膝枕はどちらかと言えばもも枕だと思う件
俺の性癖を玲衣に聞かれた日の放課後、玲衣と2人で一緒に帰路に就いた。
しかし、2人の間には誰から見ても明らかな隔たりがあり、それを埋められないまま帰り道をみるみる進み、いつの間にか家の鍵を開ける。
ああ、とうとう一言も言葉を発することが出来ずに家に着いてしまった。
玲衣も話しにくそうだったし。
半分?いや、25%くらいは自業自得になるかもしれないけど、まさかあの会話を聞かれるとは思わないじゃん。教室から離れているんだから特に。
溢れそうなため息と不安を呑み込み、鍵を学校用リュックの中に片付けた。
いつも通り俺が扉を開き、玲衣を先に入れる。
普段の玲衣は「ありがと!」と言うような顔をするが、今日は「あっ、ありがとうございます…」と感じる表情で急いで入る。
ぎこちない笑顔をのまま玲衣の後に続いて足を踏み入れた。
気まずい。
めっちゃ気まずい。
悔しいが玲衣の性癖を割としっかり知ったら申し訳なさもあって少し接しにくくなってしまうかもしれない。
緊張で体が熱く、寒さを全く感じない。
今日何度目になる分からないため息を抑えつつ、慣れた手つきで家の鍵をかける。
「にっ、にい!」
何やら意を決した玲衣が茹でダコのように真っ赤な顔で大きな声をかけてきた。
恥ずかしいのか、玲衣の視線は俺の鳩尾あたりを向いている。
「ひっ、ひ、………膝枕、する?」
「えっ?いや、別に」
突然の提案に考えることが出来なくなり、自分でもよく分からない返事をした。
玲衣は下を向きながら一瞬ハッとした表情になる。しかし、すぐに恥ずかしそうな顔に戻り、頬を膨らませた。
「好きなんでしょ?太もも」
「えーっとですね、それは何というか……………」
恥ずかしそうにしながらも少しずつ心身の距離を詰める玲衣に苦笑いを浮かべるしかない。
「私の膝枕嫌なの?」
うるうるとした上目遣いで少しずつ逃げ道を塞がれていく。
あー、これはどっちに転んでもあかんやつだ。
「私、太ったよね?」と一緒だな、多分。言われたことないから分からないけど。
「全然太ってないよ」と言ったら「本当の事言って!」、素直に言ったらそれはそれで怒られる。そんなパターン。
こういう時の最善策は・・・
ほんのり漂ってくる玲衣の匂いが必死にフル回転させる頭の働きを阻害する。
「ねえ、どうなの?」
くっ、どうする!?どうすれば良いんだ!?
「れ、玲衣の気持ちだけ貰っておくよ」
気持ちを尊重しつつやんわり否定する!
これはいったか!?
確かに一定の効果はあった。が、負けず嫌いモードも発動している玲衣にとっては焼け石に水。更に詰めるように口を開く。
「こんなに可愛い妹の膝枕、この機会を逃したら無いよ」
ぐっ。お主、中々にやりおる!
こう言われると強く否定しなくてはならない。
俺が玲衣に対して強く否定しにくいことを最大限に利用してくるとは…。
強力な一手への打開策を知恵を絞る。
好奇と見た玲衣がイタズラっぽい笑みを浮かべながら追い討ちをかけてきた。
「「体の動きを支える大きな筋肉でありながら適度な柔らかさを持っている。膝枕でそれを感じられるのが良い。丁度良い柔らかさの太ももに埋まりたいし挟まりたい」だっけ?」
グハ ッ!ここに来て切り札!これは返せない!
「切り札とは勝利を確信した時にダメ押しで使うべき」って玲衣と一緒に観たなんかのアニメで言ってたセリフを体現するとは。
これは最後の押し込みされた気分だ。
いまだに真っ赤な顔で玲衣は続ける。
「にいに彼女が出来た時の練習にもなるし。………無駄だと思うけど」
おい、ちゃんと聞いてたぞ。
今膝枕の話なのに俺の心を直接攻撃してきたよね?レギュレーション違反ですよ。
義母さんと父さんには「言葉は傷つける道具では無い」って教えられてたよな。俺と一緒に。
オーバーキルの言葉は一旦置いておくとしても、恥を承知で顔を真っ赤にしながら提案してくれた玲衣の気持ちを無碍にしていいのか?
義兄の勝手な気持ちで義妹( の頑張りを無駄にして良いのか?否、良いはずがない。少なくとも俺的には。
うん、ここは義兄として義妹を立てよう。決して欲望は無い。義兄として。
観念して大きな息をする。玲衣にかからないように。
そして、羞恥心から意味もなく天井を向き、頭をかきながら答えた。
「玲衣がそこまで言うなら」
コートを脱いでも快適な程に暖まったリビングで学ランを片付ける。
まとめていた髪を下ろしてゴムを手首に留めた玲衣はタイツも脱いだ。
ソファに端のほうに座った玲衣は太ももがチラ見する程度にスカートを丁寧に捲る。
顔から火が出そうな玲衣に緊張と期待が混じった声色で誘われる。
「良いよ、来て」
「じゃ、じゃあ失礼するね」
荒れ狂う息を極力沈めながら玲衣の顔の向きと同じ方を向くように右耳を下にしてゆっくりと太ももに頭を置く。
直前まで外にいた為、少々ひんやりとした感触。
太ももから女の子、玲衣の何とも言えない良い香りが鼻腔をくすぐる。
適度に沈みつつも備わっている筋肉の土台で沈みきらない。どんな高級枕よりも心地良く、シルクのようになめらかな上にまるで顔に吸い付くような感覚。
視界の一部にしか入っていないにも関わらず、見えているもの意識を全てを支配する太もも。
右耳が塞がっているからか自分の鼓動が頭の中をガンガンと響き渡る。
「にい、どお?」
緊張して震えそうだが、強制的に力を抜かせる囁く声。見えないがさっきよりも更に赤くなっている事は想像に容易い。
ここで、玲衣の問いかけにどう答えれば良いか問題が発生した。
めちゃくちゃ困る。今何も考えられない。この世にある極楽と言っても全く過言ではない。寧ろ、この他の極楽は何かと聞き出したいほどの心地良さ。
使えない頭をなんとか絞るも思考の限りなく100%近くを太ももに支配されて「最高」しか出ない。
考えに考えていると左の頬にくすぐったく、温かい感触を得る。
「玲衣?」
俺の問いかけには答えず、玲衣は俺の左頬を撫で続ける。
細く綺麗でスベスベの手。
多少の肌寒さをねっぷうで吹き飛ばすような温もり。
覚えている中では初めて感じる安心感で緊張が満たされていく。
いつの間にか心臓の音が小さくなっていき、気がついた頃には全く聞こえなくなる。
段々と重くなる瞼が自然と閉じる事に抗えない。
やがて完全に玲衣の太もものなかに沈んだ。




