EX.48 「レンアイシロウト」
「おっはぁ〜‼」
「おっはぁ〜、じゃないわよ。なんであなたがここに?」
とある土曜日の朝。長いポニーテールをした少女が私の家に現れた。
いや、それじゃあ説明がなさすぎるだろう。
彼女の名前は余島 花恋。
歳は私と同じ14歳。
能力はランク19の『魔女』。
どうやら彼女はある規制というか制限というか——————という物に自らの能力に付け、普段は本来の力が使えないらしい。
······まあ、別にそれ以上を知っているわけでもないので、それ以上を答える事は出来ないのだが。彼女が追いかけた『王子様』———アキヒトとの様子を見る限り。
独占欲が豊富でかなりのヤンデレ気味というのが少しばかりの欠点であり、それ以外は見た目も技能もなかなかよろしい······というのは私の見解であり、別に私は彼女の親でもなく、教師でもないので、知る必要もないし、知る価値もないだろう。
まあ、それでも共感出来る所はあるので無碍にはしたくない。
「······それにしてもあなた、私の家をどうやって······?」
彼女はそれが私が訝しげに見ていた理由だと理解したようで(別に違うのだが)はっ、と笑顔で反応した。
「あっ、アキヒトくんに電話したら、ここにあるって聞いて来ました!」
「そっそうね······分かったわ······」
あいつ次あったら殺してやる‼
そんな私のオーラを感じたのか、目の前の彼女が少し涙を浮かべてデフォルメ的にビクビクしている。
私の感だが、恐らくアキヒトの方もゾワワッ‼となっている所だろう。
とはいえ、別に彼女は何も悪くはないので家に上げる事にした。
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彼女はこの家に入ってきてしばらくしてもキョロキョロしている。
「どうしたの?」
「いえ······結構片付いてるなあ···なんて」
「別に一人暮らしなんてそんなものでしょう······それともあなたは片付けが出来てないの?」
すると照れくさそうに頭を掻いて。
「いやぁ〜実は全然家に家具が無くて、困ってるほうなんですよ」
あら以外と私は思った。
「なら、どうやって生きているの?別にエサはくるものじゃないわよ」
「いや一通りの物はありますよ‼ただ、この本棚のような娯楽の家具が無いという訳なんですよ‼」
「あらそう······引っ越し祝いに何かお薦めな本を贈ってあげようかしら」
私はこんな事を言いながら、そんな事を言う自分に驚いていた。
私は宮田と同じように人間不信な所がある。
宮田自身はそんな自分から変えようと今、頑張っているが、私はこうもいかない。
親を亡くして。
親戚に預かられているという戸籍上だけ用意して、他の人からはこう言われるからだ。
『辛かったね。大丈夫?』
あなたは本当に分かっているの?
『辛かったね』なんて常套句は、自分が実際に起こっていない人間が話せる言葉。本当に辛いと思った事がないから——————実際に自分の身に起こっていないからそんな残酷な事が言えるのだ。
宮田と出会ったのは小学生3年生の時だ。
『辛かったねなんて······言ってほしいのか?』
当時から大人びた印象だった。
当時無意識に人間関係から逃れようとして、吐いた事実に彼はこう応えたのだ。
『辛かったねなんて、俺には関係ない話だ。他人の人生なんて自分には分からないからな。だから、そんな事を言ってほしいのか言ってほしくないのかは自分で決めてくれ』
何故かその時救われた気がした。
彼の心が既に壊れているのは今のように話す前から予想がついていた。
彼の目は暗く。まるで光を吸い込むブラックホール。誰も信じず、誰も信じれず。彼の心は閉ざしきり、自らの手で壊したのだ。
だからこそ良かった。
不謹慎だが、嬉しかった。
自分と同じような人生を歩んでいる人間がいたなんて思ってもいなかった。
自分と同じような辛い目にあっている人間なんてここにはいないと思っていたからだ。
彼には少しずつだが、話すことが出来た。
友達として、信用出来る人間だった。
だからこそ、私達二人はあくまでも二人自身の『紋章』とも言えるような苗字で呼びあった。
正直に言うと、彼が助けた少女がここに現れた時には多少なりとも驚きがあった。
······なんて、思っている間に結論がつき始めていた。
彼女には自分が安心出来るようななにかを発しているのではないか、と思った。
私が出した熱々のお茶をふーふーしながら、飲んでいる彼女を見て思った。
安心出来るなにか、なんて全くもって不明瞭だ。
たが、惹き込まれるなにかがある———と言ったら分かりやすいだろうか。
宮田に向けていた殺意がどこかに飛んでいき、私は彼女の目の前に座った。もちろん机を挟んでだ。
「それでどうしたの?こんな所に来た理由はあるんでしょう?」
彼女は——————カレンは結局お茶を飲むのを諦めた様子で、湯呑みを置いて話した。
「実は············アキヒトくんと付き合う方法を教えて下さい‼」
ぶぶほぉぉぉぉぉ!
