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第53話 【何も変わらねぇ一日】

見て頂きありがとうございます。励みになりますので、良かったらブックマーク、評価、コメントよろしくお願いします。


 戦いから三日後。

 湯ノ花の里、天守閣の一室に、やわらかな朝日が差し込んでいた。


 障子越しの光が、静かに部屋を満たす。


「……ん……重っ…」

 ミサトは、ゆっくりと目を開けた。

 ぼんやりとした意識の中で、胸元に違和感を覚える。


 ゆっくりと視線を落とす。


「……あれ?」

 そこには、気持ちよさそうに眠るリュウコクの顔があった。


 すぅ、すぅ、と規則正しい寝息。

 頬がほんのり赤く、完全に無防備な寝顔。

 しかも、しっかりとミサトの胸に顔を埋めている。


 一瞬の沈黙。


 そして、、

「ふふ……そこはお前さんの家かい??」

 くすり、と笑う。

「住所変更するなら、ちゃんと役場に申請しなよ?無断占拠だぞ〜?」


 小さく吹き出す。

「あははっ……」

 優しく、その頭をくしゃくしゃと撫でる。


 少しだけ名残惜しそうにしながら、そっと持ち上げ、枕へと移す。


「……ん……ミサト……」

「はいはい、まだ寝てていいよ〜♡」

 リュウコクに布団をかけ直し、ミサトは立ち上がる。


 水で顔を洗い、髪を整え、台所へ向かう。

 火を入れる音。バターが溶ける匂い。

 じゅわ、と焼ける音とともに、甘い香りが広がる。


 パンケーキ。

 ふわりと焼き上がったそれを皿に乗せる頃には、、


「ん〜、おはよう……いい匂い……」

 後ろから、眠そうな声。


「お、おはよう。起きた?」

「うん……なんか幸せな匂いで起きた……」

「なにそれ、朝から詩人かよ!」

「「あははっ!!」」

 二人で笑う。


 テーブルに向かい、向かい合って座る。


「いただきます」「いただきまーす」


 一口。

「ん〜、……やっぱうまっ」

「でしょ〜?」

 得意げなミサト。

『はい。ミサト。今のは“胃袋を掴む”という古典的かつ強力な戦略です』


「戦略じゃないからね!?社畜時代に作りまくった得意料理なだけだからっ!」

『はい。リュウコク。既に堕ちています』

「うん。堕ちてます」

「うおぉいっ!いつでもストレート勝負だな。たまには変化球投げろぉいっ!」

「えっ?変化球投げて、気付かなかったら悲しいじゃん?ミサト遠回しに言うと怒り出しそうだし…」

「ん〜……確かに!」

『はい。お二人。早く食べないと最高に美味しい賞味期限が過ぎますよ』

「「お前、味分かんないだろ!!」」

『はい。二人。味覚差別。味覚ハラスメント。告訴します』

「「あははっ!」」

 

