EX.273 「揺蕩の卵」
ーーー不自然なまでに順調だ。
それはどちらのチームでも似たような感想であった。
普段であれば何かしらの障害が用意されているはずだが、それが一切無いと言われれば強烈な違和感を持つのも仕方のないこと。
そしてーーー
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そして、その唯一とも言える違和感を孕んだチームの中でハルトは口を噤んでいた。
先日トモキによって伝えられた事実。
目の前に走る大男は死んでいる可能性の高いということ。
そして、それを知ったアキヒトの判断は他のメンバーに黙っておく、ということだったこと。
故にこちらの勝手な判断で二人に話しておくべきではないと決めた。
この異常事態で余計な思考を増やしてはいけない。
特に戦闘特化な二人には雑念を残しておきたくなかった。
・・・・・・最悪おれがあの人を監視しておけばいい。問題なのはーーーあの人が敵なのか違うのか。
この場合三択だ。
①すでにこの人は死んでいて、残留思念のような形で残っている。
②相手の能力に操られているか、元々敵だったのか。
③そもそもトモキの勘違いだった。
一番ありがたいのは③なんだけど、そう上手くは行かないよなぁ。
アキヒト程ではないものの嫌な予感はビンビンと鳴り出す。
隙を見せれば間違いなく食われると思えるほどの嫌な予感が。
「ストップだ。みんな」
バウワンは静止を指示し、その場にいる全員が順守する。そして彼は地図を開き納得したように頷く。
「ここが彼が指し示した所だ。見た目に違和感はないが強烈なオーラを感じる」
「間違いなく敵って感じがするなぁ。地球のエネルギーとは全く持って違う。どうだ、ハルト?」
「いやぁ、エネルギーとかそう言うのは分かりませんが、嫌な予感は感じますね」
「ぶっちゃけ出たとこ勝負な気がするがーーーバウワンさん」
「どうしたんだい?ユウスケくん」
ユウスケは澄ました顔でゆっくりと下ろした手を腹に寄せて。
「起きてから体調が物凄く悪い」
「ええ!?」
「あっオレもだ」
「はあ!?」
まさかの山本も同意したことにハルトは驚きを隠せなかった。
「もしかして・・・・・・昨日食い過ぎたっすか?」
「確かにこの街のご飯は珍しいものが多すぎたな」
「普段食わないものって腹降しやすくなるよな」
なんの同意?ーーーそう言いたくて仕方のなかったハルトくんだった。
「確かに美味しいものもたくさんあるけれど食べ過ぎは良くないよ。腹八分目が丁度いいって医者も言ってる」
「いや食べさしたのアンタですけどね」
「『君たち若いんだからたくさん食べた方がいいよ!なあに私も若い頃は倒れるほど食べたさ!』って言ってたのは誰でしたっけぇ?」
「・・・・・・全く覚えてない。ホントかい?」
「若い脳みそを舐めるな!」
この光景はまさしく戦争の中、地雷原で押し合い喧嘩する馬鹿にしか見えなかったハルトくんであった。
ーーーそれにしても・・・・・・覚えてない、か。
単純に発言を忘れるならアキヒトもよくやっていることだ。ただどうしてもそれは違うのではないか、と訝しんでしまう。
「下痢止めなら持ってますけど飲みます?二人とも」
「いや、問題ない。オレには鋼鉄の腹筋がある」
「それは寧ろダメなのでは?」
ユウスケは黙って受け取ったが、山本は最後まで受け取らなかった。
「さて、今度こそ先に進めよう。ここでの問題はどうやってこの真下に行くべきかと言う点だ」
「【空圧拳】じゃ駄目なのか?」
「流石に地面には対して通用しないだろう。凹まされて月のクレーター程度だ」
「十分じゃないですか師匠・・・・・・。ところでバウワンさんの能力は一体なんですか?」
ここぞとばかりにハルトは相手の手札を確認しようと考えた。
「私は『完全』という能力だよ。あらゆる物理攻撃、魔術攻撃を無効化させるんだ」
「へぇーなんか凄そう」
「ああ、基本どのようにやっても死なないから僕の地元ではどうやって殺すかが飲みのトークテーマになることが多いんだ」
「いや物騒だな!普通の話じゃないだろ!」
いやユウスケさん。貴方も、アキヒトってどの部分切り取ったら再生出来ないんだ?、みたいな話してたじゃないですか。
それにしても幽霊系の能力じゃなかったのか、復活しそうな能力でもないし・・・・・・。
「かなり悩んでいるようだ。どうしたんだい?」
やばっ顔に出てたか。
「いやっ!どうやったら真下に行けるか考えていたんです!バウワンさんって地下に行けるルートとか知りません?」
「うーん。私もそこまでここに居る訳ではないしなぁ。用水路もそこまでの高さではないだろうし」
「おいおいハルト。オレ達を誰だと思ってるんだ」
「脳筋三銃士の一人」
「そう褒めるな」
「褒めたつもりは一切無いです」
「見てみろ」
ユウスケはそれだけ言うと『時雨刀』を抜いた。
そして思いっきり地面へ振り抜いた!
