第二十二話
「そんな! アマンダが!?」
「俺が行ったときにはもう……どうやら洞窟の外にも盗賊の残党がいたみたいで、腹と首を切られて事切れていたんだ」
「そんな……そんな」
アキアースが暗い顔をして戻ってきた時にすごくいやな予感がした。
なにかあったのがわかるその表情。そして一緒に出て行ったアマンダがいないこと。考えたくない。考えたくないけど、頭に浮かんだのはアマンダの死。でも否定してほしかった。ただどこかに立ち寄ってるから帰りが遅くなってるだけだよって、そう言ってほしかった。
なのに。
「連れ帰ることもできないし、洞窟脇に墓を建ててきたんだ……行く?」
お墓。アマンダのお墓。行きたくない。だって、行ったら現実を叩きつけられる。せっかく仲良くなることができたと思ってたのに。こちらの世界で初めてできた女の子の友達だと思っていたのに。そこへ行ったらもうアマンダがいないんだって、無理やり押し付けられてしまう。
でも。私が行かなかったら誰が他に弔うの? 案内してくれた時に話してくれたんだけど、アマンダ家族はいないって言ってた。それに、アキアースだって哀しいんだ。一緒に行った仲間を守りきれずにって自責の念を抱いているだろうし……。アキアースの顔見てたらわかるもの。アキアースにだけ辛い思いをさせるわけにはいかないよね。
行かなくちゃ。アマンダのところへ。
「うん……行く」
泣きそうな顔をしているアキアース。護身術をアマンダに教えてるときだって楽しそうにしてた。アマンダのこと、どれだけ悔しいか。私だって悔しい。その時私がいればなにかできただろうかって思う。私の魔法で敵を吹き飛ばすことだって切り刻むことだってできたかもしれない。炎で燃やすことだって!
アマンダを殺そうとするやつを、殺したやつを許すことなんてできない! だから、アマンダをころしたやつを私が! ……あ、私、今なにを。人を、殺すこと考えてた? なんてこと。でも、でも。たとえできなくても、どうしても許すことなんてできないよ。アマンダ。
私とアキアースはアマンダのお墓までやってきた。
途中、商業区で薔薇の花束を買って。アキアースが建てたお墓は簡素なもので、もちろん私の世界のような墓石なんて期待してなかったけど、木の板を盛り土に差してあっただけで。蔓草で十字架にされていたから、私はその十字架の前に買ってきた花束を置く。
そのすぐ脇には洞窟の入り口があった。この中でアマンダが。アキアースを見ると、静かに目を瞑って手を胸に当てていた。私もそれに習う。
ごめんなさい、アマンダ。私、オルダーさんにはいって言ったのに、これじゃあオルダーさんに合わす顔がないよね。どこにいるのかもわからないけど。
アマンダが眠っている盛り土を見るとアキアースの足元が目にはいる。あれ、その銀の足環って。
「アキアース、それ」
「ん、ああ、これ? 形見分けで貰おうと思ってつけたんだ。カナには首飾りをとっておいたんだけど、つける?」
「アマンダの。うん、貰う。アマンダの大事なものだもの、私が大事に保管しておくよ」
「それがいいと思う。そのほうがアマンダも安心するだろうね」
銀の足環をアキアースが、首飾りを私が。アマンダ、大事にするね。
「さあ、それじゃそろそろ行こうか。ここで悲しみに耽るばかりだとアマンダに叱られる。それに、ますますしなくちゃね」
「なにを?」
「魔法の本の行方を探すことだよ。アマンダの研究を引き継ごう。それが一番の弔いになる」
そうだ。アマンダは魔法の本の研究をしてたんだ。どうして知りたくなったのかその理由も今じゃ聞けないけど、私、アマンダの代わりにきっと見つけてみせるから。
だから、おやすみなさい、アマンダ。
「次はジャグダンだよね」
「ああ。でもその前に旅車で十五日かけてまずは国境の街、エアトに行くんだ。そこまでのしか長距離の旅車はでてないから。そこで数日体を休めてまた十五日旅車で王都ジャグダン。さすがに三〇日も旅車に揺られるわけにはいからいからね」
「うん。小休止挟みつつでもきつかったし。ポールアームに行くのだって、そこからこっちに来るのだって」
そう。ここに来るのだってポールアームから旅車で二〇日の行程だった。たまに遭遇するダグリスルを護衛の冒険者が倒したりして、そのお肉を食事に使ったり、途中生えてる食べられる草をスープにしたり。なかなかサバイバルな生活が続けられてたし。
ただ、旅車はたしかに守られるだけだったり自分で歩かなくてすむんだけど、お風呂に入れないのが一番辛かったな。濡れた布で体拭くくらいしかできなかったし、頭だって川沿いを通らなきゃ洗えないし。そりゃまあ徒歩の旅のほうがもっともっと大変なんだろうけど。
最初の頃は景色を見たりして楽しんでたけど、そろそろ飽きてきた感もある。退屈に感じ始めちゃった。
だって、新しい国に入って違う気候で景色が変わるのが楽しいのも最初の数日だけで、あとはもう同じ景色ばかりで。一人でいた時はいつ襲われるかって緊張感があったけど、こうしていろんな人と旅をしていて、守られてるとその緊張感もなくなるし。どっちがいいのかなあ、なんて時々思うけど。
「本当は遠回りになるけれど、いくつかの街を通っていく方法もあるんだけど、なるべく早く行きたいだろうと思って言わなかったんだけど、どうする。ジャグダンへはそうして行く?」
「ううん。早く行きたいから今までと同じでいいよ。あ、でもアキアースがきつかったら……」
「それは大丈夫。俺は旅なれてるしカナより体力あるからね。俺のことは心配しなくていいよ」
「あ、そっか。わかった」
たしかに遠回りでも新しい街に立ち寄れたほうが新鮮で楽しいかもって思ったけど、でも、退屈でもやっぱりこれは帰るための旅なんだし、少しでも早くつけるほうがいいよね。
私には寄り道してる暇なんてないんだから。
まずはエアト。そしてジャグダン。そこの記録閲覧室には手がかりあるといいなあ。
「ジャグダンってどんなところなの?」
「ジャグダンはこのカンナブラよりも暑いよ。しかも風車もないから覚悟しておいたほうがいい。あそこの国はいかに暑いのを涼しくして快適に過ごすかよりも、いかに暑さに馴染んで楽しく過ごすかのほうに重点を置いた国だから」
「うわ、そうなんだ。カンナブラの巨大扇風機、よかったんだけどなあ。残念」
「巨大せんぷうきって風車のこと? まあいいや。ただ、ジャグダンはカーニバルを定期的に開催してるから観光客は多いよ。一月に一度あるんだ。色鮮やかな飾りを身につけた人たちが踊るのを見るのも、それを観光客が紙吹雪で演出をするのも一体感があってすごいらしい」
へえ。つまりブラジルのような国ってことなのかな。カーニバルなんて楽しみ。やってるといいなあ。
「ちょうどやってるといいね。私その紙吹雪やってみたい」
魔法でやったらすごいことになりそう。いいなそれ、楽しそう。あ、水の魔法でスターダストを作るのもいいかも。ちょっとコツを掴んできたんだよね。第一章の生活魔法でも十分攻撃に転用できることがわかったし、うまくやれればきらきら光って綺麗なのができそうじゃない。
ちょっと内緒で考えてみよう。




