初めての魔法
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それでは、どうぞお楽しみください。
魔力を初めて感じてから、二週間が経った。
あれ以来、毎日同じことを続けている。
目を閉じる。
呼吸を整える。
胸の奥を探す。
最初は一日に一度感じられるかどうかだった。
それが二度になった。
三度になった。
そして今は、目を閉じて集中すれば十回に一回くらいは見つけられる。
胸の奥にある、微かな何か。
血でも熱でもない。
意識を向けると動く。
これが魔力らしい。
「今日はそれを動かす」
向かいに座ったゼノが言った。
「どうやって?」
「右手に集めろ」
「だから、どうやって?」
「こうだ」
ゼノが右手を出す。
魔力なんて見えない。
「分からない」
「俺は分かる」
「俺には分からない」
「頑張れ」
殴りたい。
◇
当然、できなかった。
一日目。
失敗。
二日目。
失敗。
五日目。
少し動いた気がした。
十日目。
胸の奥から肩まで何かが移動した。
そこで消えた。
二十日目。
肘まで。
二十七日目。
初めて手首まで届いた。
「……来た」
集中する。
消えるな。
右手。
あと少し。
掌まで。
その瞬間、指先が僅かに痺れた。
《魔力操作の習熟度が上昇しました》
目を開ける。
「できた」
「遅い」
ゼノが言った。
「二十七日」
「知ってる」
「普通はもっと早い」
「それも聞いた」
「才能ないな」
「知ってる」
もう慣れた。
でも。
できた。
それでいい。
《新規技能の習得条件を満たしました》
《魔力操作 Lv1》
新しい技能が増えた。
◇
次は魔力を外へ出す訓練だった。
ゼノが指先を出す。
「よく見ろ」
小さな火が灯る。
「火を出すの?」
「まだ無理だ」
ゼノが火を消す。
「魔法には工程がある。魔力を感じる。動かす。外へ出す。そして現象へ変換する」
地面に四つの丸を描いた。
「今のお前は二つ目までだ」
分かりやすい。
「魔法を使うには、全部できないと駄目?」
「基本的にはな。ただ、熟練すればほとんど同時にできる。俺が火を出したように」
「どれくらいかかる?」
「お前なら知らん」
またそれだ。
右手に魔力を集める。
二十七日かけて覚えた感覚。
胸。
肩。
肘。
手首。
掌。
ここまではできる。
問題は次だ。
外へ。
力を入れる。
消えた。
もう一度。
消える。
三回。
十回。
五十回。
全部失敗した。
◇
それから一か月。
出ない。
さらに一か月。
出ない。
ゼノは途中から何も言わなくなった。
俺も聞かない。
ただ続ける。
ある日。
いつものように掌へ魔力を集めた。
外へ。
消える。
もう一度。
外へ。
消える。
百二十七回目。
何かが指先を抜けた。
「……?」
一瞬だった。
ゼノがこちらを見た。
「今、出たぞ」
「見えた?」
「見えない。魔力は普通、目では見えん。だが感じた」
もう一度やる。
失敗。
もう一度。
失敗。
その日は二度とできなかった。
でも、十分だった。
道はある。
翌日。
一回。
三日後。
三回。
一週間後。
十回に一回。
《新規技能の習得条件を満たしました》
《魔力放出 Lv1》
次。
現象へ変える。
◇
「属性は?」
「知らない」
「調べるか」
ゼノが六つの小さな石を並べた。
火。
水。
風。
土。
光。
闇。
基本的な属性らしい。
「魔力を流せ」
一つずつ触る。
火。
ほとんど反応なし。
水。
僅かに光る。
風。
僅かに光る。
土。
ほとんど反応なし。
光。
反応なし。
闇。
反応なし。
ゼノが腕を組む。
「……ひどいな」
「どれが?」
「全部」
知ってた。
「水と風が多少マシだが、適性があると呼べるほどじゃない」
「魔法は諦める?」
「どうする?」
聞き返された。
考える。
俺の魔力量は少ない。
属性適性も低い。
覚えるのも遅い。
なら。
「やる」
「だろうな」
