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復讐のために……

「狂っている! 貴様らは狂っている。ただ己の欲だけに駒として利用され、最後には汚れた布切れのように捨てられるのだぞ! 目を覚ませ、我らが兵士達よ!!!!」

「今、ここで立たなければ、貴様らは永遠に奴隷だ!」


 フェザールに不満を抱く、大臣らからさげすんだ言葉が投げつけられた。帝国を支える大臣の多数がプルクテスの味方となっていたのである。


 フェザールの父である初代皇帝ボルドノアは武人としては右に出るものはいない。まさに覇道を行く者だった。しかし、政治には疎くそれほど重要とは考えてなかった。その為、遠征中は自分の留守を大臣らを代理として、全ての業務、国益を任していたのだ。それが汚い膿を作る結果となってしまった。


 皇帝が病で伏していた時には大臣らの思うがままに国が動き、戦争も奴隷の売買も何でも出来る無法地帯と化してした。そして、政敵や意に反する者は極秘裏に一族丸ごと拘束しプルクテス国に家畜として輸送した。前にヨハンネが見た帝国人がその証拠である。


 穢れは正さなければならない。フェザールは鼻で笑った。


「――――――プルクテスの飼い慣らされた豚共。マクシリアンは、お前らの物ではない。私の物だ。土も、樹々も、石も、そして人間も、ここにある物は全て私の物だ」

「フェザールぅうううう―――――――ッ!!!」


 遂に帝都防衛隊の将軍が剣を勢いよく抜き、フェザールに走り寄る。階段を駆け上り、剣を振り下ろそうとするとバルカスに横から剣で止められた。あと少しで鼻に当たりそうになったがフェザールはその瞬間まで、ピクリともしなかった。ずっとその将軍の動きを目で追っていくだけである。自分の剣も手にせず、座ったまま、悠々としていた。


 それだけ、親衛隊長のバルカスを信頼しているという事だ。


「ほら、どうした、私はすぐ目の前だぞ?」


 ニヤリと笑った。


「おのれ! どこまでも、人をおちょくりおって―――――」


 その瞬間、バルカスの右足が将軍の腹部に入り、そのまま、階段から勢いよく後ろへ転げ落ちる。演劇とかで、よく観る事がある演技の階段落ちのようだ。それを眼下に納めた奴隷の女達が口を抑えて笑いを堪えていた。

 

 将軍が目が回ったのか頭を抑え険しい顔でフェザールの方を見上げた。将軍の瞳にバルカスが剣先を下に向けて、飛翔しているのが映る。あっと思った時には頭上から剣が刺さり、床に叩きつけられた。血しぶきが上がり、大臣らの服に飛び散る。


 フェザールに反感を持っていた大臣らが動揺する。バルカスが剣を引き抜き、大臣らにゆっくりと歩み寄った。まるで、この場で全員殺す勢いだ。鋭い眼光がギラリと光り、とてつもなく恐ろしかった。一人の大臣が両手をバタバタと交差させ、必死に訴えかける。


「ま、待て! 私は利用されただけだ。心から皇帝陛下を憎んだりしていない! 本当だ!!! 忠誠心は皇帝陛下にあるっ」

「今更遅い。我が陛下に対する数々の悪罵あくばは、許し難きものである。死を持って償え」


 大臣の一人に喉元に剣を突き立てた。フェザールが手を叩き、バルカスを静止させる。


「バルカス、ここをはあまり汚したくない……」


 前髪をいじりながらそう言った。その言葉にバルカスは反応し残念そうな顔をして剣を鞘に納め、床を汚したことを頭を下げ謝る。


 フェザールは頷いたあと、バルカスに尋ねた。


「ところで、バルカス。こいつら豚共は今、私に何をした?」

「反逆行為です!」

「もう一度、言ってみろ」


 声音を強めてバルカスは言う。


「反逆行為ですッ!!」

「そう、反逆行為だ」


 バルカスにわざわざ二度も言わせた。バルカスに求めていた言葉が出たことに満足するような顔をした。手をパンっと合わせる。


「さて―――――処罰はどうしようかな~?」


 腕組みをして、楽しそうな声を出したフェザールはまるで無邪気な少年のようだった。


 ただ殺すだけでは面白くない、とフェザールはそう思った。最大の屈辱と痛みとを与えなければダメだとわかっていた。頭を巡らす。そして、ひらめくと人差し指を立てて、述べる。


