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努力で生き抜くこの世界  作者: こっさむ
第一章 灰色の少年
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檻の中

ご覧いただきありがとうございます!

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それでは、どうぞお楽しみください。

森を、ただ走った。


枝が頬を切り、裸足の足から血が出ていた。それでも止まらなかった。父さんは死んだ。母さんも死んだ。頭では分かっているのに、まだ実感がない。ただ走っていれば、何も考えずに済んだ。


やがて足が動かなくなった。木の根に躓き、そのまま地面に倒れる。


「……っ」


立たなければ。そう思ったけれど、身体はもう動かなかった。


そこで俺の意識は途切れた。



次に目を覚ましたとき、鉄の臭いがした。


身体が揺れている。どうやら馬車の中らしい。俺は木製の檻に入れられ、手首には鉄の輪が嵌められていた。周囲には知らない子供が六人いる。誰も喋らず、ただ一人、少女だけが小さく泣いていた。


「起きたか」


檻の外から男が覗き込んだ。太った男だった。


「運が悪かったな、坊主」


男は笑った。


「戦争の後は孤児が増える。魔族に襲われた村なら、生き残りを探す奴もいねえ」


その言葉で、自分が置かれている状況を理解した。


捕まったのだ。


おそらく、こいつらは奴隷商人だ。前世の知識があるから、その程度のことは分かる。


「……」


「なんだ? 泣かねえのか?」


俺は答えなかった。泣いたところで何も変わらない。


檻を壊せるかと鉄格子を見るが、今の俺には無理だ。男の腰には剣があり、体格差は三倍どころではない。馬車の周囲には護衛も三人いるうえ、俺の両手には手枷まで嵌められている。


逃げるのも、戦うのも無理だ。


なら、今は従う。


生きる。それだけだ。


「ステータス」


心の中で呟く。


――――――――――


名前:レオン・アルヴェイン


年齢:4


Lv2


職業:なし


筋力:5


耐久:5


敏捷:6


魔力:4


精神:9


《体術 Lv1》


《不屈 Lv1》


――――――――――


弱い。どうしようもなく弱い。今の俺は、ただの4歳の子供だ。


だが、表示された内容を見て、一つだけ気になることがあった。


《体術 Lv1》。


俺は前世で格闘技などやっていない。この世界でも、まともな戦い方を教わったことはなかった。思い当たるのは、村の子供たちと遊んでいたことくらいだ。


走ったり、転んだり、木に登ったり、物を投げたり。そんな何気ない動きの積み重ねが、《体術》として認識されたのだろうか。


確かめてみる。


檻の中で拳を握り、前へ出してから引く。もう一度、同じ動きを繰り返した。


10回、20回、50回。


「何やってんだ、お前」


隣にいた少年が言った。


俺は答えず、拳を動かし続けた。100回を超える頃には腕が痛み、200回を超える頃には肩が熱を持った。300回を過ぎると、拳を前に出すだけで腕が震えた。


それでも続ける。


やがて、目の前に文字が浮かんだ。


《体術の習熟度が上昇しました》


俺は拳を止めた。


やはり。


魔物を倒さなくてもいい。戦わなくてもいい。身体を動かし、同じことを何度も繰り返すだけでも、技能は成長する。


なら――俺にもできる。


才能がなくても、4歳でも、檻の中でも。


「お前……頭おかしいのか?」


少年が呟いた。


俺は答えず、また拳を前へ出した。


「……401」


初めて声に出した。


「402」


腕が痛い。


「403」


もうまともに上がらない。それでも、止めなかった。


「404」


父さんは、俺を守ろうとしてくれた。


「405」


母さんは、最後まで俺を守ってくれた。


俺は何もできなかった。


だから。


「406」


もう二度と、弱いままではいない。



3日後、俺たちは奴隷市場に着いた。


子供たちは一列に並べられ、買い手たちが品物でも見るような目で値踏みしていく。その中でも、俺は最も安い部類だった。


身体が小さく、魔力も低い。人より優れた技能もない。


「そこの黒髪」


一人の男が俺を指差した。顔に大きな傷がある男だった。


「それを買う」


奴隷商人が笑った。


「こいつですか? 何の才能もありませんぜ」


「構わん」


男は金貨を放った。


「鉱山の荷運びに、才能など必要ない」


俺は男を見上げた。腰には剣がある。今の俺では、どうやっても勝てない。


今は。


「歩け」


鎖を引かれ、俺は黙って歩き出した。


市場を離れてからも、頭の中ではさっきまで繰り返していた動きを思い返していた。拳を出す角度、引く速さ、足の置き方。檻の中でできたことなら、鉱山でも何かできるはずだ。


一度では何も変わらない。100回でも、1000回でも、きっと大して変わらない。


なら、1万回やる。


1万回で足りなければ10万回。それでも足りなければ100万回やればいい。


俺には才能がない。


だから、才能のある奴が100回やるなら、俺は1万回やる。


鎖に繋がれたまま、俺は歩いた。


この日から、俺の長い修行が始まった。

お読みいただきありがとうございました!

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感想や「ここが良かった」といったご意見もお待ちしております。

それでは、次回の更新でお会いしましょう!

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