EX.50 「衝突」
アキヒトにガオウと呼ばれた人間は悠々と歩いている。
銀髪の刺々しい髪、服を着た上でもよく分かる筋肉質な身体、俺にはそういう彼が見えていた。
俺は今手元にいる彼女が小刻みに震えているのを実感していた。
怖いのだろう。
知ってる。俺だって怖いから······
「邪魔な木々だな······ちょっとのかすか」
すると、まるで狂気な驚異な顔で彼は嗤った。
右手に力が加わるのが筋繊が膨らんでいるのを見て認識する。
ブンッ‼と5メートル先にいる自分達にも聞こえるような轟音で轟々と聞こえた。
その瞬間、スパッ、スパッと木が斬れ飛び、斬撃が生まれ飛ぶ。
俺は手に砂を掴んで振り投げる。
「"サーベル·タイフーン„‼」
その砂が空を巻いて、竜巻が生まれる。
斬撃と竜巻がぶつかって、不協和音を奏でる。
轟々と生まれた竜巻をまるで嘲り笑うように、軽々しく、簡単に竜巻が消失する。
だけど、俺が欲しかったのはたった数秒の時間だ。
その生まれた数秒で俺はカレンを腕の中に残して避けきり——————逃げ出した。
「なっなんで!どうしたの!?」
「逃げるしかないんだよ‼俺じゃ······俺達じゃ、あいつに敵わない‼」
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そんな、アキヒトくんが負ける訳がない······!
そんな言葉が、そんな感覚が、そんな思考が自分に巡らなかったといえば嘘になる。実際に顔にも口にも出ていただろう。
完全完璧の最強の英雄。
そんなものを、傲慢で不躾な考え方だと吉田に言われたのだが、それでも彼女は彼に対しての印象はそんな事は揺るがなかった。
今私は彼の腕に丸められて持たれている。
悔しさと自分が今、彼の足枷の一部になっているという辛さによって、私が唇を噛んだ時、彼の力が抜けた。
降ろされたのだ。
よく見ると、未だに乱入者は悠々と歩いており、あの凶悪な腕もこの距離では殆ど見えない。
もしかしたら、降ろせる時間が出来たから、降ろそうと考えたのだろうか。このまま逃げるのだろうか······
そう考えていた彼女の前で、彼は信じられない言葉を発した。
「出来るかどうか分からないけど、俺はここで時間を稼ぐからお前は皆の所に逃げてくれ!」
「そんな······そんなの無理だよ‼」
その姿はまるで子供のようだった。
「でも······ここで俺達がぶつかって、共倒れする未来が見えるんだ!それに······お前には死んでほしくないんだ‼」
それは、俺の偽りのない本心であった。
たとえ俺はミリ単位でバラバラにされても、あの驚異的な再生能力によって復活するだろう。
でも、彼女は人間だ。
俺みたいな本物の化物ではなく、俺のようになりたいと願った天才だ。
バラバラにされたら必ず死んでしまう。
たとえ、致命的な攻撃を受けても······だ。
俺のせいでこんな事になってしまったのだから、俺が彼女を守らなければいけない······そんなエゴイズムな考えがあった。
そんな俺の考えを読んだのか、彼女は走り出した。
私は走り出した。
その時、ドゴォォオオン‼という地鳴りとドシッという音が重なった。
私は少し後ろの様子を見た。
そこには最初の地鳴りの元凶である乱入者とアキヒトがぶつかっている様子だった。
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俺は『金剛』の能力で、ガオウの爪を受け止める。
たとえ、最上の硬度を持つダイアモンドでもガオウの一撃が強く、俺は深く仰け反る。
「よう、あの女は逃したのか。あの女はもしかしてお前の女なのか、アキヒトよ‼」
「お前に教える義理なんかねぇよ‼」
すると真四角な枠が俺の真下に現れ、そこから黒い炎が漏れる。
「"ブラックドーン„‼」
そこから長方形の四角柱の箱が俺を包む。
「ぐうぅ······!」
その中から黒い蒸気のように発される刃が俺の身体に埋め込まれ、俺は呻き声を漏らす。
俺に一発一発と埋められる度に俺の頭がある言葉を発してくる。
殺せ······殺せ···殺せ······‼
「違うだろ‼」
俺は引き抜いたムーンフェアリーを肩に乗せて、全力を込めて振り下ろす。
『約束された友情の証』
その正体はアキヒトのエネルギーを込めた、全力の最上の一撃である。
しかしそれには俺の集中力を大幅に消費するので、半日に一度のピーキーな技である。
その一撃で闇の檻を斬り割き、俺はガオウに飛び出す——————『二連撃目』を撃つために。
『アレスティック·インデンション』
『二連撃』の奥義である。
その技は一撃目に縦に一直線に振り下ろしたあとに、利き手の反対側の手で柄を支えてそのままに豪快に振り上げる連撃技である。
隙が大きく、致命的な技であるがこのまま繋げれる技がこれしかなかった。
結局、その剣は避けられ、空を斬るのだが。
いける·········‼まだいける‼
俺は先程の技によって集中力が切れかけている。
「なんで俺があの女を追いかけなかったか分かるか?」
「知らねぇよ‼」
俺は剣や拳を巧みに使いこなすが、ガオウはその攻撃を避けたり、爪を使って受け流していた。
早く······終わらせないと······‼
「キャアアアアアア‼」
え······?
