剣王の本④~秋博~
君、臭いね。なんてよく言ったもんだ俺。あの時の女の子の顔。ぽかんとしてたし。
「血臭くてすみません。ギルドは知りません。冒険者じゃないので。流れの魔法使いです」
そういって疑わしそうな目つきで俺を見てきた。いや、俺だって悩んだんだ。どうやって声を掛けようかと。けどさ、男装した女の子に、君かわいいね、とか、言えないだろ。ホモかと思われる。しかも、血まみれの子に。そんなんしたら俺の性癖を疑われるだろ。かといって他に掛ける言葉も見つからず。コミュ障なめんな、と言いたい。
話してみると、流れの魔法使い。でもさ、それただの聞きかじりでしょ。じゃなけりゃテントだって、もっと正しく使えたはずだ。ギルドも知らないみたいだし。
「くす。その顔は知らないみたいだね。場所教えてあげるよ」
きめえ。俺きめえ。くすってなんだよ! そんな笑い、マジでありえねえ。いくらラノベや漫画の爽やか系イケメン目指しててもこれはねえよ。自分でやってて鳥肌たったわ。
そんなダメージ受けつつも、なんとか先回りして調べていた、魔法使いギルドの場所へと案内する。ギルドから立ち去った後に、女の子が中へと入っていくのを確認すると、俺はほっと息をつく。
(やばいな。思ったよりダメージが大きい)
『何かあったのか』
(……いや、いい)
『はは。だが、主、もはやそのままでいくしかあるまい』
(わかってるさ)
爽やか系イケメンでもう始めちまったんだ。急に変えたら更に不審に思われるだろ。無口系の親切キャラのがよかったかな。今更だけど。
とにかく。今のうちにどうするか、脳内整理だ。
幸い、さっきの核で懐は暖かい。女の子を養ってでも旅はしていけるだろう。まだこの世界にきたばかりのようだし、押し通せばパーティ組むことに異論は出さないだろうな。
そう思い、俺は、女の子が出てくるまで待った。
「やあ。終わった? なら行こうか」
「なんでまだいるんですか」
まあそりゃ当然の疑問だよな。だが俺はここで彼女を確保しとかないといけない。押し通すんだ。
「なんでって、これからパーティ組む相手にそれはないでしょ。言い忘れてたけど、俺、冒険者のアキアース。君の名前は?」
「佳奈。アキアース。パーティって?」
「カナ、ね。よろしく! パーティは共に旅する仲間のことをいうんだ。俺は剣士だから、カナとは相性はいいはずだよ。戦闘のね」
たしかに戦闘の相性はいいかもしれない。自分で言ってて思う。女の子が敵を攻撃し、もたついたところで俺が止めを刺す。そうした連携が取れれば上手く旅も進められるし、依頼も達成しやすいだろう。
見た目は普通だけど、この子。ハーレム要員ではないかな。でもポニーテールってのはまあ、ポイント高いよな。男装だけど。
「ふーん。そうなんだ、でもなんで私と組んでくれるの?」
「俺もまだ冒険者なりたてだからさ、二人のほうが心強いし、さっき言ったとおり戦闘の役割分担もできるし、魔法と冒険者ギルド双方の依頼も受けられる。うまくいけば取り分を二人で割っても稼げるんじゃないかと思ってさ。どう、俺と組まない?」
「組む」
お、即答か。けど気づいてんのかなこの子、いや、佳奈か香奈、加奈? 漢字聞くわけにはいかないしな。自分のこと私って言ってるぞ。大人ではそれもいるけど、俺らの年代じゃ、私なんて女の子しか言わないし。名前だって変えたほうがいいんだけどな。男装してるってことは、女と思われたくないってことなんだろうし、後でそれとなく言っておくか。
「よかった。じゃあこれからよろしく。カナ」
「よろしく。アキアース」
(上手い具合にカナとパーティを組めたな)
『そうだな。早いうちにパーティ確定しておいたほうがいい。これで確実な居場所もわかるだろう』
(お、そうだった。冒険者ギルドはギルド証はピアスなんだっけ、一度外すか)
「じゃあ、カナ。魔法使いのギルド証だしてくれる? パーティの確定するから」
「確定?」
