表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺様日記~魔界行~  作者: 清野詠一
26/27

そして全てがプロローグ③



小高い岩の上に佇む謎の鎧武者氏。

戦国期の当世具足に身を包み立っている姿は、傍目から見たら何だか五月人形のようであった。

と、謎の鎧武者さんは軽やかに岩から飛び降りるや、地に着く直前、その姿が消えた。

そして次の瞬間には、俺達の目の前に立っていた。

『漢』の文字が描かれた前立の付いた兜と目元から下を覆う面頬で、その素顔は分からない。

年寄りのような、それでいて若いような、そんな不思議な気配を纏っている。

鎧武者氏はチラリと俺達を一瞥し、小さな溜息を吐くと、

「剣に封じておいたアマ・デトワールで何とか座標を特定したが、それでもギリギリのタイミングとは。ふん、やはりこれも因果の流れの一つか」

独り言のように呟いた。


「……お主、何者じゃ?」

グライアイが眉間に小さな皺を寄せて尋ねる。

だが鎧武者氏はそれには答えず、軽く目元に笑みを浮かべると手を突き出し、

「グレーターヒーリング」

淡い光が、プルーデンスを包んだ。

彼女の傷が、見る見る内に塞がって行く。

ただ彼女はまだグッタリとしていた。

「……傷は治した。が、魔力は……いや、これもまた因果の一つか」

そう言って、アリアンロッドに顔を向けた。

敵である彼女を見つめるその瞳は、不思議と何処か遠い過去を見つめるような優しさがあった。


一体、何者なんだ、この鎧武者さんは……

全く分からんけど、なんか……なんちゅうか、妙な親近感が沸くと言うか……


「アリアンロッド。ここは退け。そしてプロセルピナに伝えろ。この一件から手を引かねば、この私が直々に相手をするとな」


「……何者か知らんが、随分と舐めた口を聞く」

アリアンロッドは不快気に眉を潜ませると、片腕を突き出し、

「魔力の満ちた私を相手に、その余裕の態度……いつまで続くかな。サウザンド・ネガティブ・スピア」

その掌から、黒いオーラを纏った無数の針が、謎の鎧武者さん目掛けて飛んで来た。

もちろんその数の多さから、彼だけではなく、その背後にいる俺達も標的だ。


くっ、これは拙い!!当たったら超痛そうだ!!


