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トルナシー砦を奪還せよ! その2

 空は真っ黒な雲に覆われ、今にも一雨来そうな雰囲気に包まれていた。ニブラスの中央にある大きな教会から鐘の音がなっている。教会の裏手にある埋葬地では、すすり泣く声と共に葬儀が行なわれていた。司祭が死者に対して祈りを捧げる。


「―――――――我が親愛なるグレイゴス・キンブレイトは偉大な者であり、多くの社会貢献をしてきた。なれば、神の元へ御魂は迷うことなく逝けるであろう。彼が安らかに眠る事を祈る―――――」


 祈りが終わると、司祭が男達に合図を出し深く掘られた穴を土で埋め始める。そこには、ヨハンネの父グレイゴスの亡骸が入った黒いひつぎがあった。妻であるジュリエンタはそれを見下ろし、沈痛な感情とまだ信じれらない思いでいっぱいだった。耐え切れなくなりしゃがみ込んで顔を隠す。両手から雫が流れ出し、土がそれを吸う。


「お願い……私を一人にしないで……まだ貴方にはやることがあるでしょ? どうして……こんな残酷なことができるの……」

「……くっ」


 ヨハンネも涙を堪えた。


(――――――――僕はまだ、父上の教わることがたくさんあった……どうして殺される必要があったんだ。神様!父上が何をした?あなたは公平なんではないのですか?なんで、善人な僕の父を…こんな仕打ちはあんまりだよ……)


 深く、沈み込むヨハンネの背中をミネルヴァは見つめていた。


「ご主人様……」


 ミネルヴァはヨハンネが泣くのを堪えているのがわかった。タイミングがいいのか雨が降り始めた。参列者は悲しみの中で、とぼとぼと各々の家に戻っていった。ジュリエンタはダマスと男達に抱えられながら、その場を静かに立ち去るのである。しかし、ヨハンネだけ一人、ぽつりと残り、そこに崩れるように膝をつく。雨に濡れて、泥状になった土を握りしめたのであった。




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―――――――それから数日後の深夜のこと。プルクテスの王に忠誠を誓うローズ騎士団がグレイゴスの死とは別にトルナシー砦の陥落の知らせが王宮に入っていた。すぐさま国境警備などで出払っている騎士らを大慌てで掻き集めて装備を整えさせて、北城門に集めさせる。どうやら、ローズ騎士団は砦の奪還戦を敢行するようである。精鋭部隊、総勢六千の騎兵がこの場に集結した。ローズ騎士団第一騎士団長イサル・アリージャが騎乗から険しい顔で部下達に語る。


「諸君! 緊急事態である。トルナシー砦が帝国軍に占領された。これでは絶対防衛線のゴロドム・ヘルム城から目と鼻の先である――――」


 ざわめきが起きる。イサルはそれをお構い無しに言葉を続けた。


「――――故に我らはこれを市民には極秘裏で砦奪還作戦を開始する。その為に夜間から出撃するという事である。市民に悟られてはならない。騎士達よ! 誓いを果せ。ジャバ殿下の期待に応えよ。全軍出陣!」


 その言葉に騎士達が息を呑む。なぜなら、堅牢で有名な砦が一日で陥落したからである。どんな相手か、どれだけの兵力などがすべて知らされていない。ただ、“砦の奪還”しか命令書には記されていないのだ。不安と恐怖で浮き足立つ騎士を横目にイサルが門に向かって叫ぶ。


「開門せよッ!!!」


 城門が重々しい音と共に開く。イサルは進軍の合図を送り馬を走らせる。その後に六千の騎兵先頭列から順番に馬を駆り出した。夜遅くにこれだけの部隊が動くだけあって馬蹄が夜空に鳴り響き、辺りで地鳴りがした。北城門の近くに建てられる民家の住民が明かりを点け窓から覗き込む。


「なんだ? なんだ? こんな時間に?!」


 最後尾の騎士に問いかける。それに馬を止めて、説明した。


「魔獣が現れた! それもたちの悪いキメラだ。危険だから家で大人しくしておけ」


 年配の騎士だけあってその言葉に農民は真に受ける。


「そりゃあ大変だ! 頑張って倒してくれよ」


 年配の騎士は腕を振り、味方の後を追った。






 早朝、予定時刻より早く、ローズ第一騎士団がトルナシー砦に到着した。丘になった所から、砦を見下ろす。トルナシー砦からは丘のお陰で自軍の部隊が隠れて見えない。絶好の場所である。騎士団からは砦は丸見えだ。しかし、イサル団長は驚いた。


「バカな! 敵部隊が何処にもいない?! 幕舎が一つも無いではないか……」

「駐屯部隊も存在しません! もしや、入れ違いに」

「有り得ん。ゴロドム・ヘルム城に行く道は我々が通った道が最短コースなんだぞ?!ましてや、敵軍は歩兵部隊も居るはず」

「しかし……煙しか見えませぬ。襲撃はあったのは確かのようですが……どうしますか、団長殿?」


(―――――――砦内部に隠れているかもしれん)


「よし。斥候を出して内部を偵察させろ」


 部下に命じた。


「はっ!」


 敬礼すると一人の中年騎士が丘を駆け下りる。ローズ騎士団の小隊が軍旗を掲げて砦の城門から入っていく姿が丘からは見えていた。


 城に入って行った騎士達がいくら待っても帰って来なかった。既に一時間は経っている。


「――――ん?」


 イサル団長が目を細めた。


 砦の城門から一人の騎士が出てきた。だが、様子がおかしかった。何かから、逃げる素振りをしているのである。そして、力尽きたのか地面に倒れこむ。それを見たイサルは意外と冷静だった。ある程度の予測はついていたからだろう。向かわせた斥候が死ぬことなど、最初からわかっていた。


「ふむ。やはり、敵が潜伏していたか。しかし、数は少ないはず。全軍!砦では馬は使えん。盾を構え接近せよ」


 後方の騎兵に腕を大きく振る。その合図で、軍旗が左右に振られ騎士達は馬から下り、剣を抜くと隊列を組み始めた。


「敵を討ち取り、忠義を見せよ!王の為に」

「「「王の為に!」」」


 騎士達が復唱した。剣を構え、イサルを先頭にローズ騎士団は喚声上げながら駆け下りた。

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