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001. 酒気帯びはなんだって危ないです



 だってよぉおめでたいじゃねえか、これでこの国も安泰ってもんだ、と午後一で来た客で元兵士のおっさんがガハハと笑うもので、そうだよなーめでないよなーと他人事のそれに乗っかることにした。

 すぐさま店に閉店看板をぶらさげて、国の慶事だと浮かれる城下の下町へ向けて、すでに酒臭かった元兵士のおっさんと肩を組み、足の悪いそのにわかな相棒を半ば担ぎ上げるようにして酒場へ繰り出した。


「おうおう今日は俺の奢りだー! てめぇら吐くまで飲みやがれ!」


 どこにも豪気な奴はいる。目当てはそいつが奢るタダ酒。盛り上がる席に紛れ込んで飲んで飲んで飲んで―――― 見ず知らずの他人が混ざってても、すっかり出来上がった酔っ払いどもは気にしない。むしろ「祝い事は出来るだけ大勢で」が平民の基本。


 そんなものだ。平和でいいことじゃないかと男も安酒を煽る。


 いつの間にか初めに肩を組んでたおっさんとは違う酒場に流れたようで、よぉ相棒と呼ぶむさいオヤジがころころ変わる。そいつが今日初めて会うのか知り合いなのか、そんなことすらあやふやだ。

 陽気で騒がしい笑いに混じってると、確かによくわからないが自分も嬉しいような気になる。不思議なことだ。だが悪くない。


 国の慶事だというそれは、十二巡月も終わりに近づく今朝未明、第四王子の妃が男児を生んだという話。


 王家の世継ぎでもあるまいし、国規模の祝い事かと首を傾げるのは他国から来た旅人くらいだ。

 なぜならこの王子妃、異世界から落ちてきたという大層珍しい逸話を持っている。眉唾物にしか思えないそれも、暇な民にとっては非常に面白い。第四王子の恋人が異世界人だと噂が立ったころから、その娘は大人気だった。


 民衆に煽られる形で第四王子とその娘の結婚はあれよあれよと進められ、砂糖を吐きたくなるほど仲のいい二人にようやく生まれた第一子が今回の子供なのだ。

 未だにグダグダものを言うやつがいるとすれば、血筋と伝統と権力をこよなく愛しながらも、当時彼らを邪魔するだけの力もなかった一部の貴族くらいで。


 何はともあれ、タダ酒のネタをくれるんなら王家だって悪党だって万歳だと、男は思う。


「じゃあアンタ、まさか昼過ぎから今までずっと酒浸りですか!」

「うっせ、頭に響くばかやろ。つうか何でいるんだ、お前は」


 やたらめったら綺麗な顔がひょいと覗き込んできたかと思えば、ほら行きますよと飲みかけの酒を奪われそうになる。おいおいおい、あと三口残ってんだよと男はそれに抵抗した。


「まだ飲むー」

「飲み過ぎ。何時だと思ってんです」

「ええ? 知らん。で、何でいるんだ」

「アンタが遠話の術式飛ばして来たんでしょうが。『一緒に飲もうよ~』なんて気色悪いネコナデ声出したかと思えば、大声で知らないやつらと歌いだすし」

「えー、してねえよぉ」

「しました。俺はまだ仕事中で部屋に部下だっていたってのに、何であの術式、受け取る側が許可する前に展開するんですか」


 繰り手に似て失礼千万な術式だと、生理中の女みたいにぷりぷり怒っている。


「そういうこと言うから結婚できないんです」

「出来ない言うな。まだ募集すらしてねえよ」


 婚活中で比類なき連敗記録を持ってるのは騎士団長じゃねえかと、男は鼻を鳴らした。


「アンタあの人と同い年でしょう」

「あいつの婚活歴ナメんな。十九からこれまで積極的に見合いしてきてアレだぞ」


 絵に描いたような威風堂々の騎士団長といった姿、地位に見合った実力、義理堅く部下想いな性格だし、爵位も金も持ってる。世間一般の目にはそう映る。


 だが結婚できない。

 なぜなら騎士団長は気を抜くと女言葉になるから。性的思考はノーマルでも、趣味的思考は完全に女だ。ストレス溜まるとレース編みと刺繍を駆使してドレスを作り始めるし、小動物を思わせるものにはだいたい悶絶しているし、甘い菓子が好き過ぎる。