グライアイが咄嗟に手を振り、残り少ない魔力でシールドを張ろうとするが、それよりも早く鎧武者氏が手を翳し、

「ミラー・ウォール」

全面に薄ピンク色をした半透明の壁が形成された。

高速で飛んで来た無数の針がそれにぶち当たるや、それはカウンターとなってそのまま逆にアリアンロッド目掛けて打ち出される。

魔姫の二つ名を持つ彼女は「チッ」と短く舌打ちし、

「アブソルート・シールド」

全面に灰褐色の魔法の盾を作り出し、跳ね返された攻撃を更に防いだ。

「ダイレクトカウンターか……ふん、少しはやる。なら、これはどうだ」

アリアンロッドは両の腕を軽く広げる。

と、右の掌には炎が巻き起こり、左の掌には水柱が立った。

それを見て、横に居るグライアイが軽く驚きの声を上げる。

「ケイオスマジック!?混沌なる相克の崩壊かえ?」


「はは、そうだ。相反する属性魔法が融合した時、それは混沌と破壊をもたらす」

言ってアリアンロッドは掌を突き合わせるや、炎と水が螺旋状になって打ち出された。

だが、謎の鎧武者さんは動じる事無く、

「ウォーターシールド&ファイヤーシールド・カウントレス」

呟くように魔法を詠唱するや、前面に炎で出来た薄い盾と水で出来た薄い盾が幾つも現れた。

それはまるでパイ生地のように幾層にも重なっている。

そしてその盾にアリアンロッドの混合魔法が撃ち当たり、薄い盾を打ち抜き打ち抜き……次第にその攻撃は威力が弱まり、やがて消滅した。


「何じゃと…」

グライアイが呟く。

アリアンロッドは眉間に大きく皺の谷間を作りながら、

「馬鹿な。この私のケイオスマジックを容易く……」


「……はは、これが混沌魔法とは。融合ではなく、単に二属性の魔法を折り重ねただけだ。だから防御も容易い。反属性のシールドを張れば良いのだからな」


「く…」


「本当のケイオスマジックとは、こう言う物だ」

謎の鎧武者氏は掌を上に向けると

「崩壊のベシュティロン」

そこに回転する炎の塊が現れた。

しかもその中心には、逆回転している水の塊。

「そして威力は、この通りだ」

と、軽くそれを放り投げる。

刹那、巨大な爆発が巻き起こった。

もちろん俺達には何の被害も無い。

謎の鎧武者が、瞬時に強固なシールドを張ったからだ。


スゲェ……

魔法の事は良く分からんけど、ともかくこの謎の鎧武者さん、滅茶苦茶に強ぇ……


爆発の後に目の前に展開していたのは、大きなクレーターだった。

アリアンロッドもシールド魔法で辛うじて防御していたようだが、ところどころ傷を負っている。

「き、貴様ぁぁぁ」


「ここで退け、アリアンロッド」


「舐めるなッ!!」

アリアンロッドは腰の後ろに両の手を回し、柄の着いた太い針のような武器を引き抜いた。


ん?あれは……

確か、俺のファンタジィ知識に拠れば、スティレットとか武器だ。

中世、鎖帷子やフルプレートアーマーの普及に伴い、対抗するために造られた武器だったと言う記憶がある。

細く鋭いその針のような武器は、帷子を貫いたり、鎧の繋ぎ目を狙って刺したり出来る。

ただ、強度的に短剣サイズぐらいの長さしかないので、接近戦でしか使えない副武器だ。


「トリプルマジック・シャドウ・エクスキューショナー!!」

アリアンロッドが地に拳を着きながら叫ぶ。

それと同時に、先程現れた黒い霧の塊のような化け物が、地面から吹き出るようにして召喚された。

しかも今度は三体だ。

更にアリアンロッドは

「オーバーステータス。ネガティブ・エナジー」

その三体に何やら魔法を掛けた。

恐らく、能力向上系のバフか何かだろう。

その魔法の影響だろうか、三体の化け物は、更に身体を巨体化させた。

四本の腕も六本に増えている。

「行け!!」

アリアンロッドの命令と共に、三対の腕にそれぞれ武器を装備した煙の化け物が、突進して来る。

その後ろから、アリアンロッドも両の手にスティレットを構え、駆けて来た。


「……やれやれ」

と、小さな、本当に小さな呟き声が、微かに俺の耳に届いた。

「致し方なし。少しだけ、本気を出すか」

謎の鎧武者氏はそう言うと、腰に下げた剣を引き抜く。

それと同時に、「―ッ!?」と息を呑むグライアイ。

その剣は、淡い光を放っていた。

しかも煌くエフェクト効果でも掛けられているのか、刃の動きに併せて金色の鱗紛のような物が舞い散る。

なんだか知らんけど、カッチョエエと言う感じだ。

俺も一振り欲しいぞよ。


「ふむ……ホーリーセンブス」

謎の鎧武者さんはその煌く剣を突き出し、淡々とした口調で囁くや、剣より七色の光が溢れ、それはそのまま巨大な矢となって迫り来る化け物を次々と射抜き、殆ど一瞬で消滅させてしまった。