ゼノは最初から分かっていたようだった。
「ただし一つ覚えておけ。全部を同じように鍛えるのは馬鹿だ」
「?」
「時間には限りがある」
ゼノが俺の胸を指す。
「《超越》があっても、一日は増えない」
その言葉には納得した。
「剣を一万回。拳を一万回。魔法を一万回。走り込みも十時間。全部毎日やろうとすればどうなる?」
「時間が足りない」
「そうだ。それに身体も壊れる」
ゼノが続ける。
「努力量を増やすだけでは、いつか必ず限界が来る。何を鍛えるか。どう鍛えるか。何を捨てるか。それを考えろ」
鉱山で学んだことと似ている。
ただ繰り返すだけでは駄目。
今度は、時間の使い方まで考えなければならない。
「お前が強くなるには、人より多くやるだけじゃ足りん」
ゼノが言った。
「人より考えてやれ」
覚えておく。
◇
それから俺は修行の時間を変えた。
朝。
走り込み。
午前。
剣術。
午後。
体術とゼノとの実戦。
夕方。
魔力操作。
夜。
拳。
そして寝る前に、その日の失敗を思い返す。
何が悪かったか。
明日は何を変えるか。
考えてから眠る。
回数は以前より少し減った。
でも、一回の意味は増えた。
◇
三か月後。
俺は八歳になった。
魔力5。
結局、数字はまだ変わっていない。
それでも。
右手を前へ出す。
胸の奥から魔力を動かす。
肩。
肘。
掌。
外へ。
そして。
変換。
「……水」
掌の上に、小さな水滴が現れた。
一滴。
落ちた。
地面に染み込む。
「……」
ゼノを見る。
「今の?」
「ああ」
「魔法?」
「ああ」
初めて成功した。
想像していたものとは違った。
水球が飛ぶわけでもない。
敵を吹き飛ばすわけでもない。
たった一滴。
ゼノが笑う。
「三か月かけて水一滴とはな」
「……」
拳を握る。
殴ろうかと思った。
でも。
俺も少し笑った。
《新規技能の習得条件を満たしました》
《生活魔法 Lv1》
《水生成 Lv1》
表示を見る。
《水生成 Lv1》。
掌を見る。
もう一度。
魔力を集める。
水滴。
今度は二滴。
落ちる。
「ゼノ」
「なんだ」
「もう一回やる」
「好きにしろ」
三滴目。
失敗。
四回目。
失敗。
五回目。
一滴。
遅い。
才能もない。
魔力も少ない。
それでも。
昨日の俺には、一滴すら出せなかった。
だったら今日は、一滴でいい。
明日は二滴。
いつか十滴。
その先は。
まだ分からない。
でも。
できないことが一つ減った。
それだけで、今日の修行には意味があった。
◇
夜。
眠る前にステータスを開いた。
――――――――――
名前:レオン・アルヴェイン
年齢:8
Lv9
職業:なし
筋力:16
耐久:17
敏捷:18
魔力:5
精神:18
技能:
《体術 Lv5》
《拳打 Lv5》
《剣術 Lv4》
《回避 Lv4》
《走行 Lv4》
《隠密 Lv3》
《運搬 Lv4》
《解錠 Lv2》
《不屈 Lv4》
《組み外し Lv1》
《投げ Lv2》
《観察 Lv2》
《魔力操作 Lv1》
《魔力放出 Lv1》
《生活魔法 Lv1》
《水生成 Lv1》
特殊能力:
《超越》
――――――――――
強くなっている。
少しずつ。
でも、一つ気になった。
《不屈 Lv4》
両親を失った夜に手に入れた技能。
鉱山でも。
カイルを失った日も。
脱走に失敗した日も。
ずっと俺を支えてきた。
それだけは、しばらく数字が動いていない。
意識を向ける。
《不屈》
《精神的苦境において、行動継続能力を補正する》
《成長効率:低》
ゼロではない。
なら。
いつか上がる。
そう思って表示を閉じた。
このときの俺は、まだ分かっていなかった。
《不屈》は拳や剣のように、回数を重ねれば成長する技能ではない。
そして次にそれが大きく成長するとき。
俺は修行ではなく――本当の死と向き合うことになる。
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