 男前な女のような、女の懐の深さを持った男のような―――― とにかく人間としてはいい奴だ。

 けれど世の中とは上手くいかないなあと、男は残る酒を飲みほした。


 空のジョッキを掲げておかわりーと店主に言った男を、ものすごく残念な目で見る美形な青年。おいこらお前こそ酒場で水なんて飲んでんじゃねえよと言えば、渋々と麦酒を頼む。


「なあんだよ、お前も大ジョッキじゃん」

「こんな兄弟子持ったら飲まずにいられない……」

「うはは。師匠は選べても家族と兄弟弟子は選べねえからな」

「はあ……」


 若人の癖に溜息が板についている。


 そういえば五年前の失恋時にも鬱陶しいくらいに息を吐いて、思い出したように荒れていたような。

 街中の浮かれ騒ぎのかたわら、関係者渦中に近いはずの美形青年はそれほど祝祭ムードではない。通常業務なんて滞る騒ぎが起きたろうに、普通に仕事をしたというあたりからして、努めて平常心で居ようとした葛藤がうかがえる(かもしれない)。


「何ニマニマしてんですか」

「まあ飲め飲め」


 つまみのチーズと煮込みも頼んでやろう。安心しろ、あそこでテーブルに立ちあがって大演説ぶってる髭親父の奢りだと肩を叩いてやる。


 そこでふと、弟弟子の立場と仕事で思い出した。


「あれ。今夜って祝賀会とか開かれてるんじゃねえ?」


 ふわふわした脳内の記憶をほじくりかえす。

 その昔、今日めでたく新米父親になった王子もろとも王家の子供がたちが生まれた日には、王城では盛大に王侯貴族が集まったような気がしたが。


「あー。それはほら、出産後の王子妃に家族総出でべったり張り付いてるし……」


 遠い目をする弟弟子。

 苦労してる目だなあと、ニイチャン弟子は涙が出るよと頷いてやる。


 平和な国の平和な王家でけっこうだが。現国王夫妻も、王太子とその妃にはすでに世継ぎが生まれているはずなのだが、孫は何人でも可愛いのだろう。

 問題は夫たる第四王子が妻に付きっ切りなのはいいとしても、その他の兄弟王子たちは間違いなく余計な祝賀から逃げるべく、どさくさに紛れようとしている魂胆が透けて見える。


 男がちらりと見遣ったむかつくほど美形な弟弟子は、確か第四王子妃の二つ下の年だったかと思う。すると二十三? 若い。若いがまあそろそろ、貴族でも平民でも結婚適齢期って感じじゃないかと思いついた。