が、その間隙を突き、何時の間にか至近にまで迫っていたアリアンロッドが、腕を伸ばしながらスティレットを突き出していた。


「貰った!!」


「……城塞フェストゥンク


「――ッ!?」

ガキン!!と甲高い音を立て、アリアンロッドの手にした武器が容易く弾き返された。

更に謎の鎧武者氏は

「フェーズスラッシュ」

軽やかに剣を水平に振った。


「くっ……」

アリアンロッドは素早く軽やかな動きで飛び退るが、地に足が着くと同時に、何かしらの衝撃へ受け、更に後方へと吹き飛ばされた。

「なッ!?ば、馬鹿な……なんだ今のは。魔法による遅延攻撃か?」


「違うな。空間を切り裂き、お前の存在するポイントに斬撃を打ち込んだ」


「な、なんだと……」

ギリギリと、此方まで歯軋りの音が聞こえてきそうな顔で鎧武者氏を睨みつけるアリアンロッド。

だが、不意にその目が大きく見開かれると、微かに上擦った声で、

「ば、馬鹿な。その剣は……まさか……エクセルバードか」


「……さよう」


「やはりかえ」

グライアイが呟いた。

「九皇の剣の一振り、エクセルバード……又の名を七支星剣」


「九皇の剣?」

何それ?また新たな厨二ワードが……


「魔界、人界、それに神界、三つの世界にそれぞれ三振りずつしかないと云われる、至高の剣じゃ。この魔界では、一振りは我が怨敵、プロセルピナが所有しており、もう一振りは……噂では東部を支配する魔神・黒百合姫が所有していると聞いた。そして残る一振りは永らく所在不明だったのじゃが……」


「馬鹿なッ!!何故に貴様が……しかもどうして容易く扱える!!九皇の剣は、最強の魔神であるプロセルピナ様でも制御が難しいと言うのに……貴様、本当に何者だ」


「……もう一度言うぞ、アリアンロッド。ここは退け。そしてプロセルピナに、この件からは手を引くように伝えろ」

謎の鎧武者氏はそう言って、剣を鞘に仕舞う。

「あぁ、それともう一つ。お前が万が一の時に備えて隠しておいた最後の手段……グライアイとの国境付近に密かに配していた刺客ども、百匹程度だったか?ここに来るまでの間に全て始末しておいたぞ」


「……」


「消えろ、アリアンロッド。既に策は破れた」


「ま、待ちゃれ」

声を発したのはグライアイだった。

謎の鎧武者氏を何処か訝し気な瞳で睨み付け、

「お主……一体どちらの味方なのかえ」


え?ナニイッテンノ?

だって鎧武者さん、俺達を助けてくれたんだけど……


「お主の力なら、容易くアリアンロッドを屠れように……何故に手を抜き、あまつさえ見逃そうとするのじゃ」


あ、言われてみれば確かに……


「ふむ……我は因果の流れを見守る者。故に、アリアンロッドに手は下さぬ。何故なら、彼の者もまた大いなる因果の流れの一つ」


「その因果の流れとは、なんじゃ?」


「……ふ」

と、小さく鼻を鳴らし、謎の鎧武者さんは何故か俺を見つめた。

「心せよ、神代洸一。今、これより、そなたの永き旅が始まる。常に警戒と修行を怠るな」


「え?あ、はい……って、何の事ですか?」


「……で、アリアンロッドよ。どうする?」


おや?スルーですかい……


「ふ、何者か知らぬが、九皇の剣を操る者が相手ではな」

アリアンロッドはこれ見よがしに両の手を広げ、ヤレヤレと言った仕草。

瞬間、『ガキィンッ!!』と鋭い金属音が俺の脇で鳴り響き、グライアイとプルーデンスの足元に、粉々に砕けた金属片が散らばった。

良く見るとそれは、アリアンロッドが手にしていたスティレットだ。


「……読んでいたぞ、アリンロッド」


「座興よ」

魔姫アリアンロッドは低く笑うと、軽く溜息を吐き

「今日の所は退散するとしよう。ふ…グライアイ、いつか戦場で会えることを楽しみにしているぞ」

そう言うや、転移系の魔法でも使ったのか、一瞬で目の前から姿が消えたのだった。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