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ビビりな俺は、死神ワークスで“生き様を断つ”仕事してます。  作者: 松下 拓
第1章 名前を失くした街

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プロローグ 終わらない人

「助けてください」


その女性は泣いていた。


雨の中だった。


街灯だけが照らす夜道で。


女性は何度も同じ言葉を繰り返していた。


「兄が……消えたんです」


目の前には誰もいない。


正確には。


普通の人には見えない。


銀髪の男と、一匹の黒猫がいた。


男は静かに尋ねる。


「いつからだ」


「三日前です」


女性は震える声で答えた。


「最初は部屋に閉じこもっていて……」


「それから?」


「誰も兄を覚えていないんです」


雨音だけが響く。


「友達も」


「会社の人も」


「近所の人も」


「写真からも」


女性は泣き崩れた。


「まるで最初から存在しなかったみたいに……」


黒猫が小さくため息をつく。


「またね」


銀髪の男は空を見上げた。


雨粒が頬を流れる。


その視線の先。


ビルの屋上に。


黒い人影が立っていた。


人の形をしている。


だが人ではない。


無数の鎖が絡み付いている。


怒り。


後悔。


執着。


未練。


人の生き様が形になった怪物。


「残響か」


男は呟いた。


そして右手を伸ばす。


白銀の鎌が現れる。


女性は気付かない。


見えないからだ。


男だけが怪物を見ている。


怪物だけが男を見ている。


静かな睨み合い。


やがて。


男は一歩踏み出した。


「死神ワークス」


その声は雨に消えるほど小さい。


だが確かに響いた。


「依頼を受理する」


次の瞬間。


怪物が笑った。


世界が歪む。


夜が悲鳴を上げる。


そして――。


これは。


命を奪う死神の物語ではない。


終われなくなった人々を。


もう一度歩かせるための物語だ。


人を縛る生き様を断つ。


死神たちの仕事の話。


そして。


一人のビビりな高校生が。


その仕事に巻き込まれるまで、あと三日。

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