レベルアップ
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それでは、どうぞお楽しみください。
目を覚ましてから、二日。
まだ左腕はまともに動かせなかった。
傷口はゼノが処置してくれた。噛まれた場所は深かったらしい。
「骨は無事だ」
包帯を巻き直しながら、ゼノが言った。
「運が良かったな」
「……うん」
運が良かった。本当にそれだけだと思う。
あと少し牙の位置が違えば。あと少し剣が遠くに落ちていれば。今ここにはいない。
「しばらく左腕は使うな」
「どれくらい?」
「最低でも数週間」
長い。
「走るのは?」
「まだ駄目だ」
「剣は?」
「駄目だ」
「魔法は?」
「寝ろ」
全部駄目だった。
仕方なく、俺はベッドの上でステータスを開いた。
そこで、初めて違和感に気づいた。
――――――――――
名前:レオン・アルヴェイン
年齢:8
Lv11
職業:なし
筋力:18
耐久:20
敏捷:20
魔力:6
精神:20
技能:
《格闘術 Lv1》
《剣術 Lv4》
《回避 Lv4》
《走行 Lv4》
《隠密 Lv3》
《運搬 Lv4》
《解錠 Lv2》
《不屈 Lv5》
《観察 Lv2》
《魔力操作 Lv1》
《魔力放出 Lv1》
《生活魔法 Lv1》
《水生成 Lv1》
特殊能力:
《超越》
――――――――――
「……?」
もう一度見る。
Lv11。
戦う前はLv9だった。
「ゼノ」
「なんだ」
「レベル上がってる」
ゼノはこちらを見もしなかった。
「そりゃ上がるだろ」
「二つ」
そこでようやく顔を向けた。
「ホーンウルフを一人で倒したなら、それくらいはあり得る」
俺はステータスを見直す。
Lv9からLv11。
筋力は16から18。
耐久は17から20。
敏捷は18から20。
魔力は5から6。
精神は18から20。
技能だけじゃない。数字そのものが増えている。
「レベルが上がると、ステータスも上がる?」
「今さらか?」
「ちゃんと考えたことなかった」
ゼノが少し呆れた。
「お前、技能ばっかり見てるからな」
それはそうかもしれない。
鉱山では、拳が上手くなることしか考えていなかった。ゼノと会ってからも、剣術、回避、走り方、魔力操作。ずっと技能ばかり見ていた。
通常レベルは、気づけば上がっている数字という感覚だった。
「いい機会だから説明してやる」
ゼノが椅子を引いて、ベッドの横へ座った。
「技能レベルと通常レベルは別物だ」
俺は頷く。
「技能は、その名の通り技術だ。剣術なら剣の扱い。格闘術なら身体の使い方。魔力操作なら魔力を動かす技術」
「通常レベルは?」
「生物としての基礎だ」
ゼノが俺の胸を指す。
「身体そのものが、経験を得て強くなる」
分かりやすい。
「筋力が上がれば、同じ剣を振っても重くなる。耐久が上がれば、同じ攻撃を受けても耐えやすくなる。敏捷が上がれば、動き出しや反応が速くなる」
「魔力も?」
「ああ。魔力の総量にも影響する」
俺は魔力6を見る。一しか上がっていない。他より低い。
「少ない」
「お前は魔力の伸びが悪いからな」
やっぱりそこも才能らしい。
「精神は?」
「恐怖や痛み、混乱なんかへの耐性に関わる。集中力にも多少影響する」
精神20。他と同じくらいまで上がっていた。
「じゃあレベルを上げれば、一番早く強くなれる?」
聞くと、ゼノは首を横に振った。
「そこまで単純じゃない」
予想通りだった。
「まず、何をしても同じだけ経験値が入るわけじゃない。自分より遥かに弱い相手を倒し続けても、ほとんど成長しなくなる」
「強い相手ほど多い?」
「基本はな」
ホーンウルフを思い出す。
大量の経験値。だからLvが二つ上がった。
「それに、レベルが上がっても技術は身につかない」
ゼノは壁に立てかけてある俺の剣を見る。
「筋力が二倍になった素人と、筋力が低い剣士が戦ったら、必ず素人が勝つと思うか?」
「思わない」
「そういうことだ」
身体の土台。技術。両方必要。
「逆も同じだ。どれだけ剣が上手くても、身体が追いつかなければ出せる力には限界がある」
なるほど。
だからゼノは走らせる。剣だけじゃない。体術も。身体作りも。全部やらせる。
「じゃあ、レベルと技能は両方上げた方がいい」
「そうだ」
ゼノが頷いた。
「ただし、もう一つある」
「何?」
「ステータスの上がり方も人によって違う」
また才能。
「同じLv10でも、筋力が高い奴もいれば魔力が高い奴もいる。生まれつきの資質や、それまで何をしてきたかでも偏る」
俺のステータスを見る。
筋力18。
耐久20。
敏捷20。
魔力6。
精神20。
かなり分かりやすい。
「俺、魔法向いてない」
「何回言わせる」
もう知ってる。
◇
その日の夜。
身体の具合を確認した。
右手を握る。以前より少し力が入る。
脚。立つ。まだ傷の影響でふらつく。
でも、身体そのものが少し変わっている。
レベルアップ。
これまでにも何度かあった。
四歳でLv2。
鉱山でLv3。
七歳でLv6。
ゼノの修行でLv7。
八歳になる頃にはLv9。
