誘惑の本④~アマンダ~
「王都を案内してやろう。カナ行くぞ」
「俺は待ってるよ。武具の手入れしときたいし。いってらっしゃい」
「いってきます」
私はカナを案内することにした。まずはカナから取り入って信頼を得ておこうと考えたからだ。そのほうが後々やりやすいだろう。なにか私に都合の悪いことが起きた時、アキアースを言いくるめるのをカナに任せるのだ。
アキアースが手を軽く振り私達を見送る。ふん、私の案内を撥ねるとはいい度胸だ。だがまあいい。私のほうこそお前など連れ歩くのは願い下げだ。
私はカナを、まずは風車へと案内することにする。このカンナブラの国は熱帯の気候。巨大な風車で熱を送るのだ。各国を巡っていくのなら、その国独特のものを実際目にするのも経験のひとつとしていいだろう。
工業区の二番通りを連れ立って歩いていくと、前方に巨大な風車がいくつも回っているのが見えてくる。そのまま進み二番通りを抜け切ると、そこはもう風車施設だった。小高い丘の上に立っている風車は全部で五十本。この風車の送る風でこの王都の気温は快適に保たれているのだ。
「おや、そこにいるのはアマンダではないでしょうか! いや、このようなところでお会いできるとはまさに奇跡! 俺と君の運命は繋がっているのだと改めて思わされるよ。ああ、愛しいアマンダ。どうしてここにいるんだい? まさか俺に会いに来てくれたのではないだろうね」
「アマンダ。な、なにこの人」
カナへ説明しようと口を開きかけたその時、背後から見知った声がそれを遮る。この声は、オルダーか。私の取り巻きのうちの一人だ。連れがいるにも関わらず話しかけてくるとはなんとも無粋な男だ。
「彼はオルダーだ。私を愛する者のうちの一人」
「ああ、アマンダ。あんなやつらと俺を人括りにしないでおくれ。君の唇から聞きたいのは愛の囁きさ。もちろん俺も君にこの身から溢れ出る愛を捧げるよ」
「ひゃあ~、さすが大人の美人さんは言われることがすごいね。私もそんなこといつか、本当のただ一人に言われてみたいよ」
その相手は今のところあの男しかいなさそうだが。私としてはおすすめはできないな。だが一応言ってみるか。
「ふふ。アキアースなどはどうだ」
「な、だから違うんだってば! アキアースとはそんなんじゃないの。恋人ってのは旅する上でのただの設定なんだから。なんか勘違いするのよね、アマンダは」
ふん。だそうだぞ、アキアース。残念ながらカナはお前のことなどどうとも思ってないようだぞ。ふふ、胸がすくようだ。気分がよい。
「オルダー。彼女はこれから私とともに旅をすることになった仲間だ。私はこれからこのカンナブラを出て旅をすることに決めたのだ。悪いが金輪際会うことはないだろう」
「そんな! なら俺もついていく! 君にもう会えなくなるなど耐えられない!」
「……私はしつこい者は嫌いだが?」
「う。アマンダ……本気なのかい。俺の愛を捨ててまでしなきゃいけないことなのかい」
「私に二度同じことを言わせる気か」
「わかったよ……君、そこの少女。アマンダに傷一つでも負わせたらこの俺が許さないからな!」
「あ、は、はい! 気をつけますっ」
なにが許さないだ。そんなもの誰が頼んだ。カナが怯えているではないか。なんとも許せん男だ。
「大人の女性の恋愛って、なんかすごい」
「そうか。だがお前もあと数年すれば私のようになるだろう。そのときまで存分に目を養うのだな」
「うん。男は見た目じゃないってのはもう知ってるよ」
「それはいい。その通りだ」
カナは以外とよくわかっているようだ。それにまあ、少なからず親近感を持ったカナに言われると、少しはよい気分になれるらしいな。たとえこの姿が偽りであったとしても。
その後、私達は風車により近づいてみたり、商業区の繁華街へ行き服飾の類を存分に見ることができた。なかなかよい時間を過ごせたことに礼を言う。
こういった胸の高鳴りは久々であった。たまには女子同士でつるみ街へと繰り出すのもいい。だがこのカンナブラではオルダーのような無粋な男は多い。次は貴族街もと思ったが、私を取り巻く男共は貴族が多い。やめておいたほうが無難か。貧民街も危険だ。行くなら共用区か。よし、明日はそちら方面へと行くとするか。
「今日はありがとうアマンダ。とっても楽しかったよ」
「よい服にもめぐり逢えたしな。あのアイボリーのワンピースはお前の髪色がよく映える。いい買い物をしたな」
「うん。私もあのワンピースは気に入ったの。私の髪に合わせた黒のパンプスもリボンがついてて可愛いし。あ、それとアマンダの選んだ赤のドレスもすごく素敵!」
「そうか。私の瞳に合わせた色を選んだのだが、気に入ったのなら明日さっそく着てみるとしよう」
「私も買ったの着ようかな」
『なかなか女の子同士の買い物も楽しいものだね。笑いながらあれはどうこれはどうって、すごく無邪気でさ。アマンダも楽しそうでなによりだ』
(まあ、久々であったからな。もう何年前か……たまにはこういうのもいいものだ)
そうして宿屋へと戻ってきた後。
「ねえ、二人とも。私この依頼請けたいんだけどいい?」
そう言い、見せてきたカナの端末を見れば、そこには水(氷)石と風石の納入を頼む依頼が書かれてあった。
『これは魔法使いギルドの依頼だね。カナは魔法使いだったのか。でもそれならなんで悪魔の奴だんまりしてるんだ?』
(なにを言っているかわからぬが、カナは魔法使いなのだな)
『そうだね。ほらみてあの緑の指輪。あれが魔法使いギルドの証。あれが端末になってるんだ』
誘惑の本の言う指輪を見れば、たしかに緑の指輪が端末になっているようだ。しかし、魔法使いをこの目で見るのは初めてだ。
カナの依頼はカンナブラの風車を動かしている組織からの依頼だった。カンナブラの風車は風石を動力として動き、水槽を水石で満たし氷石で凍らせる。それを風車で煽ることによりこの国は涼みを得ているのだ。おおかた昨日の案内で興味が湧いたのだろう。
カンナブラはジュアグダンほどではないが熱帯の国。こうでもしなければ国民は暑さで病気になり死ぬだろう。そう昔からいわれてきている。そのためカンナブラは風車を止めることはなく長年回し続けているのだ。そうか、そのための依頼なのか。国のおかかえ魔法使いでも追いつかないということなのだろうか。まあ、私わたくしには知ったことではないが。
「いいよ。じゃあカナが篭っている間、俺は別の依頼をこなしてくるよ」
「アキアース。私も行こう。護身術を試したい」
「わかった。じゃあ俺たちは行くけど、カナ、あまり根を詰め過ぎないようにね」
「うん。二人ともいってらっしゃい、気をつけてね」
「うむ。いってくる。戻ったらまた王都を案内してやろう」
「わ、じゃあ楽しみに待ってる」
私はアキアースの依頼へ着いていくことにした。カナの魔力籠めも見てみたいが、まずは護身術のほうが大事だ。この力はいずれ私の役に立ってくれるだろう。
戻ってきた後カナをまた案内しよう。アキアースはどうでもいいが、慈悲として残してやるカナは少しばかり仲良うしてうやるのもいいだろう。




