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努力で生き抜くこの世界  作者: こっさむ
第一章 灰色の少年
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待っていた男

ご覧いただきありがとうございます!

よろしければ、この話の読み終わりにでも【ブックマークへの追加】や【★★★★★評価】をポチッと押していただけると、今後の執筆の大きなモチベーションになります!


それでは、どうぞお楽しみください。

走った。


背後から怒号が聞こえる。


「止まれ!」


止まるはずがない。監督役は3人。一対一なら戦えるかもしれない。だが3人を同時に相手にする力はない。


それは分かっている。


バルガに勝ったからといって、急に何倍も強くなったわけじゃない。


だから逃げる。


俺は鉱山へ向かった。以前と同じ道だが、今回は追手との距離が近い。


「回り込め!」


1人が叫び、足音が分かれる。


まずい。


俺は坑道へ飛び込んだ。


暗闇の中を走る。右、左、次の分岐を右。何度も歩いた道だ。身体が覚えている。


背後から足音が迫る。


「いたぞ!」


振り返らない。


古い採掘区画へ入る。以前ここには木箱を積んでいたが、今はない。一度使った手は対策されている。


当然だ。


だったら別の手を使う。


壁際に置かれた採掘道具を蹴った。


金属音が坑道に響く。


「そっちだ!」


追手の1人が音のした方向へ走る。


1人減った。


俺は逆方向へ走った。


《隠密の習熟度が上昇しました》


視界の端に文字が浮かぶ。


今は見る必要がない。


残り2人。足音を聞く。1人は後ろ。もう1人は分からない。


出口までもう少し。


岩の隙間が見えた。


身体を滑り込ませる。


「待て!」


腕を掴まれた。


「っ!」


振り返る。監督役の男だ。


腕力では勝てない。だから引っ張らない。


逆に一歩近づく。


男が一瞬戸惑った。その隙に手首を回す。


抜けない。


もう一度。


角度を変える。


《組み外しの習熟度が上昇しました》


腕が抜けた。


走る。


岩の隙間へ身体を押し込む。背中を掴まれそうになる。


あと少し。


前へ。


指先が外気に触れた。


抜けた。


そのまま斜面を転がり落ちる。身体中を岩にぶつけながら、下まで落ちた。


痛い。


でも動ける。


俺は立ち上がり、森へ走った。



前回とは違う方向へ進んだ。


同じ場所を通れば、また捕まる。


しばらくして川を見つけた。


迷わず入る。


冷たい。


流れに逆らって進む。足跡と匂いを消すためだ。


前世で得た知識が、どこまで役に立つかは分からない。それでも、できることは全部やる。


しばらく進んで川から上がり、さらに森の奥へ走った。


枝が顔に当たる。脚が重くなってくる。


それでも走る。


1時間。


2時間。


どれほど進んだのか分からない。


追手の声は聞こえなくなった。


俺はようやく立ち止まった。


静かだった。雨も降っていない。聞こえるのは虫の声と、自分の荒い呼吸だけ。


「……逃げた」


今度こそ。


そう思った。


「前よりはマシになったな」


聞き覚えのある声だった。


身体が固まる。


ゆっくり振り返る。


木の枝の上に男が座っていた。


黒い外套。腰に長剣。


以前、俺を何度も地面に転がした男。


「……」


いつからいた。


全く気づかなかった。


男が枝から飛び降りる。


音がしない。


俺は一歩下がった。


逃げても無駄だ。それは知っている。


なら。


拳を構えた。


男が眉を上げる。


「またやるのか?」


「……」


「前回、何回倒された?」


覚えていない。途中で数えるのをやめた。


俺は男を見る。


右足。肩。腰。


以前の動きを思い出す。何度も頭の中で再生した。


だが、ほとんど分からなかった。


速すぎたからだ。


男が笑った。


「いい目になった」


一歩。


男が近づいた。


俺は反応した。


右へ。


次の瞬間、男の手が伸びてくる。


見えた。


以前は何も見えなかった。


身体を捻る。


避け――。


頭を掴まれた。


「惜しい」


そのまま足を払われる。


地面に落ちた。


「ぐっ!」


すぐに起きる。


拳を振る。


男が首を傾けるだけで外れた。


俺は拳を引かない。そのまま踏み込み、左拳を出す。


手首を掴まれた。


身体が浮く。


投げられる。


地面。


受け身。


転がる。


すぐ立つ。


男の表情が少し変わった。


「……受け身まで覚えたか」


俺は答えない。


もう一度構える。


「半年か」


男が呟いた。


「面白い」


来る。


