調査報告 その3
今日で任務は最終日となる。任務を完遂するにはまだ不十分であると判断した。とくに、対象者は何を考えているのか全く把握出来ずに。現在、ヨハンネらは市街地にある、武器屋に向かっているようだ。思い切って、接触を試みる。グラリスは流石に、このままの姿はまずいと思ったのか、近くにあった服屋に寄り、変装の為の服を購入。
そして、いつものように右腕に赤い腕章を付けた。
(―――――――完璧!)
とグラリスは自分で納得し、二人の後を追う。
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グラリスは露店に足を止めていたヨハンネに話しかけた。
「やぁ~良い天気だねッ!」
「えぇそうですね。最近、天気が良いみたいだし―――」
ヨハンネがグラリスの右腕を一瞥したあと、眉を顰める。
「……で、なんですか? 監視委員さん」
「え!? な、なんの事かな……。私は普通の街娘だよ」
正体を早速、見破られてグラリスは動揺してしまった。視線が泳ぐ。ヨハンネが苦笑いする。
「……いやいや、普通に赤い腕章を付けてますよ」
ヨハンネの指差した方向にグラリスは目を向けると。
(――――――――しまった、腕章をつける癖がッ)
「ご主人様から、三歩後ろに離れて下さい。さもなければ……」
グラリスは殺気を感じ、視線を送るとミネルヴァが剣を抜こうとした。それに俊敏に反応したグラリスは手を前に突き出す。
「ま、待った! 下がりますから、今直ぐに下がりやすから」
急いで三歩後ろに行った。
「……」
対象者はよし、と思ったのか、構えるのをやめた。
(――――――――殺気を感じた……うかつに近づけない)
「ごめんなさい。ミネルヴァは知らない人には敏感なんだ。特に僕に近く者は。ハハ。そこまで怯えなくてもいいでしょ」
ヨハンネが少し笑った。
「わ、私はビビってなんか、ないぞ。これでも二十六歳なんだからね」
「そうですか……じゃあお元気で」
ヨハンネが立ち去ろうとする。
「ち、ちょっと待って! 私を連れて行きなさい」
「はい?」
ヨハンネは不思議な顔をし、対象者は眉間にシワを寄せて目を細めた。
(―――――――――このままでは、報告が書けない)
「頼む。いや、お願いしますッ!」
グラリス、ペコペコと頭を下げる。
「貴方は珍しいですね。と言うより、プライドとかないんですか?」
「ご主人様。こんな奴、構う必要はありません」
「そうだね。では、お疲れ様でした」
「ヨハンネ殿! お願いです。私には妹が居るんです。わかりますか、この意味? お腹を空かして待っているんですよ」
「えっ?! 本当かい」
ヨハンネが食いつくような顔をした。
「ご主人様。私に対して小汚い悪党が同じ手を使いました。これは嘘です」
「えぇ?! なんて汚い手を。最低ですね」
ヨハンネを呆れた口調で言った。
(―――――――くっ……かくなるうえば……)
グラリスはいきなり、土下座する。
「何卒、お願い申し上げます!!」
「うっ!?」
ヨハンネは驚きを隠せないでいた。
「どうしますか? 面倒なら消しますが」
「ミネルヴァ。それはダメだよ。こんなに必死にされたら仕方ない……」
迷惑そうな顔をして、考え込む。
「……わかりました。今回だけですからね」
「ありがとうございます!」
(――――――――ふっ、甘ちゃんね)
心の中でグラリスは笑った。
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こうして、グラリスはミネルヴァを一日、監視を続けることを許された。ことある事にメモを取り、対象者の不審な行動を書こうとしたのだが。
「ご主人様? この服、ご主人様に似合いそうです」
「そうかな? 結構、渋いように見えるけど」
ミネルヴァがヨハンネに差し出したのは、茶色の軍服だった。この軍服は近衛師団に配られる物で、言わばレプリカである。
(―――――――――奴隷自らが、主人の服選びだと?!)
グラリスはまたまた、驚いてしまい、報告書を書いていた手が止まった。インクが滲み、報告書の紙がダメになる。グラリスはどう書けば良いのか、わからないでいたからだ。いつもなら、反抗的な態度を取り、無口で何もしない。と書きたいのだが今回はその正反対。無口ではあるものの、積極的で主人に対して忠実。
(―――――――――悪い部分が見つからない……いや。まだだ。必ず、私は、この黒髪の化けの皮をはいでやる!)




