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努力で生き抜くこの世界  作者: こっさむ
第二章 才能の壁
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止まった数字

ご覧いただきありがとうございます!

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それでは、どうぞお楽しみください。

それから三か月が経った。


朝は走る。午前は剣。午後はゼノとの実戦形式の訓練。夜は体術。


毎日ほとんど同じだった。ただし、同じ動きを繰り返しているわけではない。


「遅い」


木剣が肩に当たる。


「ぐっ」


「今のは何が悪かった?」


以前のゼノなら、答えを教えていた。最近は教えない。


俺はさっきの動きを思い返す。踏み込んだ。剣を振った。その瞬間、右足が止まった。


「……足」


「それだけか?」


考える。ゼノが俺の剣を弾いた瞬間を思い出す。


「相手を見てなかった」


「正確には?」


「剣を見てた」


「そうだ」


ゼノが木剣を構える。


「武器だけを見るな。肩、腰、足、視線。全部見ろ」


「……うん」


「もう一度」


踏み込む。打ち込む。弾かれる。


また考える。修正する。もう一度。


鉱山にいた頃とは違う。ただ回数を重ねるだけではない。一回ごとに考える。間違えた理由を探す。直す。それから、また繰り返す。


それでも――。


《剣術の習熟度が上昇しました》


《拳打の習熟度が上昇しました》


《回避の習熟度が上昇しました》


習熟度は上がる。


なのに、技能Lvはほとんど動かなかった。



さらに二か月。


俺は七歳のままだった。


ゼノとの生活にも慣れた。狩りをする。薪を割る。料理をする。水を汲む。


鉱山とは違う。腹いっぱい食べられる。夜、寒さで震えることもない。命令に失敗して殴られることもない。


それだけで十分すぎる生活だった。


それでも、俺は毎日鍛えた。


ある夜。


いつものように拳を振っていると、表示が出た。


《拳打の習熟度が上昇しました》


続ける。


千二百三十一。


千二百三十二。


千二百三十三。


拳を止める。


「……ステータス」


――――――――――


名前:レオン・アルヴェイン


年齢:7


Lv8


職業:なし


筋力:14


耐久:15


敏捷:16


魔力:5


精神:17


技能:


《体術 Lv4》


《拳打 Lv4》


《剣術 Lv3》


《回避 Lv3》


《走行 Lv3》


《隠密 Lv3》


《運搬 Lv4》


《解錠 Lv2》


《不屈 Lv4》


《組み外し Lv1》


――――――――――


奴隷ではなくなっていた。


鉱山を出てしばらくして、職業欄は自然に「なし」へ変わった。


でも、今気になっているのはそこじゃない。


《拳打 Lv4》。


《体術 Lv4》。


《回避 Lv3》。


変わらない。


《剣術》はLv3まで上がった。《走行》も上がった。筋力や耐久も少しずつ伸びている。


つまり、俺そのものが成長できなくなったわけではない。


《拳打》だけが、明らかにおかしい。


「……もう一回」


構える。


拳を振る。


《拳打の習熟度が上昇しました》


もう一度。


同じ表示。


さらに。


百回。


二百回。


五百回。


そして。


《拳打:成長効率 0》


拳が止まった。


「……ゼロ?」


見間違いかと思った。


もう一度振る。


《拳打の習熟度が上昇しました》


《拳打:成長効率 0》


習熟度は上がった。


なのに、成長効率はゼロ。


意味が分からない。


俺は小屋へ戻った。


「ゼノ」


「なんだ」


「これ」


ステータスと表示を見せる。


ゼノはしばらく黙っていた。


「来たか」


「知ってる?」


「ああ」


ゼノは椅子に座った。


「前に話した成長限界だ」


「でも、習熟度は上がってる」


「上がる。だが、それが技能Lvの成長には繋がらない」


理解できない。


ゼノは机の上にコップを置いた。


水を注ぐ。


半分。


さらに注ぐ。


やがて満杯になる。


「これがお前の《拳打》だ」


さらに水を注いだ。水はコップの外へ溢れた。


「鍛錬そのものが無かったことになるわけじゃない。身体の使い方を覚え、動きを修正し、技術を磨くことはできる。だから習熟度の上昇も起こる」


ゼノが満杯になったコップを指で叩く。


「だが、器そのものが限界まで育てば、それ以上は技能Lvとして反映されない」


分かりやすかった。


「……大きくできないの?」


「普通はな」


「絶対?」


ゼノが俺を見る。


「少なくとも、俺は聞いたことがない」


少し考える。


「ゼノも?」


「ある」


意外だった。


「俺の剣術にも壁はある。誰にでもある。俺より才能のある奴なら、もっと先まで行けるかもしれん」


ゼノほど強くても。


限界はある。


「だから人は、自分に向いているものを探す。剣で止まれば魔法を学ぶ。技術で補う奴もいる。上位の職業を目指す奴もいる」


ゼノが続ける。


「もちろん、限界だと思っていたところから伸びることもある。鍛え方を変えたり、実戦を経験したり、上位技能へ派生したりな。だから成長効率が落ちただけなら、俺も止めなかった」


