アキバトEX 「激突!!クッキン·ガールズ」
「アスナさん!!あたしと勝負しましょう!!」
「··················え?」
ズバァン!!と掲げされた宣戦布告。二人の間にはイタリアの決闘方式の手袋が投げつけられていた。
「手袋······毛糸のですけどね」
「本来は絹の手袋だったっけ?」
「外野うるさい!!」
うちの妹······鈴音がなぜそこまで過敏に反応しているのには訳がある。
つい気が緩んでいたのだ。
そう巻き戻るのは昨日。金曜日の事だ——————。
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「フンフンフ〜ン」
「今日はえらくご機嫌ですね。なにかいいことでもあったのですか?」
モフがはたきで天井の隅を叩きながら興味深そうに聞くので俺はバッグから小さな小包を取り出した。
「?」
「クッキーだよクッキー。今日、アスナが家庭科の授業でクッキー作ったからオマケに貰ったんだ」
「なるほどですね〜!アスナさんの料理は美味しいですもんね」
本当ならアスナの目の前で食べて感想の一つぐらい言いたかったのだが、彼女の家の都合ですぐに帰ってしまった。
「モフも一緒に食べるか〜〜?」
「いいですね!ちょっと手を洗ってきます!!」
モフは三角巾を外して手洗い場に急いだ。
折角だしアスナ、明日暇ならなにかお返しでもしようかな······。
俺は頭の中でヘルシーなデザートを考える。
——————いかんいかん。無理して作ればアスナが心配するからな、適度を考えておこう。
凝り性になりかけた時はモフにストップをしてもらおうと思った時、先程からジッと睨み続けている鈴音の顔を二度見直す。
「······なんでしょうか鈴音さん」
「······························別に」
そう言ってぷいっとテレビの方を向く。
後ろ側からでもわかる。むくれていると。
だけど、なんでむくれているのかは分からないんだよなぁ······。
「もぎゅ!お待たせしました!!——————おや、鈴音さん。機嫌悪くないですか?」
「······························うるさい、死ね」
「辛辣すぎませんか!?」
それはそうと······、とモフは小包からクッキーを一枚取り出す。
「今の時期湿気でシットリするのにちゃんとクッキーの堅さが残ってますね。これは火入れに気を使ってますね〜」
「························クッキーは焼き立てが一番なのに」
モフははむっと一口口に入れる。
「オマケにバニラエッセンスをほんのちょっぴり加えて甘みと苦味のバランスをとれていていいですね〜」
「························苦味なんていらない、甘くていいじゃん」
「形は不均等で既製品のクッキーより親しみを感じますね!やっぱり人間味があるというか」
「························人間じゃないくせに」
「······どうしたんだよスズ、嫉妬か?」
「もぎゅぅ······最後の一言だけ傷つきましたけどね············」
「うるっさあああああ〜〜〜い!!」
「ヒッ」
「もぎゅ!?」
「うるさい!!うるさい!!うるっさあああああ〜〜〜い!!」
駄々捏ねる子供のように俺達が集っている机をバンバンと叩く。
「あたし以外のクッキーなんかね——————こうだ!!」
「ギャーーーーー!!」
「もぎゅーーー!一口しか食べてないのに!!」
ついに(理由はわからないが)ブチ切れたスズが小包を鷲掴みしてその中身を全て口に頬張った。
俺には見えたよ······乱暴に口に投げ入れられて泣いているクッキーが······。
「お兄ちゃんはあたし以外のクッキーを食べちゃ駄目なのに!!」
「··················はい?」
妹からの主張に俺の頭が真っ白になる。
すると遠くからガチャガチャとドアの鍵が開けられる音がした。
「ただいま〜〜。ん、修羅場?」
ハルトにはそう見えたのだろう。実際俺とスズの距離はどれだけ気をつけてでも唾がかかる距離だ。
「修羅場じゃ······修羅場か?」
「なんで自信持てないんだよ」
「ハルト······じつはカクカクシカジカで——————」