「そう。お互いの証をくっつけて、パーティ認証すると言うと、パーティになれるんだ。そうすると、不測の事態が起きて離れ離れになっても、互いの位置を掴むことができる」
「そうなんだ、わかった」
カナに説明してみると、すんなり魔法使いギルドの証である指輪を出してくる。俺はその素直さ、というか警戒のなさに少し呆れる。だってそうだろ。いくらそう言ってても今日会ったばかりの者に、パーティは組むわ証は出すわ。もうちょっと色々身構えてたほうがいいだろ。なんだかなあ、この子。
まあ、出してくれてるんだから、変に思われないうちにさっさとやっとくか。
「冒険者の証はピアスなんだ。で、こんなふうにする。カナとのパーティ認証を決定する……復唱して」
「アキアースとのパーティ認証を決定する。こう?」
「そ。見てて」
俺も初めてパーティ組むけどこんな風に光るんだ。剣王の本や、冒険者ギルドから聞いてたけど。へー。認証するために互いの証をつけて言葉を言うと、ぽぅと、青白く証が光った。
「わ、光った」
「うん。これで大丈夫」
「すごい」
『これで一安心だな、主』
(ああ。魔法使いとパーティが組めるなんてな。いい金づるだ。しかも本の所持者)
俺が内心そんなことを思ってるなんて知らないカナは、まだ今の現象の余韻に浸っているようだ。この爽やか系イケメンキャラ、結構いいかもな。そういや、今までの旅でも、女に邪険にされたことはなかったし。ふは。マジでハーレムいけるぞこれ。
「じゃあ、次は宿かな。俺がとってる宿にまだ空きはあったはず。行こうか」
「うん」
こくんと頷いたカナを連れて、先回りしてすでにとっておいた宿へと向かう。こう素直に付いてこられるのも案外いいもんだな。
いや、だめだって。相手は本の所持者で、いつ悪魔の本だって証に変わるかわかんねーし。油断してはいけない相手だ。でもこの子、なんかほっとけないんだよな。世間知らずっていうかさ。簡単に貢いでくれそうじゃん?
「ありがとうアキアース。実は私、少し心細かったの」
「ん?」
な、なんだ急に。宿の部屋に案内したらいきなりデレだしたぞ。そんなはにかんだ顔しても……いや、少しは可愛いけど。もしかしてハーレム要員になりたいのか?
「いや、俺も一人で旅しててそろそろ寂しくなってきたところだしさ。カナ、女の子だろ? 実は少し心配してたんだ」
「え、なんでバレ……」
まさか気づいてなかったのかよ。おいおい。
「顔だって柔らかい線だし、男装してても良く見ればね。言葉遣いだって、カナ、自分で私って言ってるだろ。俺らくらいの年頃じゃ、私なんてまず使わない。使うとしたら貴族くらいだよ」
「あっ、そうか。そうだったんだ……うん。実はそうなんだ。ある事情があって、男装しないといけなくて」
ある事情って、旅で女の一人旅は危ないとかだろどうせ。さすがにそのくらいは分かってたみたいだけど、でもなあ。
「そっか。じゃあ込み入った話は、カナがしてもいいと思った時でいいよ。ムリに聞こうとはしないから」
「ありがとう」
まあ、こんなとこかな。あとは。
「それじゃあとは……名前、かな」
「名前? あ」
「気づいた? そう。男装のまま性別を偽って旅するんなら、名前も変えたほうがいいよ。カナはいかにも女の子って名前だし。でも、そうだな。俺とパーティ組んだことだし、男装やめてもいいよ」
「なんで?」
おいおい、わからないのか。それともそんな甲斐性なしに見えるのか俺。
「くす。カナ一人守る強さは持ち合わせてるってことだよ。そんなに頼りない? 俺」
「あ、ううん。そんなことない。強そうに見えるよ。じゃあ、いいのかな、私の格好戻しても」
「いいよ。カナの好きなようにして」
「うん。なんだかごめんね、アキアース。私頼ってばかりだね」
「いいんだよ。もう同じパーティなんだから」
「うん」
あれ、おかしいな。もしかして俺、情が湧いた? さっきからカナが、いや、いい。これ以上は言うまい。
『どうやら上手くいけそうだな、主』
(うるせ)




