深夜にお腹が空くと寝られない件②
「玲衣?起きてる?」
「起きてるよ〜。こんなに動いてるじゃん」
玲衣は大きく揺れながら答えた。
確かに動いているけどこの動きはほぼ寝てる人しかやらないって。
このまま寝られると面倒と判断した俺は良く手を洗い、冷凍庫から保冷剤を持ってきた。
キンキンに冷えた保冷剤を太ももに当てる。
「ひゃいっ!」
中々聞いたことない声を出しながら飛び起きた。
「起きたか」
「起きたかじゃない!」
頬を膨らめせながら身体を掴まれて結構強めに揺らされる。
「プレゼントを枕元に置くためにずっと夜中まで起きてるからだよ」
「ちっ、ちがっ!」
自分の予想が当たった事を図星を突かれた顔で確認した。
やっぱりか。結構眠たそうな顔だったもんな。
「寝るのは自分の部屋にしてね」
「分かった!」
テーブルに手をつけ、勢い良く立ち上がる玲衣。その顔はイチゴのように真っ赤になっている。
「何?」
「アーン…して…あげる」
突然の申し出に言葉を失う。
アーン?ってあれ?あれで良いの?
情報処理が追いつかずに呆然としている俺を気にせず玲衣はキッチンからフォークを持って俺の隣の椅子に座った。
「私がにいにアーンをしていれば眠たくならない。そしてにいは嬉しい。Win-Winだよ」
いまだに玲衣の顔は真っ赤。そして眠気を覚ますためか羞恥心を紛らわす為か普段よりも勢い良く声を出している。
「いや、玲衣がもう部屋行けば良いだけじゃ?」
「この歳にまでなって妹にアーンさせてもらえる人って滅多に無いよ?」
「いや、だから自分で食べれるって」
「せっかくやるって言ってんのに!?かわいい妹が!」
これでもかと顔と身体を近づけて主張してくる。
あっこれ引けなくなっちゃったやつだ。
俺が無意識のうちに一方的に玲衣に恥ずかしい言動をさせたから負けず嫌いスイッチが入っちゃったのかな。
俺も結構照れくさいのに。
深呼吸をして心と身体を落ち着かせてから口を動かした。
「そこまで言うならお願いできる?」
玲衣はさっきまでの勢いが嘘のように大人しく頷いた。
「にい、アーン」
真っ赤な手で震えながら運ばれた一口大のロールケーキ。玲衣にマジマジと見つめられながら口に入れる。
「どお?アーンは」
味がよく分からない。でも何故かすごく甘い気がする。
「美味しいよ」
「アーン」
続けていくうちに赤い顔の中に悪戯っぽい笑みが含まれていく玲衣。しかし、抵抗することも出来ずにただ時間だけが過ぎていった。
「ろおるけえき、どうだった?」
テーブルに上半身を預けた玲衣に聞かれる。
玲衣は残り1/4を過ぎたあたりから眠気に抗えきれなくなってきた。
「すごく美味しかった」
本当は食べさせられてから全然味しなかったけど。
「そうお?ありがとう」
全身を預けられる。
視界の多くを占めるよく手入れされた艶やかな黒髪。鼻の近くの髪から香る良い匂い。腕には折れてしまいそうなほど細い身体に適度な固さの筋肉。それに加えて何よりも自分の上半身に押し付けられる控えめながらも柔らかい感触。
「玲衣」
自分の部屋まで歩いてもらうために背中を軽く叩きながら耳元で名前を呼ぶ。
「にい、大好き」
一瞬身体が凍え、心臓が締め付けられる。
「玲衣…」
今度は身体を軽く揺らす。
なんかこれ…いけないことをしている感じだ。
「玲衣」
身体を揺らすのをやめ、再び背中を軽く叩き始める。
奮闘虚しく耳元からは気持ちよさそうなかわいらしい寝息が聞こえてきた。
(はぁ、おぶって運ぶか…)
ベッドに玲衣を寝かせて風邪をひかないように布団をかける。
(あ、そうだ!忘れてた)
静かに部屋を出て自室からプレゼントを持ってくる。
プレゼントのスマホの保護シールとストラップが入った袋をそっと枕元に置いた。
「おやすみ、玲衣。ありがとう」