私は吹き出した、お茶を。
こんな時でも倒置法を使うなと言われるかもしれないが、本当に吹き出したのだ熱々のお茶を。
「熱っ······熱っ!」
こんな時でも日本語なんだ······、とそう思いながら、私は彼女を見ていた。
その流れ弾を喰らい悶ているカレンを前に私は咽ながら。
「ごめんなさい。もう一度言って?」
「アキヒトくんと付き合う方法を教えて下さい‼」
私は両手を前に出して。
「分かったわ······でも待って。考えさせて。あと布巾を持ってかせて」
「えっ、あっはい」
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私は濡れ布巾で私が吹き出した跡を拭いていた。
どうする······!っていうかなんで私!?他に頼れる奴なんていくらでもいるじゃない‼
頭の中で絶叫しながら、目の前で目をキラキラさせているカレンに向けて。
「あの······すみませんが、なんで私に······?」
「ユウスケくんに聞いたら『吉田は恋愛のスペシャリストなんだせ』って」
あいつ次あったら殺してやる‼
結局燃え尽きた筈の殺意の炎が燃え上がってしまった。
「ごめんなさいね。私は恋愛のスペシャリストなんかじゃないわよ」
カレンはあからさまに顔を変えて。
「そんな······‼今日は楽しみに来たのに‼」
「そんな楽しみで来ないで。お願いだから」
私はそもそもなんで、と言って。
「彼に『好きです』なんて言えばイチコロでしょう」
そんな簡単にいけるわけないでしょう‼」
バン‼と机を叩いた音に多少慄きながらも彼女の言い分を聞く。
「私だって努力が必要なんですよ‼ギャルゲーやハーレムゲームや恋愛ゲームのように選択肢がある訳でもないし、ゲージが見えるわけ無いですからね‼もし、ゼロの時に言ったとしても『ごめん、お前とは友達で痛いんだ』とか言われるパターンなんですよ‼そんな現実はファックなんですよ‼」
ファックは凄い流暢で言っているらしいが、私の英語力じゃ横文字に変換するぐらいしか出来なかった。
「要は『告白して付き合いたいけど、恥ずかしいし、もし失敗したらどうしよう』ってことだよね?」
「そうです‼」
相変わらず机をバン‼と叩くカレン。そろそろ壊れるかもしれないから止めてというしか出来ない。
「なので······助けてください‼」
助けて······助けてかぁ。
私も宮田よりかは低いけど、その言葉には弱いのよね。
「分かったわ······でも条件があるわ」
「なんでしょう」
「必ず付き合って私に幸せのオーラを譲りなさい」
「ガッテンです‼」
その後、暫くの話し合いが続き。恋愛素人の二人のタッグが生まれた。
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その夜。
「疲れたぁ······」
彼女はぐったりとしていた。
晩ごはんはカレンが作ってくれた(かなり美味しかった)事もあり、楽に済んだのだが、それでも疲れたのだ。
ポロンと自分の携帯のラインからメッセージが届く。
『依頼書を手に入れたので明日、集合出来る人はお願いします』
私は『了解』と送り参加の意志を見せる。
今日はあんなに疲れたのだ、恨み潰しでモンスターどもを倒しておこうと思った。
三連休の土曜日。
この日が最も安全だったなんて知らずに——————




