EX.49 「強襲」
ここはとある台地——————『太陽圏の台地』に今俺達はやって来た。
俺はつい昨日、弟に「ちょっと調味料買ってきてくれないか?」という頼み事なのだが、ハルトの使っている調味料は少し特別な物で都市ぐらいに行かないと行けないしハルトには顔パスみたいなものがあるのでハルトが最適なのだが、流石に俺は兄なので行くのと、折角だしギルドに行っておこうかなと思ったのもあるので、別にパシられた訳じゃない。
その時、掲示板に載ってあった依頼書をくまなく読んでいたのだが、初戦としてちょうど良さそうなのを選んだ物が———
「不死鳥の花?」
カレンの疑問に俺はちゃんと正した。
「不死鳥じゃなくて不死蝶の花な?そういう名前の蝶が唯一蜜を吸い取る花があるんだ。その花はなかなり希少だけど不治の病も治すという噂もあって色々な科学者や医師が血眼になって探しているんだろうさ」
「ほう、それが日本ではここしか生えないのか」
「そうそう、この『太陽圏の台地』が唯一不死蝶の花が生えるんだ」
「モフが行きたがってたなぁ······」
そう、思いにふけるハルトを横目に明らかに不機嫌な吉田を俺は見る。
「どうした?」
そんな俺の疑問に答えてくれたのはカレンだった。
「昨日色々あってね。ストレスの溜まったユウキちゃんが今日にモンスターを殺戮しようと息巻いていたのに、結局依頼内容が花つみなんてつまんないってさ」
「ユウキちゃんって言うのやめて」
「じゃあユーちゃん」
折れた‼あの吉田が折れた‼
まあ確かにあいつのゴリ押しは強いよな。昨日の午前に電話してきて吉田の家の場所教えてくれ、の内容で10分間しつこく聞かれたからな。何度も冷や汗をかいた事を覚えているよ。そして、恐らく吉田にはカレンへの抵抗という概念が既に折れているのではないのか、と俺は思っている。
という名探偵じみた経験談(笑)は置いておいてそろそろ向かおう。
「一応あると言われている所が3つあるから取り敢えず3つに分かれて行動しよう」
「じゃあ私はアキヒトくんと一緒がいい‼」
そう言ってバッ!と手を挙げるカレンを見て吉田が嘆息して。
「いいわよ······アキヒト、あの子は女の子なんだからしっかりと守るのよ」
「いや、別に良いけど。お前結構母親っぽくなってないか?カレンの」
「もはや母親じゃなくて、教師みたいなものだわ」
一体何があったんだ?と俺は思ったがこれ以上はプライバシーに関わりそうなので聞かないでおこう。
「じゃあ俺は岡田と行っておくよ」
と山本が言って、岡田は仕方ないな、というように頭をふる。
「じゃあ残り物は俺達だな!トップを目指そうぜ」
「そうっすね‼」
「はぁ······暑苦しいわね······」
と、全員の集まりが決まった所で皆が解散する。
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『太陽圏の台地』の不死蝶の花が採れるのは、『ろくろ首の森』、『唐傘おばけの草原』、『1つ目小僧の沼』の3箇所だ。
何故、その場所を示す名前が妖怪の名前で伝わっているのは、実際にその場所に妖怪が目撃されたというまさに不明瞭な話から生まれたのだ。
実際、その土地にその場所にそういう名前を取り入れるのは、そうなればいいなとか、そうすれば良いだろうとかではなく、その土地にその場所にどういう出来事があったのかという感覚で作られる為、そういう不明瞭な名前の方が不思議ではない。
そんなこんなで、俺達二人が目指したのは『ろくろ首の森』だ。
「そういえば、アキヒトくん。『不死蝶の花』ってどんな形をしているの?」
俺はそんなカレンの疑問にインターネットから仕入れた情報をもって。
「ギザギザしている形らしいよ······まぁ、目撃情報が少ない分確かな情報の方が多くてさ、ほらこういう植物だよ」
そう言って俺は懐からある写真を取り出す。
この写真は依頼人から貰ったものだ。だが、それはあくまでもギルドの役員さんに貰ったものだが、依頼人と英雄はほとんどの場合は顔合わせをしない。だからこそ、英雄は何も気負いをせずに顔色を伺わずに仕事が出来る訳なのだが。その『ほとんど』以外は大抵有名人や著名人の護衛などであり、難易度も気負いも何倍にも跳ね上がるので、ほとんどの英雄は依頼人は分からないがまだやりやすい方を選ぶ。
まあ俺は山勘と見た感じの難易度とやりやすさを選んだ結果がこれなのだが······
「ほぉ〜確かにギザギザだぁ〜」
「だろ?」
「じゃあ、アレじゃない?」
「そうだなぁ〜······ん?」
もはや無意識に会話を成立させようとした俺にまさかの言葉がやってきた。
「は!?どれどれ!?」
「ほら、アレだよアレ」
彼女が指差したのは『ろくろ首の森』のまさに入口、手前中の手前だ。だからこんな所にあるはずがない——————なんて、思っていたのだが······
ある、あるのだ。
しかも10本以上。
「ああ······確かに本物だな」
結局近づいて確認したところ本物だと解った。俺には『花』の能力があるからそういうのには敏感になれるのだが、こういうご都合主義的な事が起きると流石に心配になる。
何かいい事が起きると、何か悪い事が起きるのだ。
世の中はプラマイゼロ。プラスだけじゃないのだ。
何か帰る時にバナナでも落ちているのかな。
そんなお気楽な事を考えながら、残り2本を残して『不死蝶の花』を取ろうとしているカレンを見る。1本以外はモフへのお土産だ。
「カレン。皆にメッセージを送っておいてくれ。もう、帰るとは思わなかったけどな······」
「了解でヤンス‼」
嬉々としてラインを開けて皆にメッセージを送ろうとしているカレンを背に、俺は奥の風景を凝視していた。
『ろくろ首の森』の奥の奥だ。
樹齢百年を超えそうな木々が、まるでボーリングにぶつけられたピンのように吹き飛んでいた。
陸波か······?
いや、違うな。陸波ならここら辺にも揺れが来ているはずだから。
じゃあ、あれは何なんだ?
すると、キュイイイイイン!という甲高い音と共に何かが近づいて来るように感じた。
真正面から——————
「お!?おおおおおおおああああ‼」
「えっ···キャアアアアアア‼」
俺は少ししゃがみ気味だったカレンを引き上げて飛ぶ——————『天空飛行』さえ使わなかったが、俺は全力のジャンプを地を飛んだ。
その最中、俺の目に写ったのは。
可視出来る弧を描いた斬撃だった。
いや、これは斬撃ではない。
キッ、と俺は斬撃の飛んだ方を睨む。
ザッ···ザッ、と悠々とのうのうと歩いている足音が聴こえた。
そう······これは斬撃ではない——————
『爪』だ。
「『お前は誰だ‼』なんてセリフを期待していたんだがなぁ」
その人間は悠々と喋る。
その人間は——————
「なあ、アキヒトよ」
俺の知っている人間であった。
「知らねぇよ······ガオウ‼」