モフからこと細かく伝えられると、ハルトは一人納得したように、あ〜、と言った。
「ちょおいやめろよ。なんで一人納得したようにしたんだよ。俺達にも教えてくれよ」
「いやー〜〜まぁ、これは仕方ないけどどちらが悪いと聞かれたらアキヒトが悪いかな〜」
「いやだから教えてくれよ。犯人とトリックをぎりぎりまで伝えない推理小説の探偵かよ」
スズの怪力が俺の両肩を砕こうとしてるんだよ〜。
「······聖戦戦争にさ、アキヒトが行く前にこの机に置いてあったクッキーがあっただろ?」
「ああ」
「あれ——————鈴音が作ったクッキーだったんだ」
「························」
俺、戦犯ですね。
俺あんとき「美味しいな。次があったらまた食べたいよ」って言った覚えあるもん。
「えっと······すみません!!」
俺の誠心誠意の謝罪が効いたのか、スズの手が俺の肩から離れる。
だが、スズのその眼はまるで剣道の決勝に向かう時の本気の眼だった。
「············アスナさんを明日呼んで」
「べ、別にいいけど来れるかわからんぞ?アスナだって事情があるんだから」
そうしてその時にラインで、『明日俺の家に来れるかな?事情はついてから』と押したら、すぐさま既読がついて『いいよ!』とひよこのスタンプが送り返された——————。
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「と、言うわけなんだ」
期待して来たのか、いつも出会うよりもちょっと露出ぎみな服装で来た彼女はため息をついた。
「えっとぉ······じゃあわたしはそのクッキー対決をしなきゃいけないの?」
「そう!あたしとお兄ちゃんを繋ぐ絆をそんな半端なクッキーでケガされちゃぁ駄目なんです」
「························」
あっ怒った。あれは笑顔に見えるけど影が見えると言うか、ギャグアニメだったらこめかみが大小動き続ける描写だろう。
「へぇ〜〜ん。ほぉ〜〜ん?わたしのクッキーがハンパですか〜〜。ここまでわたしを愚弄したのは聖戦戦争から帰ってきて初めてですよ」
妙に限定したなぁ。
「まあ、やる気が出てきて良かったけど一応平等性を持つために審査員を三人にしますね」
「いいとも!」「いいですよ!」
バチバチに睨み合いを続ける二人。アスナは意外と温厚なのに料理に関すると余裕がなくなるんだなぁ。
「ところでマスター?アスナさんの手料理って······初めてはなんの料理だったんですか」
「シチューかな?」
「なんであたしの時はハルトに教えてもらうまで気づかなかったのに、アスナさんのは一瞬で思い出すのかなぁ!?」
「まぁまぁこれが手料理の持つ【愛】って奴だよ。ツンデレみたいな行動するから忘れなれるのよス·ズちゃあ〜ん」
「あんなにも嫌味ったらしく言うアスナさん初めて見ました」
「脱線しないでしないで!」
ハルトかわ二人を押しのけて距離を開かせる。
「······とまあ、この勝負の結果しだいでは何かしらにメリットを用意しておきたいんですが、何が良いですかね?」
「えっ?いいの」
「ええまあ、アイツが勝手に始めましたし」
アスナは顎に手を乗せて考える。
「——————キスでいいじゃないですかね?」
「ん?」「え?」
その声の正体は俺のポケットから出てきたレインボーの声だった。
「実費······というのもなんですしやっぱりそういう景品は精神的に満足するような——————なんですモフさん?そんな神妙な顔で」
「······えっ?いやぁ〜いつものレインボーさんなら『私が一番美味しいクッキーを作ってキスして貰います!オマケに既成事実も!!』とか言いそうですし」
「いつもだったらそうですね〜〜」
いつもだったらそうなのかよ。
「——————まぁでも料理に関してはちょっと下手の方ですし、既に嫁レースから堕ちていった女と、元よりレースに参加できない妹だったらいいなかなーーって」
「いやいやいやまだレース堕ちてないから」
「あたし一応義妹だよ?いちおう」
「それよりもキスなんかできるわけないだろ!?そんな勝手にやったら——————」
「キス!いいね!キスキスキス!!」
「ハルトくん。賞品はキスで」
乗り気——————?予想以上にやる気——————?
