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死臭女神  作者: 駿河留守
3章 -悪魔釣り-
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悪魔の臭い-1

 放課後、矢田部くんと谷川先輩に止められたが今日は一旦捜査を休むとだけ言って逃げるように学校を出た。涼元さんとも休み時間にすれ違ったりしたが、俺へ向ける目は怒りで溢れ出そうだった。それから逃げるように教室に入ったりトイレに入ったりした。井東先生にも放課後呼び出されたが、HRの時に少し休ませて欲しいとだけ告げて教室を後にした。麻乃さんとは一度も口を利いていない。きっと、彼女の中でも俺と同じように迷っているんだろう。誰を信じて誰を疑えばいいのか。

 迷い苦しんでいるところに死の臭いを持つ女神からのメールは俺の心を少しだけ軽くした。バカみたいな内容のメールは俺の苦悩をあざ笑うかのようだった。それを迷う俺に道を示そうとする女神の声にも思えた。

 俺の中でもはや志州は犯人じゃないという決定的な感情はない。志州も立派な犯人候補のひとりだ。成木たちと同じように。でも、他の犯人候補とは違ってかかった呼び出しになんの抵抗もなく俺は志州の住むアパートの前にやってきた。エントランスに入ってテンキーで206を押して呼び出すとすぐに出た。

「入って」

 すぐ脇の自動ドアが開いた。階段を上ってすぐ強烈な悪異臭が俺の鼻を突く。久々に嗅ぐ臭いだ。思わずふらついて階段を踏み外すところだった。階段を上ってすぐの206号室の前にはすでに志州が待っていた。

「公園で話そ」

 と言って俺の真横をすっと通って階段を二段飛ばしで降りていった。後を追うと志州はすでにエントランスを出てとおりにいた。俺がアパートから出るのを確認すると駆け足で公園のほうに行った。得に追いかける気もなく歩いて公園に向かうと志州はベンチに腰掛けて待っていた。そこで俺は違和感に気付いて足を止める。

「お前どうした?」

「何が?」

 かわいく首を傾げやがって。

「俺の風上に入らないようにしてるだろ。しかも・・・・・・無臭タイプの消臭剤でも使ってるのか?」

「・・・・・犬山は強い臭いが混ざるのが嫌いだった言うからわざわざ選んだんだけど。私から死臭がするって言ってたし。だから、この間も吐いたんでしょ」

 気にしてたのか。まぁ、今までこの鼻でどれだけの女の子に臭いのことを素直に話して泣かせたかわからないからな。志州のそういう面では女の子か。でも、何よりうれしいのは俺の鼻を信じて対策をしてくれることだ。風下に立ったり、無臭タイプの消臭剤を使ってくれたり、成木と同じだ。

「悪いな。ひどいこと言ったみたいで」

「別に。気にしてなんかないし」

 ぽんぽんと志州は自分の隣に座れと合図を送ってくるので素直にしたがって座る。

 公園では子供たちが楽しそうに遊具で遊んでいる。それを大人たちが何の心配もなくおしゃべりしている。

「平和よね」

「だな」

「この街には殺人犯がいるのに、なんで誰も怖がらないわけ。バカじゃないの」

 殺人犯。波羅くんを殺した奴のことだ。

「志州が学校に行かないのは怖いからか?」

 ふと思ったことを聞いてみる。

「それもひとつある。でも、それよりも怖いものが今はたくさんあるから行かない」

 噂だ。偽りを真実に変えてしまいそうな力を持つものだ。実際に俺の中でも涼元さんの放った偽りが真実何じゃないかって思ってしまっているところがある。でも、他の犯人候補とは違って志州といると落ち着いて話すことができた。

「確かに・・・・・・志州は波羅くんを殺したりなんかしないもんな」

 さりげなくのつもりだったが。

「私を疑ってるの?」

 女って言うのはどうしてこう鋭いんだよ。

 だから、嘘を言わずに正直に話す。

「もう、誰が犯人なのかわからなくなったよ。あいつの言っていることが嘘なのか本当なのか。信じていいのか信じるべきじゃないのか。俺は迷ってるよ。迷う挙句に何も信じられなくなってる。志州の言葉も」