今度は男から。


右手。


避ける。


違う。


フェイント。


腹に掌が当たった。


「っ……!」


後ろへ飛ばされる。


だが倒れない。


2歩、3歩。


踏ん張る。


男を見る。


まだ余裕だ。


当然だ。


でも、前とは違う。


見えた。


一部だけでも。


気づけば、俺は笑っていた。


「何がおかしい?」


「……見えた」


「何?」


「今の」


男が黙った。


そして突然、笑い出した。


「ははっ!」


何がおかしいのか分からない。


「普通は悔しがるところだぞ。半年鍛えて、まだ一発も当てられないんだからな」


「……でも見えた」


前は見えなかった。


なら進んでいる。


それで十分だ。


男はしばらく俺を見ていた。


「名前は?」


「レオン」


「レオンか」


男は自分を指差した。


「俺はゼノ・グレイヴ。冒険者だ」


初めて名前を知った。


ゼノ。


やはり、普通の人間ではないと思っていた。


「前回は鉱山主に雇われていた。逃亡奴隷を連れ戻す依頼だ」


俺の拳に力が入る。


「安心しろ。今日は違う。依頼は受けていない」


「……?」


ゼノは近くの岩に腰を下ろした。


「お前を待っていた」


意味が分からない。


「半年も?」


「まさか。時々様子を見に来ていただけだ」


ゼノは俺の身体を見る。


「前に会ったときより明らかに動きが違う。何をした?」


「鍛えた」


「それだけか?」


頷く。


「誰かに習ったか?」


首を振る。


ゼノが黙った。


「ステータスを見せられるか?」


警戒した。


この世界では、ステータスは自分で確認できる。だが他人に見せる場合は、自分の意思で開示する必要がある。


鉱山に来たばかりの頃、奴隷商人にやらされたことがあった。


「嫌ならいい」


ゼノが言った。


少し考える。


そして開示した。


――――――――――


名前:レオン・アルヴェイン


年齢:7


Lv6


職業:奴隷


筋力:12


耐久:13


敏捷:14


魔力:5


精神:16


《体術 Lv4》


《拳打 Lv4》


《回避 Lv3》


《隠密 Lv3》


《運搬 Lv4》


《解錠 Lv2》


《不屈 Lv4》


《組み外し Lv1》


――――――――――


ゼノの目が細くなる。


「……やっぱり低いな」


「?」


「勘違いするな。7歳としては十分高い。だが、お前の動きを見てもっと高いと思っていた。それに、伸び方を見る限り、才能も平凡だろうな」


才能。

初めて、他人からはっきりそう言われた。


「知らないか」


頷く。


「ステータスには今の強さしか表示されない。だが、人にはそれぞれ伸びやすさと限界がある」


ゼノは地面から石を2つ拾った。


「同じ千回剣を振っても、同じようには強くならない。百回で技を覚える奴もいれば、一万回必要な奴もいる。そして、どれだけ鍛えてもいつか成長は鈍る」


片方の石を地面に置く。


「これが普通だ」


もう片方を少し先に置く。


「才能のある奴は、ここまで行ける」


分かりやすい。


そして。


「俺は?」


ゼノが少し驚いた。


俺が自分から質問したからかもしれない。


「見たところ、普通だ」


予想していた。


不思議と何も感じなかった。


「そう」


「落ち込まないのか?」


「別に」


才能がないことは、ずっと前から分かっている。


ゼノは少し笑った。


「変なガキだ」


立ち上がる。


「行くぞ」


「どこに?」


「ここにいたら追手が来る。まず町だ」


少し間を置く。


「その後は、お前次第だ」


信用していいのか分からない。


この男は一度、俺を鉱山へ戻した。


それでも今の俺より遥かに強い。


そして俺は、この男の強さを知りたい。


一歩。


ゼノについていく。


二歩。


そのとき、視界の端に文字が浮かんだ。


《拳打の習熟度が上昇しました》


いつもの表示。


その下に、もう1つ。


《拳打の成長効率が低下しています》


足が止まった。


初めて見る表示だった。


「どうした?」


「……何でもない」


表示を閉じる。


まだ、このときの俺は知らなかった。


誰にでも訪れるという「成長の限界」。


それが俺にも近づいていることを。


そして、その限界の先に――本来この世界には存在しなかった力が生まれることを。

お読みいただきありがとうございました!

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感想や「ここが良かった」といったご意見もお待ちしております。

それでは、次回の更新でお会いしましょう!

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