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少女が壊す『永遠』  作者: 甘党
第二章 アンチエージ
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第十二話

 ホロが私を『兄貴』――名前はサダク――のもとへと案内してくれることになり、家の前でフェネクス、ビビの二人と別れる。その際、私に聞こえないように警戒しながら、ビビは兄へと何やらしきりに耳打ちしていたが、その内容は大方予想がついた。なんと兄思いな妹であろうか。


 私へと元気いっぱいに手を振りながら去っていくフェネクスに、こちらも大きく別れの挨拶を返しつつ、ホロと一緒に歩き出す。時刻は昼間過ぎといった頃か、空は相変わらずどんよりとした雲が立ち込めていたが、視界は割と明るく、通りを行く人も少なくはない。

 普通の服装になったお蔭で、先ほどのように衆目を集めることはなく、安心して村内の様子を観光できる。ホロの案内も手伝って、おおよその全体像を掴むことができた。アンチエージには大きく分けて五つの区画があり、入り口の門へ繋がる大通り、定期的に市場の開かれる広場、ホロの家のあった住宅地、レストランや喫茶店などの飲食店が集まる通り、そして最後にフェネクスの屋敷がある小高い丘、となっている。話を聞く限りそれ以外の施設群は無く、規模と機能、両方の面から考えて国や州とは呼べないだろう……あくまで私見だが。


 ホロの『兄貴』であるサダクが良くいるのは、とある喫茶店らしい。サダクはそこで友達と歓談したり、あるいは一人で読書を嗜んだりしているそうだ。


「しっかし、なんでまた急にトワは兄貴に会いたくなったんだ? まぁ確かに頭良いし、かっこいいし、ぶっちゃけモテるけどよ」


 ホロに聞かれて、弱った私は話を無理やりすり替えることにした。

「まぁちょっとね。それより気になっていたんだけど、ホロには二人兄妹がいるじゃない? あんたの話じゃアンチエージの人は歳を取らないらしいし、生まれも同じフェネクスからって言う。どうやってお互いを兄弟姉妹だと判別しているの?」


 すると彼の方が困り切った顔になってしまう。私の質問が要領を得なかったのかもしれないが、答える以前に内容そのものが理解できていない印象だ。ホロは気立ての良い少年ではあったが、やはりサダクと会う必要がありそうだ――と私は改めて感じるのだった。


 目的の喫茶店のある通りに来て、少し驚いた。飲食店街というから、華美な雰囲気を想像していたのだが、どの店もほとんど同じ見た目なのである。木造の、一階建て。つまりはホロの家と同じログハウスだ。窓の位置などの細部の違いはあれど、敷地や高さはほとんど変わっていない。

 さすがに背筋に寒いものが走った。最初は田舎風の雰囲気が出ていて良いかもなんて思っていたが、それも通り越してもはや不気味だ。なまじ技術がある程度発展しているだけに違和感が強い。


 店自体はすぐ近くにあって、私達は二人し喫茶店へと入った。いわゆる隠れ家食堂とでも言うのだろうか? 民家を改装して喫茶店にしているらしく、ごく狭い玄関や廊下など、店の間取りはどう見ても一軒家のそれだった。

 元は居間だったと思しき部屋へ案内される。わずか二つしか用意されていないテーブルの端の椅子にはたして一人、読書に没頭する少年の姿があった。ある程度察しはついていたが、その背格好はホロとそれほど差がなく、艶やかなその肌からしても、私より年上というのはあり得なさそうだ。


「兄貴! やっぱここだったか」


 嬉しげに少年の肩へと飛びつき、やんやと騒ぎ立てるホロ。栞を挟んで本を閉じつつ、少年はだるそうな声で言った。


「うるさいな。本を読んでいる時は静かにしてくれと言ったろう」

「あー……ごめんごめん。でも、紹介したい人がいてさぁ」


 あからさまに面倒くさそうな少年を気にもとめず、ホロは誇らしげにその場で私の説明をし始めた。ホロ本人の功績を目立たせるような脚色が、若干その内容には混じっていたが、大筋は正しかったので、私は口を挟まずにこにこしていた。


 少年――サダクの方も言動の割には面倒見の良い所があるようで、最後まで席を立つことは無かった。

「――ってわけだ。すげーだろ」

 語り終えて胸を張るホロに、しかしサダクは大きくため息を吐いてみせた。


「お前……どうしようもない奴だな。もういいから、いったん帰れ」


 その冷酷極まりない反応には、さしものホロも動揺したらしく「なんで!」と大声を上げる。


「なんでそんなこと言うのさ! 兄貴ならトワがどうやって来たか、とかも分かると思って……!」

「よそ者に入れ込んだって、良い事は一つも無い。それならビビの様子を見に行った方が数倍ましってことだ。あいつ、案外うっかりしていることも多いからな。ほら、早く」


 言いながらしっしっと手を振るサダクに、ホロはかなりの衝撃を受けたようだ。彼の性格ならむしろ食って掛かりそうな気もしたが、実際には逆で、心底しょげかえった様子で肩を落としてしまった。


「そっか……。ごめん。行こう、トワ。今日は兄貴、機嫌が悪いみたいだ」


 言いながら、ホロは私の手を引こうとしたが、それを鋭くサダクの声が呼び止めた。

「待て。そいつは置いて行け」


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