「お前、今のところいいなあと思う女いないのか」

「何です藪から棒に」

「仕事人間ってのもつまらんだろうが。黒髪童顔系がいいなら探すぞ? 貧乳ならなおよしか?」

「ちがうわばかしね」


 眉間に皺を寄せていた弟弟子だが、ああ、とばかりにせっかく整った顔に可愛くない妙な笑いを浮かべた。こういうときは碌なことを言わない。


「そういうアンタは金髪長身巨乳美女ってとこですか」

「ちがああああああああああああう!!」


 男は立ちあがった。ジョッキが倒れた。そして絶叫した。


 零れた中身が弟弟子の腕を濡らしたようだが気にしない。店中がなんだなんだと男を見るがそれも知らない。


 違うんだ。違うんだよ! 誰もわかってくれないんだあああ……と顔を覆う。


「お、落ち着け」

「落ち着いてほしくば平身低頭お願いしろ」

「アンタもう飲むなよ! 平気そうな顔してこの立派な酔っ払いが!」


 キレた弟弟子の声が脳内でぐわんぐわんと反響した。

 しかし断じて酔っぱらってなどいないと男は大声で主張した。この長年続く誤解を晴らさないことには死ぬにも死ねないのだ。


「誰なんだよ、俺が金髪長身巨乳が好きとか流したの! 違うよ。全然違うよ。むしろ恐怖の対象だよ」

「世界中の該当者に謝った方がいいです」


 冗談じゃない。怖すぎて謝れないんだと首を振る。


「もーなんなんだよー。寄ってくる女、勧められる女、みんながみんな金髪で背が高くて巨乳って俺から何か怪しいものでも出てるのか!」

「お色気系な妖艶美女がそんなに嫌いですか」

「パーツごとに分断すればまだ平気なんだよ……」


 本当はそれらの要素を避けた女がいい。金髪、長身、巨乳、流し目が似合うような色気のある美女。どれか一つでも当てはまると、ふとした瞬間に開けてはならない記憶の箱が音を立て始める。


「でも正直に言いますけど、アンタはいかにもそういう女が好きそうに見えるんです」

「知ってる。だから困ってんだろうが」


 肉感的な美女を数人侍らせてワハハと笑ってそうなと言ったのは、あの乙女趣味騎士団長だ。


 くそ。顔が濃いからってそうだと思うな!

 誰が夜毎娼館通いをしている色情家か!


 この弟弟子くらいの年齢が一番遊んだ頃だろうが、前述の特徴全てを持つ女とトラウマ克服を兼ねて誘われるまま宿に入れば、寝台入りして四半刻も経たないうちに平手打ちされて別れる羽目になった。

 宿に行くまで腕を組んでいた辺りから冷や汗と眩暈が止まらず、いざことに及ぼうという前段階、ぽってり唇を寄せられた瞬間に男が盛大にリバースしたんだから当然だ。


 時が経つにつれて悟りを開いた男は、しなだれかかられる程度では顔色を変えずに済ませるまでに成長したが、それ以上は無理だ。男女の関係は絶対無理。リバース再び。相手も自分も深い傷を負うこと必須だ。


 だがそういう女が苦手なのだと正直に話しても、男の顔は信用を勝ち取らない。またまたーと笑われて、あの女どうよと指差されるのは、だからそれは無理なんだってというタイプ。


 そしてまた悪いことに、男の見てくれはそういう女にけっこうモテる。


 今もほら。酒場の奥で給仕女の二人組がこっちを見ている。

 一人は青系の濃い髪色のようだが、ぼんきゅっぼんの文句のない体型に自信がありそう。そしてもう一人は、金髪だ、胸も尻もある、背はそれほど高くないが舌なめずりが似合いそうな真っ赤な口紅をしている。

 美形な弟弟子の方が目的だよなと思いたいのに、それは青髪女だけのようで、恐々とする男と目が合った金髪はもったいぶった片目の瞑り方をした。


「あ゛ああああ」

「わかりましたよ。帰りましょうよ」


 はいはいとしきりに頷く弟弟子が、半身に潜り込むようにしてくる。

 野郎がすり寄るなと言ってやりが、面白いくらいに丸椅子から立ち上がってからの二足歩行が難しい。


「右足と左足を交互に出すんです」

「しってるわ。ばかにすんな」

「はあ……馬鹿」


 店を出れば、日はすっかり落ちてそれはもう見事な冬の夜空が広がっていた。

 いつもなら人気も少なくなりそうな時間なのだろうが、祝い事に湧く城下は今晩はきっと眠らないんだろう。


 外套もなしに通りを歩いているが、冷えた空気が顔に当たるのが心地いいくらいだった。


「ちょっとアンタの家って結界張ってますよね。自力転移してくんないと―――― って聞いてます? 理解できますか。こんな大男を俺に運べと?」

 

