1話
遥か太古の昔、神が世界を作りそして人を作った。
人は神の寵愛を受け、人は神を敬い共に寄り添い長き時が過ぎた。
時の流れ一度欲望を満たす悦びを覚えた人間の中に、さらに欲望を満たす為に自ら人である事を捨てる者たちが現れる。
その者たちは自らを魔人と名乗るようになり、欲望の為に人である事も、人の形である事も捨て異形の物へと変わって行く。
そして、その魔人達の中に魔人達を統べる王が現れる。
魔神の王の欲望の矛先は神の力に向き、神と魔王の戦いが始まる。
長き戦いの末、神は魔人を滅ぼし魔王を地の底に封印する事に成功するも、神もその傷を癒すのにとても永い眠りが必要になってしまった。
眠りに付いている間に魔王が復活してしまう事を危惧した神が最後の力を振り絞り、
魔王に対抗する為の12本の武器を作りそれに魂を込めた。
力を使い果たし眠りに付く神が最後に、武器の魂に語り掛ける・・・
「いつしか、お前達を手にする事が出来る適合者が現れるだろう。
しかし、お前達を手にしても直ぐにはお前達を使いこなす事は出来ない。
手にした者に寄り添い、助け合い、魔王に抗う為の力を育てよ。」
神の言葉を聞いた魂達は言いつけを守り、魔王の力を退け平和を守り続けた。
人々は神の作りし武器を聖剣や聖槍などと呼び、「聖なる11の力」と崇め奉るようになる。
・・・ここまで飽きもせず読んで下さった方の中にはお気付きの方もいるかもしれないが、
「聖なる11の力」そう、一本足りないのである。
このお話は、作られてから何度もあった危機に、適合者が現れず今の今まで一度も世に出る事が出来なかった残念な武器と、
その残念な武器を手にしてしまった女の子のお話である。
私の前には【私】を手にしつつ、ポカンと口を開けたままこちらを見つめる女の子がいる。
その子に微笑みながら私は囁く。
「私は神が作りし12の武器の一つ、カシエ・・・あなたが手にしている杖の女神です。
【私】を手にする事が出来た少女よ・・・私と共に、魔王を打ち滅ぼしましょう。」
決まった!
ずっと・・・ずっと練っていた出会いのセリフをやっと言える事が出来た。
姉さんたちはさっさと適合者が現れてこの殺風景の神殿から出る事が出来たのに、
私には全く適合者が現れず、ホコリにまみれて放置される日々・・・
でも、これでこの神殿から出る事が出来る。
さぁ、【私】を手にした娘さん、ぼけっとしてないでもっと狂喜乱舞していいのよ?
「あの・・・魔王ってまだいるんですか?」
「・・・へ?」
「ですから、魔王ってこの間、倒されましたよね?
聖剣を持った勇者様と、聖槍を持った戦士様と、聖爪を持った武闘家様と、あと聖棍を持った僧侶様に。」
「・・・えっ?」
いま、何て言ったの?
ま、魔王が倒されたの?
私たちの仕事って神様の傷が回復するまで魔王の復活を足止めする事じゃないの?
「あ・・・あの・・・魔王が倒されったって、ホント?」
「うん。 勇者様たちの凱旋パレードでね、勇者様の掲げた聖剣から綺麗な女神さまが現れて、
私はサンドラこの剣の女神です、勇者とその一行によって魔王は倒しました。
って言ってたの見たよ。」
あの真面目一辺倒なサンドラ姉さんが人間をだますなんてありえない。
本当に、魔王は倒されてしまったのかしら?
それなら、私は一度も世に出る事も無く世界が平和になってしまったの?
「よいしょ。」
「ちょっ何してるの?」
【私】を台座に戻した少女に思わず声を掛ける。
「ん? 元の場所に戻しただけだよ。 それじゃ。」
「まっ待って。 どうして、どうして置いて行っちゃうの?」
「だって、呪いの装備って持ったまま部屋を出ると呪われちゃうって、ギルド学校で習った。」
呪いですって!?
この私が・・・神様に作られたこの私が呪いの装備ですって?
「待ちなさい! この私が、呪いの装備ですって?