 思ったことをありのままで伝える。

 拒絶されると思った。結局俺も涼元さんと同じなんだって。しかし。

「疑うって言うのは難しいよね」

 志州は拒絶しなかった。

「犬山は誰か犯人なのかわからないでしょ?」

「ああ」

「だから、誰が犯人なのかいろんな人に話を聞いたり、アリバイの裏づけをしたりしてるんでしょ」

 そういえば、まだ麻乃さんのアリバイの裏づけをしていなかったなと思った。明日にでも裏づけを取っておこう。

「見えない犯人を、波羅くんを殺した悪魔を捜すのは難しい。だって、間違えたら私に受けているこの状態を関係のない他人に押し付けただけだし」

 そうだな。

「犯人はあの学校の中にいるよ」

「それは・・・・・なんとなくだが予想できる」

 と言っても確証を得たのは成木の情報を得てからだが。

「私は・・・・・」

 次の志州の言葉に俺は度肝を抜く。

「このまま犯人を見つけ出さなくてもいいんじゃないかなって思う」

「はぁ。いきなり何言い出すんだよ」

「言ったよね。この事件は何かが変だって」

 その言葉の意味が俺には未だに理解できずにいた。いや、証拠が出て犯人がわかればすぐにわかることだろうと思っていた。でも、未だに犯人が誰なのか分からないからこの言葉の意味が理解できないまま現在に至っている。麻乃さんが言っていた。見直しが必要だと。見直しの重要さに俺は今始めて気付く。

 俺の捜査の発端は志州だ。彼女を犯人の疑いを晴らすために動いているが、それともうひとつ気になることがあるんだ。この事件は何がおかしい。そもそも、波羅くんが自殺って言うこと事態がおかしいことだった。自殺する理由がまったく見当がつかない。悩みがあっても抱え込むことはなく、井東先生や矢田部くんに吐き出している。つまり、悩みやストレスはバカなりに多少感じているものの発散の仕方を知っている。なら、波羅くんは殺されたんだ。じゃあ、なんで殺されたんだ。麻乃さんの無茶振りに答えてクラスを明るくする、持ち前の明るさでサッカー部を引っ張る、ひとりの女を虜にする、波羅くんのどこに殺される要因がある?今まで聞いてきた話の中でヒントはあったんじゃないのか?誰が嘘を言っていて真実を言っているかはどうでもいい。なんだ?俺はどこに違和感を感じた。

 ―――瞬間に俺の頭の中で今までの捜査の会話が走馬灯みたいに脳の中を駆け巡る。波羅くんの声、志州の声、麻乃さんの声、井東先生の声、谷川先輩の声、涼元さんの声、矢田部くんの声。そこにほんの小さい。気をつけてなければ見失ってしまいそうなしこりを俺は見つけ出した気がした。いや、それはもはや捜査も証拠集めもアリバイ調査も関係ない。俺のただの勘だ。女の子ほどは鋭くない鈍い勘だが、志州の言うとおり

「・・・・・・・犬山?」

「ああ。そうだよ、志州」

 わけがわからなさそうに首をかしげる。

「この事件はやっぱり変だ」

 犯人はあいつなのか?いや、そんなはずはないありえない。

 この違和感を核心に変える方法はを俺はひとつ思いついた。

 だが、それは同時にここまで慣れた強烈な悪異臭に再び耐えうることができなくなってしまうかもしれない。

「どうした?犬山?」

 心配そうな眼差しだ。

 何を心配してるんだよ。

 だが、今は確証を得るのはこれしか方法が思いつかない。いや、そもそもこの推理があっているかもわからない。それを確かめるためにあの臭いを覚えている間に確かめる必要がある。

「ちょっと、確証を得てくる」

 立ち上がる俺を志州が止める。服の裾を掴んで。

「何をするの?」

 志州はきっとわかっているのかもしれない。

「大丈夫だ」

 前ほど俺は弱くない。成木に志州。俺のことを信じてくれる人がふたりもいるんだ。幸せ者じゃないか。

「必ず戻ってくる」

 その強い意思はもう変えられない。それを志州は感じ取ったようで掴んだ服の裾を離す。

 一歩進んだところで俺は振り返る。

「安心しろ。絶対に戻ってくる」

 これは自分自身にも投げた言葉だ。

「待ってるから。ここで」

 心配そうな眼差しながらもじっと俺のことを信じてくれた。その気持ちに俺は答えるしかない。確証を得て、倒れることなく戻ってくる。この鼻を使って波羅くんを殺した悪魔を見つけ出してやる。

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