからこんな事を言い出した。
「ユキツネ殿、実はワシら川辺の方に住みたいんじゃ」
ドワーフ族はもの作りの名人である。今までも色々作って来たが、工房を造りたいのだとか。
鉄を打つには川の周辺が良く、音もうるさいので人里離れた方が良いと。
折角出来た隣人だが、エルフは村を作ったのにドワーフは別、とはいかないだろう。ちっこいオッサン達によると、エルフの村の反対側の方に進んで行けば川があると言うので、翌日そちらへ赴く事となった。
『皆の者、張り切って参るぞ』
『おう!』
例によって謎の踊りと共に行進して行く。
『ハァーよっこいしょ、よっこいしょ。エンヤァセこーらぁドッコイショ。進むよ進む、目的地はまだか~い』
今日は大分調子が良いようだ。変な唄も交えて進んで行く。二時間も進めば目的地へと着いた。其処からちっこいオッサンが輪になって踊ると、大きな建物を作った。
これまでの物とは違い、頑丈な土壁で出来た建物。一階の大きな部屋の奥は壁の一部が棚になっているようだ。
更に進むとどうやらここが火事場である。大きな窯と小振りな窯。床に出っ張りやへこみがあるのは、鉄を打ったり冷やしたりする場所だとか。
基本ドワーフは工房で寝泊まりするので建物の上の階で住むらしいが、個人の住居も必要かと十戸程建てる。
街に戻りタロスに報告し、直ぐにでも見てみたいとドワーフ全員で川の方へ歩く。建物が見えてくるとドワーフ達は息を飲んだ。
「こりゃあ一体…… 」
「皆が働く工房だ。もしも使い勝手が悪かったらいってくれ」
まあちっこいオッサンが建てた物だから、内装は俺にはサッパリなんだけど。すると何故かタロスは床に伏せた。
「ユキツネ殿、感謝します。ワシら当分はもう仕事が出来んと思ってた」
「そうだな。こんな立派な工房…… 職人冥利に尽きる」
「そうだ。ユキツネ殿がエルフに信頼されてる訳が理解できたよ。ここまでされたら、一生付いて行くしかないのう」
その場の全員が膝をつき、頭を垂れた。精霊が勝手に建てたのだと促すが、全員暫くは平伏したままだった。
「ここまで立派な工房が出来たのだから、ユキツネ殿の為に立派な道具を創るぞ」
「応、まだまだ足りないものだらけだが、張り切っていこう」
「なあ皆。俺はユキツネ殿を俺らの王様と認める。皆はどうだ」
「そうじゃ、エルフ同様にワシらもこの国を発展させようじゃないか」
何だか俺を置き去りにして変な盛り上がりをみせる集団。定住してくれるのは有難いが、やっぱり王様扱いなのか。
複雑な気分である。