「集中が切れたな」
そう言うと共にガオウの人差し指が俺の腹に突き刺さる。
「ガバッ!」
口から血が噴き出す。
まずい······だけど、こんな所で終わらせる訳にはいかない。
「『約束された友情の証』‼」
「"龍爪拳„」
残りの意識をフルに使って本来ならもう使えない大技を使ったのだが——————吹き飛んだのは俺だった。
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『太陽圏の台地』 『唐傘おばけの草原』ユウスケチーム
「くそっ······こんな所で······」
目の前に現れたのはガオウだった。
それはガオウであり、ガオウではない存在。
彼らはたった一人によって全滅させられていた。
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『太陽圏の台地』 『1つ目小僧の沼』山本チーム
同じく現れたのはガオウであった。
既に全員が意識を失い、無防備な状態であった。
「こちら1号、『1つ目小僧の沼』でのミッションクリア。後に3人を移す」
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「了解」
『太陽圏の台地』 『ろくろ首の森』アキヒトチーム
電話を受けたのは『本物』のガオウであった。
彼は自分が何人もいるわけではない。
『能力』を使ったのだ。
本来人間は『能力は1個体に1つ』という原則に例外あれど従っている。
その例外とは『魔玉』のことである。
純度100%の1つの能力が詰まった玉を潰すと、その潰した人物にその『能力』を分け与える。
ガオウが今まで潰したのは『闇』と『分身』の能力だ。
事実、戦いの場で圧倒的に使えるのは生まれたときに授けられる『1個体の能力』でガオウはその『爪』の能力を多く使った。
彼は自分が強くなることに数限りない努力をしていた。
その結果、彼は今『三種』の能力を手にしている。
そして、今アキヒトに勝っている。
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薄れゆく意識の中、俺は彼女を見ていた。
恐らくあの叫びと同時に気絶させられたであろう彼女を——————
「あ······れ、ん······」
もう俺の口から言葉と呼べるようなものは出なかった。
「アキヒトよ」
彼女を俵担ぎし、ガオウは言う。
「俺は今は殺さない。明日、正午に『麒麟首の大樹』でお前を待っている」
そう聞くと共に俺の意識はなくなった。
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俺の意識が戻ったのはまだ周りが暗かった時だ。
よろよろと周りを見るとそこにはカレン以外の皆がいた。
「·········くしょう······」
俺の頬に流れる熱いものは涙だと気づくのに時間がかかった。
「ちくしょう······ちくしょう‼」
俺はドン、と地面を叩く。
無力だ。だから彼女を守れなかった。
『お前には死んでほしくないんだよ‼』
なんてピエロなんだろう、守れなかった守りたかった、なのに守れなかった。
屑でのろまでカス野郎。
俺を呼ぶにはそれで充分だろ。
だけど······戦え、この身が滅びても、たとえ俺が死のうとも——————
「ちき······しょう······」
『セブンウォーリアーズ』初めての戦線は——————
完全敗北だった。