神に作られたこの私を愚弄するとは許しませんよっ」
「うそだ、神様が作ったのは11本でその中に杖なんて無かったもん。嘘ついて呪う気なんでしょ?」
「11本?」
「うん。 神様の作った聖なる武器は11本。
ちゃんと11本の武器と宿る女神様が教科書に載ってるし。」
どうしよう。
私に適合者が現れなかったからって、こんな事になっていたなんて。
「ね、ねぇ・・・私は本当に神様に作られた武器なのよ。 呪いの装備じゃないのよ。」
「証拠は?」
「えっと、その・・・」
「じゃっ」
このままじゃあの子が出て行っちゃう、
次に【私】を持つ事が出来る人間なんていつ現れるかなんてわからないのに。
「お願いっ私をここから出して。 もう、もう嫌なの!
こんな暗い部屋でずっと埃をかぶったまま長い年月を一人で過ごすなんて。
姉さんたちみたいに人に使ってもらって、沢山の人に役に立ちたいのっ
私を連れて行ってください。」
「ふぅ・・・仕方ないなぁ。」
あぁ、私の願いが通じたのね。
「あら? 何かしらその瓶? きゃっ、あのっちょっと、冷たいんだけど、ねぇってば。」
「聖水。」
「へ?」
「だから聖水、しかも結構高い奴。」
「な、なんで?」
「呪われたら嫌だから。」
まだ、呪いの装備だって思われているのね、私。
「大丈夫よ、約束するわ。 だから、その、もう【私】ビチョビチョなんですけど。」
「用心には、用心を重ねる事って学校で習った。」
「・・・そう。」
「よしっこのくらいで良いか。 よっと。」
あぁ、人の手の温もりと言うのがこんなにも心地よいものだとは・・・
「あの、改めてですが、私はカシヤこの杖の女神です。 これから宜しくね。」
「私はアイラ、短い間だけど宜しく。」
「え? 短い間?」
「うん、町に戻ったら武器屋に売る。」
売るって、どこまで私の事を信用してくれないのかしら?
「アイラさん、あのね・・・」
「アイラでいいよ、カシヤ。」
「じゃあ、アイラって呼ばせてもらうわね。
でね、【私】を売るって言うけど、【私】の適合者であるアイラにしか、【私】を扱う事が出来ないわ。
お店で売ったとしても、装備できる人が居ないから買い取って貰えないと思うの・・・」
「・・・マジ?」
「えっと・・・マジ。」
あら?アイラったらどうしたのかしら急に振り返って。
出口は後ろよ。
「要らない。」
「ちょ、ちょっと待って、台座に戻さないで。」
「せっかく高い聖水まで使ったのに、1ゴールドの価値もないなんて・・・」
「お願い、回れ右!回れ右してっ
ねっそうだ、あれよ、お試しっ、お試し期間。 私をちょっとの期間で良いから使ってみて。
納得の使い心地だから。 ねっねっ。」
「使うって?」
ちょっとだけ心が動いてくれたのね、今がチャンスだわ!
「あのねアイラ、私を装備すると、マジックポイントの上昇から、威力の底上げ、それに発動補助で詠唱だっていらなくなるの、近くに置いておくだけで魔力の回復は勿論、体力の回復から身体強化もするし。」
「へー」
「まだまだあるのよ、柄の部分が伸縮自在なのよ。 それに姉さんたちと・・・聖剣とかと打ち合えるくらい固いの。
だから、遠くから魔法を打つだけじゃなくて、敵に近づかれても【私】で攻撃をいなして、無詠唱でズドンとか出来るのよ。」
「ふむ。」
良かった、台座に戻すのをやめてくれたのね。
「ねぇカシヤ?」
「なぁに?」
「カシヤは固いんだよね?」
「勿論! そこら辺の石に叩きつけったって傷一つつかないわよ。」
「そか、でも叩きつけられたら痛いの?」
「? 傷一つつかないんだから痛いわけないじゃない。」
「じゃぁ、お試し期間なんだから、試させてもらうねっと。」
ズガンッ
「おー、凄い。 岩が粉々だ。」
「アイラ? 急にどうしたの?」
「カシヤの力を試したんだよ。 こりゃビックリだ。」
「試すって、私の力を試すなら魔法を使えばいいのに・・・」
「あたし、魔法使えないよ。」
・・・へ?
「魔法使えないの?」
「うん。」
「全く?」
「マジックポイント0だし。」
「ウソ・・・それじゃあ、私の存在意義ってどうなるの?」
「えっと、鈍器?」
そんな、やっと適合者に出会えたのに、
私、魔法の杖なのに・・・魔法が使えない人が私のマスターになるなんて・・・
助けて神様。




