寝顔は無性に悪戯したくなる件
もう一つの連載(催促)の時にも書きましたが14話です。14は海万が1番好きな数字です。理由はありません。気が付いたら好きになっていました。
「この声、良泰達の声じゃない?」
「確かに、前の時間体育か」
殆ど通る事の無い廊下を偶々有美と2人で通りかかると廊下に聞き覚えのある声が聞こえた。
「何話してんだろ、ちょっとだけ一緒に聞こ」
「盗み聞きみたいで嫌だよ」
有美の提案に断りを入れる。
「あっ、なんか好みのタイプ?を話してる」
「尚更聞いちゃダメだよ!」
有美の手を引くが中々動かない。
「ちょっと待って、良泰の好みが分かるかもよ」
にいのタイプ?聞いたことが無い。
アニメの好きな女のキャラを考えてみても微笑ましい庇護欲を誘うタイプから美人系、可愛い系、元気系まで幅広く共通点が見つからない。強いて言うならば大人のお姉さん系はあまり居ないかな?
(ちょっとくらい良いじゃない?ここで言うって事は話しても大丈夫って事だ!)
(ダメよ玲衣!これはにいの友達、男同士の会話だから言えるんじゃ無い!勝手に聞くのは人としてどうかしてるわ!)
(へっへっへ!全てのルールを守る人間なんて居る訳が無い!全員何かしらのルールは破っているぜ!)
(それでもわざと破るのは違います!)
頭の中で天使と悪魔が囁いている。
いや、よく聞いてみたら悪魔サイドは実際の有美の声だった。
「ちょっとだけ、………にいには言わないでね」
「なるほど、佐伯は貧乳派。しかも濡れ透けが好みと。良いこと聞いた」
悪魔のような笑みを浮かべる有美を見ていると良心が湧いてきて心が痛む。
しかし、一緒に聞くと言ってしまった手前、自分から辞めることを催促もし難い。
複雑な気持ちをしているとにいの声が聞こえてきた。
「ほぉー、良泰は太もも派ですって」
「なんで私に言うの!」
「しーっ、バレる!」
反射的に出た反論に指を立てて「静かに」と促す。
太もも、太ももか・・・
考えてみると夏場の私のパジャマを「足が出すぎじゃない?」とか言われた事ある気がする。
その時のにいの視線、明後日の方角だったっけ?
『だからこそ見えた時の興奮(?)が増すと思う。見ても良い場所なんだけど普段隠れているせいで特別感が生まれるというか』
壁越しに聞こえる熱のこもった声。妙に説得力がある。
だからあの時目を背けたのかな?
家の中だから大丈夫だと思ってたけどダメだったかな?
『それに、体の動きを支える大きな筋肉でありながら適度な柔らかさを持っている。膝枕でそれを感じられるのが良い。丁度良い柔らかさの太ももに埋まりたいし挟まりたい』
膝枕で埋ま、埋まりたい!?どう言う事!?
膝枕が良いの!?
聞かれるとは思ってもいない言葉でこっちの方が熱くなる。
『お前、夏場の体育の時、いつも女子の太もも見てんの?』
はぁ?
一瞬で冷静になれた。
決まったわけでは無いがもし本当なら軽蔑する。
一旦深呼吸をして近くを見ると有美の姿が無い。
暫く探したら既に遠く行ってしまっていた。
有美を追いかけようとした時、にいと目が合ってしまう。
お互い、気まずさが込み上げてくる。
思わず何も言わないままその場を去った。
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*
「良泰の好み聞いてどう思った?」
顔の赤みが引かない親友に質問する。
「どうって?」
「気持ち悪いとか感じてない?」
「…それは感じてないかな?」
(いよぉぉぉし!良泰!玲衣ちゃんは君の性癖を受け入れてくれてるぞ!イケる!)
叫びたい気分をグッと抑えて心の中でのガッツポーズに止めた。
午後の親友は「太もも……膝枕……」と繰り返し呟くマシーンと化した。
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午後の授業、何も集中できなかった。
今でもにいの声を聞くと昼休みの事が思い出す。
(全部にいのせい!責任取ってもらう!)
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(にい、寝ちゃった。どうしよう)
部屋は2人だけ、膝から聞こえる寝息とストーブの音に包まれる。
(一回寝たら中々起きないにいはどこまで悪戯行けるのかな?)
興奮を覚ます為かはたまた興奮で頭が回っていないのか、寝ている良泰を触り始める。
(肌、スベスベ)
指で優しく撫でる。
規則正しい寝息が聞こえる。
頬を軽く摘んでみる。
(ほっぺ、かわいい)
変化は無い。
上半身を撫でる。
すると寝返りをして顔を下腹部に押し付けられる。
「!!!」
声にならない声で驚いていると良泰の手が胴体に回る。
完全に抱きしめられた形になった玲衣はショート寸前だったり
(にい!なにしてんの!辞めて!)
願いは届かず、更に強く抱きしめられる。
にいって小さい時から毛布とか抱いてないとあまり眠れなかったよね。
久しぶりに見ても寝顔は変わらないな。子供っぽくてかわいい。
髪を撫でる。
安心しきった顔が心なしか更に緩む。
もしかして、何しても気付かれない?
にいは寝ている時に何されても覚えていない。
これ、チャンス?
吹っ切れたのか、変なテンションになっている。
髪を後ろで束ねる。
良泰の頭をそっと浮かす。
体を屈ませて頭を頬に近づける。
ドキドキだけで無い自分でも説明出来ない不思議な感情。
そっと目を閉じた。
ガチャ
あと僅かのところで玄関の開錠音が響いた。
口から心臓が出ていってしまうほど驚いて、急速に冷静さを取り戻す。
取り敢えず良泰の頭をももの上に置いた。
これまでの行動が脳に流れ込んでくる中、最善策を練る。
頭を回転させるもこれまでの恥ずかしさが引っかかり上手く考えられない。
そうしているうちにリビングの扉が開かれた。
「ただいま」
「お、お帰りお母さん。これ、座ったらにいが勝手に寝て動けなかっただけだから。にい起きないから」
怪しさ全開で焦りながら弁明する。
話している内にどんどん恥ずかしさが増していく。
「仲が良くて良いわね〜」
微笑みながらリビングを出ていった。
「仲は良いけどそうじゃない!」
結局良泰は夕食直前の19:00位まで寝た。
その間に父の帰宅も有り、玲衣は夕食中はずっと顔を真っ赤にしていたとかしていなかったとか。




