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魔王と呼ばれた女剣闘士を買った少年の物語(完成版)  作者: 飯塚ヒロアキ
第一章 侵略者と復讐を誓う少女
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戦いの準備 その4

 訓練をするルベアの兵団の中にミネルヴァの姿はなかった。いつもの事というべきだろう。ミネルヴァはどうしても集団行動が苦手で慣れないみたいだった。一人でいる方がミネルヴァにとって楽なのだ。冷たい牢屋で、死と隣り合わせの闘技場で、たった一人、ここまで生き抜いてきた。誰の力も借りずに……。


 ミネルヴァはレブソン城塞から少し離れた場所にある廃墟となった村で、一人、剣を舞踊のように振り技の確認をしながら更に上を目指し武芸を磨く。


(―――――――相手の足首を切断、そこから咽喉を一突き。……次に後方へ下がり、態勢を整える。新たな敵を見つめる)


 日が暮れ、辺りが暗くなってもミネルヴァは自分の訓練を止めようとはしなかった。しかし、体力が無限ではないので、そろそろ、疲れが出始めた。一旦、動きを止めて、息を吐く。ふと手に握ってたレギナスの剣に目を送る。レギナスは普段通りの錆びたような鉛色をして前のように赤く光らず、ただのなまくらだった。それが不思議で仕方なかった。


(……確かに私は、この剣の力を解放したはず……なのになぜ、色が変わらない?)


「まだ、レギナスの剣の真の解放をしておらんのか?お前は」


 その声に振り返ると茂みの奥からゾスが現れた。


「……いつの間に居たのですか?」

「ん? ……そうだな。大分前から、お前のケツを見ていたぞ」

「そうですか」


 ゾスに冗談を言われたがミネルヴァは軽く聞き流した。普通の年頃の女の子なら恥ずかしがったり、怒ったりするのだがミネルヴァは違った。


「お前? 女としての自覚はあるのか」

「……ありません」

「はぁ……これでは、せっかくの美人が台無しだわ。まぁよい。それより、そのレギナスは真の解放には準備せねばならぬ事がある」

「準備?」

「そう。言わば、きっかけ、とでも言っておこうか」


 ミネルヴァは怪訝した顔をする。


「前にも言ったと思うが、その剣は人の血を吸う。血を吸うごとに力を発揮するのだ。が、千年も祠で眠っていたのだから、千年分の血を吸わせなければ、ならぬ」


「千年分……?」


 ミネルヴァは何を言っているのか理解出来ず、首を傾げる。


「そうだ。千年分の血を蓄える事が出来れば、剣を鞘から抜く瞬間、力が解き放たれる。その剣筋は速さをまし、扱う者をも、俊足にさせ、普段の倍の脚力、腕力、体力が得られるのだ」


 長々とゾスは物知りのように話し出した。ミネルヴァはとりあえず、時間が勿体無いと思い、素振りを再開する。


「それにはな……まだ秘密が……って聞いておるのか?お前は」

「はい。聞いています。ゾス様」

「でな、頼みがあるのだが………」

「ダメです。今は忙しいので、後にしてもらえませんか」

「人の話を最後まで聞け。この愚か者。わしはこれから、同行させてもらう」

「そうですか。ご自由にしてください」

「即答か?! 何か悩んだりしろ。わしが困るではないか」

「はい? 私は別に差し支えありませんが。でも、ルベアさんとかに見つかると、鍋にされて食べられるかもしれませんよ」

「なっ? そのルベアとか言う者は、狼を食べるのか?!」

「いえ。冗談です」

「なにぃ? お前はさりげなく、わしをバカにしていないか?」

「……別に」


 意図的に目線をそらす。


「なっなんだ?今の間は?」


 その言葉をミネルヴァは返すのがめんどくさいのか、ただ、聞き逃したのかは分からないが、反応を見せず、剣に磨きをかけていた。


「くっ。いいか。わしは、霊体のようなもの」

「それで?」

「長距離は、移動出来ぬ。そこで、わしの一部を身に着けろ」


 ゾスは何処からとも無く、口に首飾りのようなものをくわえていて、それには、牙のようなものが付けられていた。ミネルヴァに歩み寄る。


「手を出せ」


 ゾスが言った。それにミネルヴァは聞き入れ、剣を鞘に納めてから右手を差し出した。その差し出された手の平にゾスが首飾りを置く。


「………牙ですか? ゾス様の?」

「そうだ。それを身につけておれば、わしの意思が直接お前に伝わる」

「なぜ、私にそれほど、肩入れするのですか?」


 ずっと疑問に思っていた。ミネルヴァの問いにゾスは鼻で笑う。


「なぜかって? そうだな。お前が持つ黒き血に惹かれた、とでも言っておこう。お前のその瞳、復讐と憎悪、人を殺すのにためらわない冷たき氷の心。お前の狩りは実に楽しそうでなぁ……あぁそうだ。前に慈悲を乞うドラゴマの少年兵がいたな?そいつをお前は無表情で首元に剣を突きたて殺した。そして、たんまりと若く、新鮮な血を浴びた。あれは良かった。まるで、わし自身が狩りをしていたかのようだった」


 戦場でミネルヴァしか知り得ないことをゾスは知っていた。まるで、その場に居たかのように詳細に話すゾスにミネルヴァは尋ねる。


「もしかして、あの時の事、見ていたのですか?」

「そうだ。ずっと見ていた。お前の事を。そして、試した。お前の強さを。お前は、わし以上に冷血だ」

「人情や同情は、戦場に必要ありません。目の前にいる者は全て敵です。例え、それが子供でも。武器を手にし、私に立ち向かうのなら、排除します。それが、私の務めです。それがご主人様との約束です」

「約束か……面白い。今後が楽しみだ……ミネルヴァ……血に飢えし……者よ……ガッハハハハハ―――――――」


 ゾスがそう言い残すと霧のように身体が薄れていきやがて溶けていった。そしてミネルヴァが持っている首飾りが少しの間、熱を帯びる。数秒経つと何も無かったかのように冷たくなる。それを見つめていたミネルヴァは何も言わず、何も考えず、その首飾りを首に身に着けるのであった。

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