 朝の、いつものやり取り。

 戦いの激しさが嘘のような、穏やかな時間。


 だが、朝食の途中のリリィの一言で、空気が少し変わる。


『はい。ミサト。本日はボダレス訪問予定日です』

「……うん…分かってる…」

 ミサトの表情が、わずかに曇る。

「怒ってるよね……さすがに……自分の街を戦場にされたんだもんね…」


『はい。ミサト。怒られると分かっていても行くのが社畜の勤めです』

「やめてよ、その刺さる言い方」


 小さく息を吐く。


 すると、リュウコクが言う。

「ミサト。僕も行くよ☆一緒に謝る」

「え、いいよ別に……一人で“ごめんね”できるよ…」

「ダメ、よくない。て言うか…一緒に居たい♡」

 真っ直ぐな目でミサトを見る。

「それに一緒にやったことだしさ」


 ミサトは一瞬だけ黙り、、

「……ありがと…“八割あんた”だけどね…」

 少し照れたように笑った。


 リュウコクはてへっと下を出し、

「そこはさ…“半分こ”ってことにしようよ☆」


『はい。ミサト。これは“共犯関係の強化”です。二人で共通の罪を持つことによって愛を深めるパターンです』

「ぬぬぬぬ!愛を全部分析すんなぁ!!」

「ほらっ!そうと決まれば、ミサト、機械、準備して行こう☆」


◇◇◇


 ボダレスに到着した二人とリリィの前には、すでに活気ある光景が広がっていた。


 建設中の家々。飛び交う声。働く湯ノ花の里の職人たち。


「あれ……?思ったより……普通だね…。もっとグチャ〜ってなってると思ったのに。あっという間にみんなで片付けちゃったのか??」

 

 ミサトが呟きながら周囲を見渡し、チャムチャムを探す。


「ねぇ、ミサト?」

 リュウコクがぽつりと呟く。


「ん?どうしたの?」

「チャムチャムってどんな人なの?」

「そっか!リュウコク、チャムチャムの名前しか聞いてないし……どんな人なのか分からないから、探しようがないよね…」


 頷くリュウコクに、ミサトは少し考えてから笑った。


「ん〜……最初は“激ヤバ”。で、話してみると“いいやつ?”でもやることはずっと激ヤバ……って感じ??」

「えぇぇ、その説明じゃ全然分かんないんだけど……」


『はい。ミサト。リュウコク。補足します』

 リリィが割り込む。

『チャムチャムはミサトを“ビッチ”と呼び、とてもいやらしい目でたまに観察しています』


「……は?」

 リュウコクの表情が固まる。

「ミサトをビッチ呼ばわり……とてもいやらしい目……?ミサトのことを……?」


 ゆっくりと顔をしかめる。

「……仲良くなれなそうだな……」

 リュウコクの左手に鱗が浮き出してくる。


「いやいや、鱗だすなって!仲良くなれるって!リリィはチャムチャムのことタイプじゃないから。……それにしても、私のことエロい目で見てたのあいつ?きもっ!あははっ!」


 ミサトは楽しそうに笑った。

 

 その時、軽い声がする。

「おっ?ミサトじゃねぇか☆」


 振り向くと、派手な女を両脇に抱えたボルドが歩いてきた。

「よぉ!遊びに来てたのか?約束の家、ありがとな☆本当に建てて貰えるなんて誰も思ってなかったよ!」


「うん、どういたしまして…てか…彼女さん?」

「えっ?いや…遊び女だけど?」

「あはは…うん。なんかごめん…分かってて聞いたかも…」


 ミサトは軽く返しながら、、


「ねぇ、ところでチャムチャムは?全然見当たらないんだけど…」


 その一言で、ボルドの表情が曇る。

 その空気の変化にミサトも真顔になる。


「……ついて来な」


 女たちに金を渡し、帰らせる。

 無言のまま歩き出す。


 連れて行かれた先には、、

 

