剣王の本⑤~秋博~
(けどさ、カナって本気では笑わないんだよな)
『なんだ主。もしかするとそういうことなのか』
(ちげえ。ただやっぱ、いきなりこっちに来て、緊張しまくってんのかなって。俺はもう三ヶ月はこっちいるからあれだけど。あんたもいるしな)
『うむ。それもあるだろう。だが、一番はカナ自身も言った心細いというのが正しいのだろうな。だから主からの押し売りも受けたんだろう』
(押し売りって、まあそうだけどさ。俺とは違って自ら望んできたわけでもなさそうだしな)
カナが笑ったとことを見てない。そりゃ、まだ出会って一日目だけど。愛想笑いもないんだもんな。俺はしてるけど。もしかして、あまり笑わない子なのか。素直でいいところもあるのに、なんか勿体無いな。
「おはよう、アキアース」
「おはようカナ。よく眠れた?」
「うん。お風呂も入れたし。私が着てた服は駄目になっちゃったけど」
カナはまだ男装していた。
「そうか、残念だね。他に服はないの?」
「うん。だから買わないと。あ、でも大丈夫! イングスの街で依頼請けて、お金はあるから」
「わかったよ。じゃあまずは腹ごしらえしてから、服を見に行こうか」
「うん」
朝の様子じゃ、まだ大丈夫そうだな。部屋で泣いたのか少し目元が赤いけど、空元気でも出せてるうちはまだ大丈夫だろ。あとは。
『もう少し、安心できるようにしないとだな、主』
(そうだな。って、別に俺はそこまで心配してないからな!)
『そうか? 我にはそうは見えないが』
(あくまでも、目的は本なんだからな)
『それは重々承知』
(わかってりゃいいんだ)
じゃあ、さっき話してた通りの終わったら、さっそく依頼でも請け負うか。
「なにがいい?」
「えと、よくわからないからどれでもいいよ」
「そう? じゃあ、これかな」
ピアスを軽く触って念じると、ホログラフみたいな画面がでてくる。青い光で書かれた文字。とりあえず討伐系の項目を指で選んで流すと、いくつかの依頼がでてきた。
タグリスル。山羊の魔物だ。クセがあるが食べると意外と上手い。角と眼球に歯と蹄は素材としても売れるし、もちろん皮も売れる。とくにこの雪国じゃ需要が高いだろうな。
ちなみに俺の着ている防寒具も、このタグリスルの皮が大部分だ。おかげで暖かくていい。カナも防寒具をデザインは違うが、同じタグリスルの皮のものにしたみたいだ。ガルムのもあったが、思うところがあったらしい。
「タグリスルの角の入手?」
「そう。山羊の魔物で、俺たちが今着ている防寒具はこのタグリスルの皮でできているんだ」
「そういえば、防具屋でタグリスルって書いてあった。じゃあその山羊の魔物の角を取りにいくんだね」
「他は指定されてないから、後は売り払ってお金にもなるし、ちょうどいいんじゃないかな」
「わかった。じゃあそれでいい」
カナの了承を得て、タグリスルの角の入手を選択。
『タグリスルはウイグルの森。つまりこのラルスムの南に位置し、王都サリダースとの間によくいる』
(へー。この街と王都との間の森に生息してんのか。わかった)
「タグリスルは、このラルスムの街の南に広がる森にいるんだ。準備はいい? 行こうか」
「うん。大丈夫」
カナは胸の前でにぎり拳を作り頷いてる。まあ、そうだよな。いくらガルムの群れを倒したとはいえ、夢中だったようだし、この依頼で討伐系、初めてだもんな。おっとそうだ、忘れるところだった。
「はいこれ。使って」
「これ、杖?」
「そう。持ってないみたいだし、初、ギルドの依頼ってことで、パーティ仲間である俺からのプレゼント」
「でもいいの?」
「そのために買ったんだから、使ってくれないとね。俺じゃあ使えないし」
「ありがとう。大事に使うね、アキアース」
「どういたしまして」
って、これでも笑わないか。なんだろな。そんなに信用ない、俺。まあ怪しいのは十分知ってるけどさ。剣王の本のいうとおり、そんなに心細いってことなのか。こうなったら是が非でも笑わせてみたいもんだよな。こうなりゃ意地だ。まずは信用させないとな。