「あぁーそう言えば、アディダ、貴様には一人娘が居たな? えーと歳はいくつだったかな?」


 怪しい笑いをし反逆行為をしたアディダという白髪まじりの大臣に身を乗り出して尋ねた。アディダは自分の娘の事を把握されている事に驚きを見せた。何せ、余りにも美人である為、数多くの男性に求婚されてるほどだ。それをアディダは直ぐに門前払いするほど溺愛していた。それをフェザールは知っていた。優秀な密偵を使って――――


 フェザールの後ろに無言で控えている美女達だった。表向きは奴隷としてあるが。彼女らはフェザールに幼少期から、スラムから連れ出されて、離れ島で専門職の密偵術、暗殺術の数々を教え込まれた精鋭なのだ。フェザールが裏で彼女らを“ホワイト・スネーク”または“白蛇部隊”と呼称している。フェザールの親衛隊にしか把握していないまさに影の部隊である。


「わ、私の娘に何をするつもりですか……?」


 冷や汗がタラタラと赤いじゅうたんに落ちる。


「そうだな―――獣の餌にするか、はたまた、奴隷としてプルクテスに送ろうか―――どちらも見ものだと思うが」

「なんと?! お、お待ち下さい。私の命はいりませんから、娘だけは、リンダだけはッ!!! お助け下さい」


 崩れ落ち、土下座を何度も何度もした。


「バルカスはどう思う?」


 バルカスはフェザールに丁寧なお辞儀をしてから言った。


「やはり、剣闘士にさせるのが面白いかと思います。公衆の前で獣にでも喰わせる、というのはどうでしようか?」

「流石だ」


 フェザールは満足した答えを見つけた。


「よし。決まった。衛兵、こいつと娘を捕まえろ。即座にプルクテスに送る手続きを」

「はっ! 皇帝陛下の仰せのままに」

「やめて下さい陛下! お願いです! どうかお情けを――――」


 フェザールに駆け寄ろうとした。そこに衛兵がそれを邪魔する。


「貴様! 皇帝陛下に馴れ馴れしい口を聞くな、この反逆者めっ!!!」


 衛兵達がアディダに群がり、殴る蹴るして、暴行を加える。抵抗できなくなったアディダはそのまま衛兵たちに引きずられ帝の間から連れ出された。


「では、バルカス。あとの処理は任せたよ」


 玉座を立ち上がり、奥にある皇室に戻る。バルカスはゆっくりとお辞儀をして仰せのままに、と言った。


 その後、フェザールに反逆ともいえる行動に出た大臣ら数名がバルカスの手により処刑された。結果として、フェザールに従わない者は全て、処刑されたのである。処刑された者の財産は、全て没収され、軍隊増強の資金源として使われた。





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 フェザールは自ら帝都にある鍛治場に足を運び武器を大量受注した。翌日には武器を積んだ荷馬車と共にマキシリアンのスラムに訪れた。ここでは兵士を調達する。その中で若い少年少女達が選ばれた。世間を知らない少年少女ほど洗脳し易いし食を与えれば、服従すると考えたからだ。


「――――哀れな諸君。ひもじいだろう? 辛いだろう? 死にたいだろう? だが、今、私がここから救ってあげよう」


 その言葉に、少年少女たちの瞳から消えかかっていた光りが灯る。


「帝国の為に、皇帝の為に、私の為に、栄光を共に分かち合おうではないか。さぁ戦え。さすれば、君達を英雄として、扱う事を私はここに約束しよう」


 スラムにある広場で堂々と演説をしたのである。明日の食べ物さえ見つかるかわからない地獄から抜け出せて、しかも、英雄扱いになれるのであれば、充分だろう。武器の大量の購入、中央区の農奴、奴隷、剣闘士の強制的な稽古。これは、明らかに戦争を始めるつもりだ。


(――――――――さて、まずは復讐を果すことにするか……)

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