 何やら言っているがよくわからない。

 よたよたと男の重みによろめく弟弟子がなんだか面白くなってきて、ほら頑張れと騎士団応援歌を歌ってやったら一度路上に捨てられた。






   * * *






「あー、きったないなあ、もう。だから結婚でもして嫁もらえって……」


 どうやら家には辿りついたようだと、男は陽気に歌う妖精が棲みついた頭で理解した。

 中に入れたということは、無意識にでもちゃんと解錠の術式を編めたらしい。


 居住空間に対してぶつぶつ文句を言う弟弟子は、長椅子に男を乱暴に転がした。


「だぁら、すすめられるおんながみんなよめむきじゃないってーの」

「ああまあ、確かに。経済観念なさそうな匂いがしてましたね」


 元娼婦でも花売りでも食堂の給仕でも、仕事の貴賤はどうだっていいが、家庭向きじゃない女を勧めて結婚どうよってそりゃないだろうと男は憤慨する。

 自営業で他人が考えるよりは多めな稼ぎはあるし、この弟弟子のようなツテもある。けれど湯水のように散財しそうな女は、心底惚れてるというのでもなければ御免こうむりたいのが、自分に限らず世の男の常だと思うのだが。


 装飾品の一つ二つでも与えとけば機嫌良しなのも楽だが、それはお互いに楽しんで遊ぼうという軽い付き合いだからこそなのであって、隣り合う墓まで一緒にいようと近い相手に欲しい要素ではない。

 割と常識外のことをしてきた自覚のある男だが、その点は保守的な人間と言えた。

 

「じゃあせめて手伝いとか呼べばいいのに」

「さわったらばくはつするのがそこにあるんだよぉ」

「だから! そういうのを生活空間に置かないように、嫁必要だろ。嫁がいれば危険物持ち込まないだろ」

「なるほろ……」


 弟分はときどき……いやけっこう頭がいい。


 はあやれやれと息を吐く弟弟子が何やらゴソゴソ動いている。ついでにそこに山となっているナニカでも片づけているんだろう。

 基本は外食だし、洗い物は洗濯屋に頼んでるから臭そうなものはない。

 だがまあ部屋は汚いだろう。物が多すぎる。


 昔は師匠と一緒にこの弟弟子とも暮らしていた。何もできない捨てられたガキだったはずが、知らぬ間に世話女房のような几帳面さを持つに至っている。

 上下関係を身に着けさせる前に師匠と男を朝起こして夜寝付かせるようになり、術式を覚えさせるより前に整理整頓と家事能力を身に着けていた。

 いい弟弟子(下僕)であると男は思う。


 だが確かに。いつまでも弟弟子に生活環境を整えてもらうというのもまずいだろう。

 適齢期入りした弟分にはいい加減に失恋忘却のために嫁でもほしいし、そのためには兄弟子が先に片付くというのも手だ。


 おおそう考えれば結婚に前向きになってきたぞと、男は笑った。

 たまには兄弟子らしく、弟弟子の見本となるのもいいじゃないか。


「よめさんいいかも、どっかからつれてこよ」

「どっかってどこです。また適当いわないでくださいよ」

「おれのこのみな、おれをすいてくれるおんながきっといるはずにゃ!」

「にゃ、言うな。犯罪だぞ」


 そうとなれば善は急げだ。

 周りの紹介は当てにならない。男が発する何かも当てにならん。金髪長身巨乳は駄目なのに……。


 男が一番頼みにしているものといえば術式だ。師匠について修行して、独り立ちを許され早十五年。この腕一本で食ってきたのだから当然のこと。

 ときには強力すぎて地位を追われることもあったが、もともと興味がなかったからそれもまたよし。自分の術式が導く結果に文句などあるはずもない。


 さてならばやることは一つだ。


「……何してんです?」


 タダ酒の力か非常に調子がいい。


 同時に編める術式は平常で二百か三百というところだが、やろうと思えば今晩は四百の大台にも乗るかもしれない。

 けれど今は記録への挑戦ではなく、日常生活でも度々使う術式にひたすら条件を組み込むだけだ。


 訝しげにうかがってくる弟弟子の問いを無視して、男は軽く目を閉じ、合わせた掌の小さな空間に力を練り始めた。


 髪の色にこだわりがないが手入れはきちんとしている方がいい。肌も同じく。身長は……まあなんでもいいか。自分と並べばみんな小柄な女に見える。胸は美乳、これだ。大きさじゃないんだ形なんだ。触り心地は太腿とか腹とか二の腕とかに求めてる。ぽっちゃりでも気にしないが、骨の細そうなのがいい。頭小さく、顔立ちに派手さはいらない。そこはうっかりするとトラウマに抵触する。丁寧な造りで笑顔の自然なのがいい。健康で働き者で経済観念のしっかりした、でもケチじゃなく、落ち着いた声の、芯があっていざというとき度胸のある、ときどき甘えたな――――