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「司会のハルトです。じゃあ······賞品はアキヒトからのキスで、テーマは『アキヒトに美味しいと思わせるクッキー』でお願いします。では、調理開始!!」
ぱぱっと調理会場をお借りして、食材を用意して始めた。
「では解説モフです。——————クッキーに必要な材料は主にマーガリン·卵黄·砂糖·小麦粉ですが、そこから工夫してよりマスターに美味しいと思われるクッキーを作るにはプレーンではいけないのでしょうか?」
「そうですね。ですが奇をてらった料理を作るより安定した基盤を持った料理の方が美味しい物。ちゃんとした手順を持って、そこから工夫した方がよろしいですね」
「やけに真剣だな」
俺はというもの四人の熱にやられて言葉を失っている。
「ところで実食は?」
「宮田家に戻ります」
「······ここで食べないんだ」
「これは借りた時間の問題ですから······」
「おぉーーと!!アスナさんが取り出したのは『ココアパウダー』!!なるほど、アスナさんはココアクッキーを作ろうとしてますね!!」
「苦味がブレンドされたクッキーですねモフさん······!!これは実食が楽しみです」
「それよりも問題は鈴音さんですね······」
そう······スズちゃんが何を考えているのかがわからない。
順調に調理をすすめるアスナだが、不穏な思考は止められなかった。
それを主張するのは袋の中に入れられた物。あれはおそらくスズちゃんの奥の手!!——————あれだけは危惧しなくてはならない。
「鈴音さんはアスナさんと同じく順調に調理を進めていますね」
「料理は愛情······料理は愛情······」
鈴音は自分に言い聞かせて、砂糖を通常量よりも少し少なめに掬う。
お兄ちゃんの笑顔が見たい——————そんな気持ちでハルトから料理を教えてもらった。
甘いものが大好きなお兄ちゃんに、あたしはプリンのような苦労しそうな料理を作れないけど。
『美味しいな』
隠れて耳聡く聞いていたあたしは心の中でガッツポーズをしたものだ。
次は何を作ろうと思っていたらお兄ちゃんは、かの大人数を殺害した聖戦戦争へと渡ってしまった。
あたしは後悔した。あたしとお兄ちゃんの溝を埋めなかった事を——————。
だから!お兄ちゃんの笑顔がみたいからあたしは——————今!!
「この料理だけは——————負けられないんだから!!」
「取り出した······アレは——————!!」
@@@@@
再び家に戻り、実食タイムが終わった。
机に置かれていたのは、茶色のココアクッキーと肌色のプレーンクッキー。
「じゃあ······モフはどのクッキーが美味しかったと思う?」
「アスナさんですね······」
モフが手を挙げた。
「おれは······鈴音の方が美味しいと思った。アキヒトは?」
「俺は······」
俺は口に残った味を再び反芻する。
「アスナのクッキーは美味しかった。······でもアレは『皆に美味しいと思わせるクッキー』だった」
「いっいや!私の作ってクッキーはちゃんとアキヒトくんの好みにそった——————アッ」
「気づいただろうな······ココアクッキーにしたことで妙な苦味により砂糖の尖った甘みがなくなったんだ」
そうか——————!あくまでもこのテーマは『アキヒトに美味しいと思わせるクッキー』!!それはとどのつまりアキヒトの好みである『甘味』を潰してはいけなかったんだ!!
ハルトはテーマの根源を思い出して戦慄を走らせる。
確かに二人共、奇をてらった料理を出さずに安定したクッキーを見せた。だが甘みを止めるココアクッキーじゃなくて、プレーンクッキーの方が最適だったのか!!
「それに——————スズ?カロリーの高い砂糖の代わりに『メープルシロップ』を混ぜただろう?」
「——————!!」
「うん。そっちの方が栄養価が高いし血糖値も上げにくいしね」
「俺はそこに——————『俺に対する優しさ』を感じたんだ。だから俺は、スズのクッキーが美味しいと思ったよ。つまり——————」
キスをした。その額に——————
「勝利おめでとう。スズ——————」
「近親相姦ブロォッッッック!!」
「ぶへら!?」
続きを言おうとしたら後頭部をハリセンで叩かれた!?
「いつかなるかと思ってたけどこんなに早く——————ケダモノ!!」
「ちょっ!母さんヤメて!!違うから!!これ賞品だから!!」
「きす······きす······うへへへへ」
「パックン!!関節全部曲げるから手伝って!!」
「パックぅ〜〜ん!!」
「やめて······ヤメて!!ぎゃあああああ!!」
@@@@@
その後ハルトが何とか弁明して関節を緩めてもらった。
そして二人は——————
「スズちゃん!!またクッキーの勝負をしましょう!!」
「いいですよ!もちろん賞品はお兄ちゃん——————」
「もっ······もうこりごりだぁああああ!!」