コップから溢れた水を指でなぞる。


「だが、0は違う」


「……」


「少なくとも今のお前の《拳打》という技能は、成長限界に到達したということだ」


俺は自分の手を見る。


《拳打 Lv4》。


低い。


ゼノは俺の表情を見て言った。


「技能Lvの数字だけで強さが決まるわけじゃない。同じLv4でも技術には差がある。お前は十分よくやった」


慰められている。


そう思った。


「剣をやれ」


ゼノが言った。


「お前は《剣術》がまだ伸びている。《体術》も拳だけじゃない。蹴り、投げ、関節、いくらでもある」


正しい。


「分かった」


そう答えた。



翌朝。


走った。


木剣を振った。


ゼノと戦った。


夜。


拳を振った。


《拳打の習熟度が上昇しました》


《拳打:成長効率 0》


一回。


もう一度。


同じ表示。


十回。


百回。


何も変わらない。


五百回。


変わらない。


「何してる」


ゼノだった。


「拳」


「それは見れば分かる」


ゼノが近づいてくる。


「昨日の話を聞いてなかったのか?」


「聞いた」


「なら、なぜやる」


考える。


自分でも分からないわけじゃない。


「……まだ上手くなれるから」


ゼノが眉を寄せる。


「成長効率は0だぞ」


「《拳打》の技能Lvは上がらない」


「そうだ」


「でも、さっきより今の方が腰を使えた」


ゼノが黙った。


俺は構える。


「数字が上がらなくても、動きは直せる」


拳を振る。


「足の位置も変えられる」


もう一度。


「相手を見るのも上手くなれる」


もう一度。


「なら、やる」


ゼノは何も言わなかった。


俺も話さない。


ただ拳を振った。



一か月。


《拳打 Lv4》。


二か月。


《拳打 Lv4》。


三か月。


変わらない。


《拳打:成長効率 0》


何千回振っても。


何万回振っても。


0。


その間にも《剣術》は伸びた。走る速度も上がった。新しい技も覚えた。


だから、拳を捨てる理由はいくらでもあった。


それでも捨てなかった。


剣を一日五百回。


体術を一日三百回。


走り込み。


筋力訓練。


ゼノとの実戦。


その全部を終えてから、拳を振る。


無意味だと言われても。


数字が動かなくても。


続けた。


そして、ある夜。


拳を振る。


一万八千四百二十一。


《拳打の習熟度が上昇しました》


一万八千四百二十二。


同じ表示。


一万八千四百二十三。


その瞬間。


いつもの文字が消えた。


代わりに、見たことのない表示が現れた。


《拳打の成長限界到達後も継続的な鍛錬を確認》


俺は拳を止めた。


次の文字が浮かぶ。


《成長限界下における技能習熟が規定値を超過しました》


《技能【不屈】との高適合を確認》


「……?」


さらに続く。


《魂情報を照合》


長い沈黙。


何も表示されない。


十秒。


二十秒。


やがて。


《不一致を検出しました》


《当該魂魄は世界基準に適合しません》


心臓が大きく鳴った。


意味は分からない。


だが、一つだけ思い当たる。


俺は、この世界で生まれた。


でも。


俺の記憶は――ここで始まったものじゃない。


《世界外魂魄を確認》


《既存成長規則への適合――失敗》


文字が一度、消えた。


そして。


《例外処理を開始します》


それだけを残して、表示は止まった。


「……何だ、これ」


返事はない。


新しい能力も増えていない。


ステータスを確認する。


《拳打 Lv4》。


何も変わっていない。


しばらく待つ。


それでも何も起こらなかった。


だから。


拳を構えた。


分からないなら、今はいい。


一万八千四百二十四。


拳を振る。


一万八千四百二十五。


もう一度。


俺にできることは、変わらない。


その夜。


この世界の成長を定める仕組みの中に、初めて一つの例外が生まれようとしていた。

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それでは、次回の更新でお会いしましょう!

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