「わはは。いでよ、そんなりそうのおれのよめ!」


 年の差は上下ともに十以内で頼む、と男は最後に付け加えた。


 両手をがばりと宙に放れば、編んだ術式が男の真上に銀朱の光となって展開する。 

 基本形の円に複雑なレースのような模様を描くのは、ありったけの願望を詰め込んだからだ。独り身の情熱そのものだ。


「ほんっとに何してんです!?」


 ざっとそれに目を走らせた弟弟子が騒いだのとほぼ同時。


 突然に激しく明滅し始めた術式の眩しさに眇めた目に映ったのは、円の中心から滴り落ちてくるような影。とろりと落ちる水銀のようなそれに手を伸ばせば、すぐさま腕の中に確かな重量が生まれ、何かの形を取る。


 やばい、ヒト族に限るって条文つけてねえなと男は思ったが、後の祭り。


 だが、やってしまったかと一瞬過ぎったそれを晴らすかのように、それは小柄で華奢な人形を取って色づいた。目の認識が追いつくかつかないかのうちに、男に乗り上げる質感がしっかりとした骨に肉をまといつつも、どこか頼りなげにふにゃりととやわらかいものだとわかる。


 ―――― 男を見つめる瞳は、眠たいのか今にも落ちそうだ。


 閉じかかるのをこらえる瞼が、静脈さえ透かしそうな薄さなことに男は思わず喉を鳴らした。

 高低さはそれほどないが小作りで嫌みのない顔立ち、痩せすぎていない細身の身体。肌はなんだか美味そうなクリーム色。髪はたぶん栗色だ。瞳は相当濃い色で、おそらくは黒に近い焦げ茶か。


 ヒト族なのは確かだ。成功だ。


 嫁(予定)は自分の足場を確かめるかのように、抱える男の青く墨の入った腕や、分厚い胸板をたしたし叩いて首を傾げた。


『――――……?』


 不思議そうにつぶやかれた声は、どこの言葉かはわからなかったが耳に馴染む心地よい高さだ。


 傾けた頭に乗るくたりとした不思議な形の帽子も、むちっとした太腿がちら見えするやけに丈の短い服も真っ赤だ。白い毛の縁どりがあしらわれていて、下着ともいいがたいが刺激的なのは間違いない。


 少し背伸びして色っぽさに挑戦した感じがなかなかいい。


「まってたぞー。おれのよめ」

「……よ、め?」


 語尾を復唱したらしき嫁(予定)のが移ったのか、男も急速な睡魔を感じた。


 初夜は完遂出来そうにないから、悪いがそれは後日にしよう。待っとけ、心身ともに充実してるときの方が愉しめるに決まってる。美乳かどうかはそのときだ――――


 考えた言葉は口から出ずに、腕の中の嫁(予定)がもぞつくのを抱きしめ直し、男はほんわりした暖かさに全てを委ねて瞼を閉じた。


「な、なななな何したんですかこの酔っ払いがっ!!」


 はくはくと陸に上がった魚のように口を開閉させていた弟弟子が、悲壮な叫び声を上げた。






 数時間後の気持ちのいい冬の朝、反して最悪な二日酔いの状態で目覚めたこの男、幸か不幸か仕出かした一連の事実を朧ながら覚えていた。


 男は<青蜥蜴のジオ>の名で通る、小さな術式屋を営む在野の魔導師だった。








12月某日、作中三十路と同じテンションで書き始めてしまうとは……

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