にしても、やっぱスカートはいいよな。しかも両手に杖。見た目は普通だけど、スカートに杖、ポニーテールで、それだけで可愛く見える不思議。いや、あんまふつーふつー言うのは失礼か。結構可愛いとこもあるし。
「吹き飛ばす。吹き飛ばす。タグリスルは吹き飛ぶ!」
カナが言葉に出して念じていた。ウイグルの森の中、少し歩いたところでさっそくタグリスルと遭遇し、ガルムのときのでコツを掴んだのか、カナはまだ少しあれだが、なんとか魔法を行使していた。
あの竜巻のイメージがよほど強いのか、使うのはそればかりだったが。だが俺としては、あの切り刻んだほうが頭に残ってるがな。あの惨殺のほうがよっぽど残るだろ。
と、俺も仕事しないとな。
カナは撃ちこぼしたり、あと少しで倒せそうなものを選んで倒していく。タグリスルは三匹が転々と草を食んでいた。
実は、三ヶ月旅してここまで来るまでにブロードソードは三本駄目にした。で、今はロングソードを使っている。こっちのほうが三〇センチメートルは長いから、距離感掴むのに最初は手間取ったな。ブロードと間合いが違うし。まあすぐに慣れたけど。
そのうち両手剣やレイピアにサーベルあたりも試したいところだ。やっぱ剣王だし、色々な件に精通してないとな。
「そっちに行ったよアキアース!」
「ああ。っと、こんなもんかな」
考え事してたらこっちきてたか。
三匹のうち、まず一匹目をカナが魔法で瀕死に。次に近くにいた、魔法範囲に届かずに掠っただけのを俺が倒す。そして、今カナが言ったのが最後の一匹。突進をなんなくかわし横凪ぎに一閃して倒した。
「すごいねアキアース。本当に強かったんだ」
杖を腰に差しながらカナがほっとした表情で俺に駆け寄った来る。
「くす。まあこんな見た目だしね。弱く見られがちだけど。でも、これで少しは信用できた?」
「あ、ごめん。別に信用してなかったわけじゃないの。ただ、ここに来る前に色々あったから、それでちょっと……」
「そうなんだ。俺もごめん。その辺りも言いたくなったらでいいから聞かせて」
「うん、わかった。ありがとうアキアース」
剣を鞘に戻して、肉厚の刃渡り十五センチメートルほどのナイフと、鉄でできた槌で、タグリスルの解体を始める。カナは時折顔を背けるが、それでもその様子を見届けようとしてるのか、俺の手元を見ていた。案外あれなんだな、この子。気丈っていうか、なんなのか。
「さ、できた。後はこの袋に入れて、と。肉はどうする、持って帰る? 食べると旨いし換金もできるし」
「じゃあ持って帰る。あ、待って。私が持つよ」
「重くない? あ、そっか。カナは魔法使いのギルドの証持ってるんだっけ。じゃあ頼むよ」
「任せて。これからも、なにか入れるのあれば、私持つから。畳一〇畳くらいって言ってもわからないか。だいたい縦三・六メートル、横四・五メートルの部屋一つ分なんだけど」
「冒険者ギルドのよりも広いって聞いてたけど、そこまで広いんだ。俺のは掌ほどしかないんだ」
「そんなに狭いんだ。じゃあ尚更私が持たないとね。重さは感じないし」
なら持ってもらうか。パーティ同士だと、互いの許可さえあれば、空間収納の出し入れが可能になるしな。ちなみにパーティ解除は、互いの証をつけた状態でパーティ解散するというとできる。
「じゃあ、中に入れるから、俺もカナの空間収納の、出し入れできるようになってもいい?」
「うん、いいよ。でもできるの? たしか本人しかだめなんだよね」
「パーティ同士なら大丈夫なんだ」
「そうなんだ。じゃあどうぞ」
「ありがと」
へー。このくらいなら即答か。やっぱ一応信用はされてるってことかな。これで笑ってくれたら、俺もその信用を信じることができるんだけど。まあ、まだ先は長い。次第にほぐしていけばいいだろ。