「ええ!?大事な刀だろ!」
「この程度で刃こぼれするほど柔な刀じゃない」
普通は刃こぼれするんだよ!刀まで脳筋なのはやめてくれ。
砂煙が止んだ後を見ると、強烈な刀跡が残っていた。
「・・・・・・もしかして街ってユウスケが?」
「やってないわ!俺をどこまで馬鹿にしてんだよ!」
「ーーーなるほどユウスケくんが斬り叩いて地面を脆くするのか!確かに効率がいい!私も手伝わせてくれ!」
「やだもう!このパーティー脳筋しか居ない!」
その後さらに十回ほどユウスケが地面を切り裂いて、一度刀を仕舞った。
「よし一発決めてやれ!」
「行くぞー!記念すべき一射目喰らえ!【空圧拳】!」
ドゴンッ!と猛烈な低音が地面に響く。
一瞬は地面も無事だったが、途端に波打ち地面に敷き詰められた煉瓦がポップコーンのように弾き出る。
そしてーーーおれ達の立っていた地面がぽっかりと穴が開いた。
「うそ・・・・・・うそうそうそうそうそーーーうそ!」
こんなの、イヤダーーーーーーーーーー!
落下していく中、ハルトの悲鳴だけがこだましていた。
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「痛っだぁ!思いっきり頭打った!死ぬ!」
「その程度ではしなんよ。アキヒトだって無事だろ」
一応おれは無能力者なのだが、誰も納得してくれない。
「それよりも立て、冷たい空気がビンビンに感じる」
そして山本は一呼吸置いてこう言った。
「殺しを何度も経験した奴がいる時の空気だ」
おれは肌では感じ取られない。こればっかりは経験の差を感じさせられる。
差し出された手を握ってゆっくりと立ち上がる。
おれの眼前に広がったのはーーー
「なんて、デカい空洞なんだ・・・・・・」
上では感じられないほどの巨大な空間が広がっていた。
「二人は・・・・・・」
「暗くて見えづらいがあっちに居る」
指し示した方向に僅かだが人影を感じた。
「行こう」
おれは師匠の言葉に、はい、とだけ言って前へと歩み出した。
「おう見つかったか」
ユウスケは軽く手を振った。
そして見てくれ、と言って何かを投げてきた。
おれはかろうじて掴むと、その圧倒的な存在感に襲われた。
「これは・・・・・・骨!?しかも、竜の!」
「ああ、ここにはどでかい竜の骨がたらふく散らばっている」
「ここは錬金術で作られた国で、初代国王によって壁は立てられた。その際の等価交換によってこの巨大な空間が出来上がったと私は考える」
「そしてその際の空間を支えるためにドラゴンの骨を立てられたんじゃねぇかってことだ」
「おれたちが討伐した20m級のドラゴンがちっちゃく見えるほどの巨大なドラゴンってことっすか!?」
「ああーーーこの国にもどデカい脅威が起きたんじゃねぇのかってことだ」
この空間は見える範囲でも100mはゆうに越す。
それでも尚この空間を支えられるほどのドラゴンが何匹も現れたってことかーーー。
「リヴァイ・・・・・・クアラル・・・・・・メキシカン・・・・・・」
ーーー声、が聞こえた。
「トトノカ・・・・・・マルビアン・・・・・・シシャン・・・・・・テクノハヤ」
ねっとりとした強烈な殺意とオーラを混ぜ込んで。
「可哀想に可哀想に、可愛い可愛い我が子らよ。人の人の欲望のために、我が身を我が身を弄ばれて・・・・・・」
「ーーー火を、付けるんだ」
おれはバウワンさんの指示に従って、目先にある枯れ木に着火させた。
ゆっくり、と。暖炉が空間を温めるように世界が光り出す。
それは青白い炎。円を描くようにゆっくりと着火されていく。
それは誰が見ても分かる。これは目の先の誰ががやったのだと。
「ーーーこれはこれは、復讐だ」
揺蕩う殺意が徐々に鋭敏になっていく内に、無意識に震えが出てきた。
「竜よ竜よ。我が母に我が母に我が為にその祈りを支えよ」
最後に映し出したのは血塗れの幼女。
口から漏れる血をゆっくりと舐めとって、じっとこちらを覗き込んだ。
この視線はおれたちを餌としか見ていないもの。
まさに家畜を覗き込む人間の目だった。
「聞こう!」
誰もが口を閉ざす中、バウワンは一歩前へでてその大きい声量で叫んだ。
「話し合いには応じそうには思えない!ここからはどうしても死合になる!その前に聞いておきたい!貴殿の名は!?私はビシャエラ・バウワン!ヒーローだ!」
ーーー凄いなこの人。この中でも一切臆さずに名乗るなんて・・・・・・これがA級かーーー。
目の前の幼女は少し憎んだような目でこちらを覗いて。
「我は我はーーートト=ラシェラス・ビビアン。魔王の魔王の末席にあり」
そう、強烈に頭に残るワードを叩き込んで彼女は飛んだ。
こんどは目にも止まらぬ速さで純白の竜に代わって。
「戦闘準備!」
バウワンの一声でこの場にいる全員が構える。
何が来ても対応出来るように。
だがーーー、
「ーーー脆い脆い、人間なんて脆い」
ーーー攻撃ではない、ただの羽の一振りで、おれたちはなす術なく吹き飛ばされた。
次回:5月20日