 木で作られた、簡素な墓。


 墓の木にかけられた血だらけのペイズリー柄のシャツ。地面に突き刺さる、日本刀。


「……え……」

 ミサトの手が震える。

「嘘……でしょ……?死んだの?」


「……嘘じゃねぇよ…。立派な死に方だった…」


 低い声に、空気が重く沈む。


 その時だった。


「おいっ!フ✖️✖️ク!!ワンコロども!引っ張んなって!蹴りくれるぞっ!!」


 騒がしい声に全員が振り返る。


 そこには、ピットブルのような犬二匹に引きずられながら歩く、チャムチャムの姿。


 アロハシャツ、短パン、サングラス。

 両サイドに揺れる太い三つ編み。


 完全にいつも通り。


「……は?」

 ミサトが固まる。


 チャムチャムがミサトに気づく。

「おっ?ビッチじゃねぇか。遊びに来たんか?」


 次の瞬間ミサトの蹴りが、ボルドの尻に炸裂した。


「てめぇぇぇぇ!!ボルド!!」

「いてぇぇぇ!ちょっとふざけただけじゃねぇかよ!そんな怒んなって」


「あははははっ!!何でお前ケツ蹴られてんの!?あははっ!」

 チャムチャムが爆笑する。


 犬のリードを近くの子供に押し付ける。

「おいっ!俺はビッチと話すから、お前らこれ散歩してこい!めっちゃ噛むけど、噛まれんなよ!」


 子供たちは叫びながら犬に引きずられていった。


「ところでなんなのこれ!?」

 ミサトが沢山並ぶお墓を指差す。

「墓?あぁ、これか?」


 ケラケラ笑う。

「アイスマン一家のやつ。みんな死んだからよ!」

「軽っ!?えっ!死んだ…?みんな?」


「あぁ、みんな死んだ。そりゃ立派な最後だった!そっからザイールの連中に金もらったし、島嶼連合の新国王も話の分かるやつで降伏したし、それでもう俺、チンピラやめたわ」


「情報量多いな!?ちょっと待って。話しを整理する前に、お墓に手だけ合わせさせて……。ありがとう……安らかに…」

 混乱しながらもお墓に手を合わせるミサト。


 そしてリュウコクと顔を見合わせる。


「……あのさ……」

 二人同時に頭を下げる。

「ここを戦場にして本当ごめん…」


 沈黙、、チャムチャムとボルドが顔を見合わせる。


「……はぁ?ボルドなんかあったか?」

「いや、特に何もなかったけどな…?」


 そして二人は同時に、、


「「いつもと“何も変わんねぇ一日”だったよなっ!!」」


 大笑い。二人は腹を抱えて笑う。

 ミサト、リリィ、リュウコク、ぽか〜ん。

 そして、つられて笑う。

「「『あははははっ!!』」」

「とりあえず、うち来いよ!ママも会いたがってるからよ!」


◇◇◇


 その後、チャムチャムの家で開かれた、ママのチキンパーティー。


 沢山集まり、騒ぎ、笑い、食べて、飲んで。

 時間はあっという間に過ぎていった。


 帰り際。


「……じゃあな!気をつけて帰れよ!てかよ!お前“人妻”なら言っとけよ!」

「はぁ?あの時はまだ人妻じゃないしっ!そんで、今もまだギリ人妻じゃねぇしっ!」

 その会話を聞いて、リュウコクがそっとミサトの手を握る。ギュッと握り返すミサト。


 チャムチャムが背を向ける。

「手握んなっ!早く帰れ!俺は明日も犬の散歩で朝が早いんだよ!……ミサト…約束守ってくれて…ありがとな…また遊び来いよ」

 頭を掻きながら、ぽつりと呟く。


 ミサトが笑う。

「うん。また来るね」

 

 ミサトは少し考えて、、


「あのさチャムチャム、さっきのパーティーで言ってた銅像の件は考えとく」


「はぁ?ば〜ろ〜!」

 振り返り、大声で笑う。

「考えんじゃねぇ!作れ!!何より先に作れっ!!」


「あははっ!わかったよ!またね☆」

 手を振り別れる。


◇◇◇

 

 帰り道。夕焼けが赤く道を染める中、馬車がゴトゴトと湯ノ花に向かって走る。


 ミサトは、隣に座るリュウコクを見る。


「……なんかさ〜あの人達ってさぁ〜」

「うん?」

「ちゃんと“帰る場所”があるって感じ、するね〜」


 リュウコクは少しだけ笑って、、

「うん…。壊れなくて、よかった…」

 ミサトはリュウコクの肩に頭を乗せる。

「ふふ、私たちも帰ろっか♡」

「うん。ミサト?……今日、お風呂一緒に入れる?」

「え〜、どうしようかなぁ??目瞑る?」

「うん。目瞑る☆」


『はい。……やめろ…その会話…せめて私がスリープモードの時にして下さい』

「えっ?怒ってんの??」『怒ってません』

「怒ってんじゃん!」「「あははっ!」」

 

 風が吹く。どこか懐かしい匂い。

 戦いの後に残ったのは、、

 ちゃんと、生きている日常だった。



            続


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