でも、今まではいつ上がったのか、ほとんど意識していなかった。
日々の労働。訓練。脱走。戦闘。いろんな経験が積み重なって、少しずつ上がっていた。
今回だけは違う。
一度の戦いで大量の経験値を得た。だから一気にLvが二つ上がった。
「……強敵ほど経験値が多い」
独り言が漏れた。
その瞬間。
「馬鹿なこと考えるなよ」
隣の部屋からゼノの声がした。
聞こえていたらしい。
「まだ何も言ってない」
「顔で分かる」
「見えてないでしょ」
「声で分かる」
何なんだ。
ゼノが部屋へ入ってくる。
「強い魔物を倒せばレベルが上がる。だからもっと強い奴と戦おう、とか考えたんだろ」
「少し」
「やめろ」
即答だった。
「なんで」
「今回、死にかけただろ」
正論。
「レベルを上げるために死んだら意味がない」
「でも強い相手ほど――」
「経験値は多い。だから何だ」
ゼノの声が少し低くなる。
「強くなることと、無謀になることは違う」
黙る。
「実戦は必要だ。自分より少し強い相手と戦うのも必要だ」
ゼノは続ける。
「だが、勝率が一割の相手に十回挑めば一回勝てる、なんて考えるな」
「?」
「その前に九回死ぬ」
分かりやすい。
「お前の《超越》もレベルも、死んだら終わりだ」
「……うん」
「強くなりたいなら、生きろ」
ホーンウルフとの戦いを思い出す。
生きて帰る。それが本当の勝ち。
昨日、自分で思ったばかりだった。
「分かった」
「本当か?」
「多分」
「不安だな」
◇
さらに三日後。
ようやく軽い運動を許された。
走るのは禁止。剣もまだ禁止。
だから歩く。
小屋の周りをゆっくり一周。以前なら何でもない距離。今は左腕の傷が痛む。
一周。休む。二周。休む。
焦らない。
傷が治るまでは、治す。それも修行。
ゼノに何度も言われた。身体を壊してまで続けるのは努力じゃない。
だから今は、歩く。
魔力操作。観察。頭の中で戦いを思い出す。
やれることだけやる。
◇
十日後。
左腕を少し動かせるようになった。
ゼノが包帯を外して傷を見る。噛み跡はまだ残っている。
「剣は?」
「まだ片手だけだ」
「右だけ?」
「ああ」
「やる」
「軽くだぞ」
久しぶりに外へ出た。
木剣を右手だけで持つ。重い。両手で持つより遥かに扱いにくい。
「振ってみろ」
右足。腰。肩。腕。
振る。
ブレる。
もう一度。
ブレる。
「片手だと全然違う」
「当然だ」
ゼノが言う。
「ホーンウルフ戦では最後、右手一本で剣を使ったんだろ」
「うん」
「なら覚えておけ」
そういう修行か。
「武器を失う」
ゼノが一本指を立てる。
「片腕を負傷する」
二本目。
「足場が悪い」
三本目。
「相手が想定外の動きをする」
四本目。
「実戦じゃ、いつも万全とは限らん」
俺は木剣を見る。
確かに。あの戦いでは全部起こった。
「だから、これからは崩れた状況での戦い方も教える」
「怪我したまま?」
「治ってからだ」
残念。
いや。
残念じゃない。
◇
一か月後。
傷はほぼ塞がった。
左腕には牙の跡が残った。少し動かしにくいが、剣は握れる。
その日、久しぶりにステータスを開いた。
――――――――――
名前:レオン・アルヴェイン
年齢:8
Lv11
職業:なし
筋力:18
耐久:20
敏捷:20
魔力:6
精神:20
技能:
《格闘術 Lv1》
《剣術 Lv4》
《回避 Lv4》
《走行 Lv4》
《隠密 Lv3》
《運搬 Lv4》
《解錠 Lv2》
《不屈 Lv5》
《観察 Lv2》
《魔力操作 Lv1》
《魔力放出 Lv1》
《生活魔法 Lv1》
《水生成 Lv1》
特殊能力:
《超越》
――――――――――
Lv11。
ホーンウルフを倒す前より、身体の数字は確実に上がっている。
でも、俺は知っている。
あの魔物ともう一度戦えば、今でも簡単には勝てない。
数字が二つ増えたからといって、死にかけた経験がなかったことにはならない。
むしろ、あの戦いで一番大きかったのはレベルじゃない。
自分がどれだけ弱いか。何が足りなかったか。それを知ったことだ。
「レオン」
ゼノが木剣を持って立っている。
「今日から実戦形式に戻す」
俺も木剣を構えた。
「百回?」
「いや」
ゼノが笑った。
「今日は十回でいい」
珍しい。
「その代わり」
嫌な予感。
「俺は片手しか使わん」
「……それなら一発入れられる?」
「無理だな」
腹が立つ。
踏み込む。
右から斬る。
ゼノは左手だけで木剣を動かした。
軽く受け流される。
そのまま額を打たれた。
「痛っ」
一回目。
強くなったはずなのに、何も変わらない。
いや。
違う。
起き上がる。
今の動き。前より少し見えた。
レベルが上がった。身体が強くなった。技能も積み重なっている。
でも、それを戦える力に変えるには、まだ練習が必要だ。
「もう一回」
構える。
ゼノが笑う。
「来い」
俺は踏み込んだ。
通常レベル。
技能レベル。
ステータス。
経験。
全部必要だ。
どれか一つだけじゃない。
その全部を積み上げて。
俺は強くなる。
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