第一章第一節③ 01010011 01001111 01010011
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2014.5.19 11:11:13 白波月夏宅玄関
side:白波 月夏
曇り空だが、少し蒸し暑さを感じる昼前、余計に体感気温を押し上げられそうな隣のおばさんと運悪くかちあってしまった。
「明け方から痴話喧嘩とはあんたもやるもんだね!というかあんた彼女いたんだね!!」
「起こしたならすいやせんねえ!いたら悪いんすかぁ!?」
「たまになら悪かないさ!!!ちゃんと大切にしてあげな!!」
隣のおばさんから茶々を入れられつつも、とりあえずアナに余っていた自分の服を着せたので出発する。
明らかにサイズが合ってないのだが、他に手がない以上は仕方ない。
少し首周りが眩しいが、とりあえずベルトを通した短パンとTシャツであれば幾らかマシだろう。
「彼女……」
「ああ、気にしなくていい。あの年代は茶化さないと溺れるマグロみたいな年頃なんだよ」
「……むぅ」
少し脹れ面をしているが、まだ本意を探れるほど深い仲ではないので流石に判断に困る。
それよりも目先の問題が一つ。
「一応郊外の店だが、知り合いにかち合わなきゃいいんだが」
目指すは大学方向とは反対側、隣町との間にある郊外型ディスカウントストア。
なまじ色んなものが揃っているし価格も市内のモールより安い。
とりあえず外に出られる服装くらいは揃うだろう。
俺1人で買いに行けたらいいのだが、女性物なんて見当もつかないので結局買い直しになったらただでさえカツカツの懐はキンキンの氷河期を迎えかねない。
それにそういうところならダボダボの適当な着回しでも誤魔化しが効くというのもある。
故に知り合いにかちあわなければ万歳なのだが。
「月夏?」
懸念が顔に出ていたのか、怪訝そうな顔で鴉那が覗き込んできた。
思わずのけぞりそうになる。
「おっ、おう!こっちのバス停だ!」
誤魔化すように俺は裏手を指差した。
嫌というわけではない。
だが、やはりまだそれに慣れるには経験が足りてない。
本人は気にしていなさそうだが、それをわざわざ口で言うのも野暮だろう。
大学線とは別の路線である最寄りのバス停までの間、上機嫌そうな鴉那と並んで歩くと確かに隣のおばさんが言うようにカップルに見えるのだろうか。
ただ、なんというか
「妹みたいだなぁ」
「何?」
「いや、なんでも」
意識しないと言えば嘘だが、なんと言うか男女のそれとは違う気もする。
そんなことを考えながら、バス停のある山裏への道を歩いて行った。
「そう言えばうちのこと、どこで見つけたの?」
買い物も終わり帰りのバス停へと向かう途中、買った服に早速着替えた鴉那が不意に尋ねてきた。
「ん?そういや言ってなかったか。神社だよ、たしか稲荷神社だったかな。
俺ん家の少し下にあるんだがさっきは裏手に抜けたから通らなかったな。
昨日の夜はろくに確認もできなかったし、何かあるかもな」
まだあれから1日経っていないと思うと中々濃い体験をしているなと改めて感じる。
「そうなの?この街に入ってから助けてもらうまでの記憶が曖昧で」
「一度別のところに居たんだが、少し目を離したら消えててな。そっちも行くか?」
「ううん、神社に行こう。なんだか、そこに何かある気がするんだ」
「なんとか明るいうちについたな」
帰りのバスが遅延していたせいで予定から遅れ、着く頃には夕方近くの時間になってしまった。
参拝など最初に引っ越した時以来だろうか。
管理者がいるのかいないのか人の気配はなく、ひとつだけある照明も昨日の夜に関しては切れていたので、しばらくその辺も手入れされていないのかもしれない。
決して老朽化しているわけではないが、少しだけ落ち葉の残る参道を進む。
"翡翠稲荷"と書かれた鳥居を抜け、改めて昨日倒れていた場所を指す。
「ここだな、記憶とかははっきりしそうか?」
「うーん、ダメかも。追手の気配が消えて気が抜けて体勢を崩したのは覚えているんだけど」
おそらく、最初の遭遇だろう。そんな状態だと誤認でやられてたかもしれない。近付かなかったのは正解だったと言えそうだ。
だがそうなると
「記憶が正しけりゃ飛んでる時は相当ボロボロだったよな?そこからここまで、ちょっと距離があって無意識に動いたというにはちと遠い気もするが……」
「そう、そこが思い出せないの……何も……」
「まあいいさ、賽銭して帰ろうか。バチが当たったりはしないさ」
「うん……」
二礼二拍一礼をしてると、
「おや……数奇なものだね」
背後には先ほどまでは居なかった誰かがいる。
最近あれこれあったせいか、この程度でビビったりはしない。肩が震えた?気のせいだ。
「ああごめん、驚かせてしまったかな。ここの頭といえばいいのかな。稲荷神が一柱、翡翠だよ。」
半人半妖の次は神か。案外この世界は知らないことが多いらしい。
「こちらこそ謝礼や賽銭が盛れなくてすまない、白波月夏と、アナだ」
「こ、こんにちは……」
アナの方は俺を盾にしながら返した。
「それはそうと、数奇ってのはどう言う意味だ?」
「そのままの意味なんだけど、本来なら交わらないはずの線が繋がったとでも言うかな、うーん、簡単に言えばここで出会う予定ではなかったと言うだけさ」
「はぁ……?」
神の言うことは小市民Aにとってはなかなかの難題で、背後に隠れている鴉那もイマイチピンときてない反応だ。
「ま、兎に角君たちが昨夜に出会ったことは知っているよ。……そう身構えないでくれ、少し話を聞きたいだけなんだ。
君はこの子と昨日の夜出会った。でもその前に君は不思議な体験をしていたはずだ。違うかい?」
「あ、ああ……」
「君は、あの姿がどういう仕組みで出来ているのか、知っているかい?」
先ほどから単刀直入だったりマイペースだったり、テンポに振り回されそうだが、もしかしたら何かこの神は知っているとでもいうのだろうか。
「仕組みだ?半人半妖ってんだから妖怪の血が必要なんじゃないのか」
「そんなことはないさ、大多数の人間には難しいだろうけども……或いは、君ならできるかもね。少なくとも強い感情がある、君なら」
「俺が……?」
そんな強い感情なんてあっただろうか。
「そう、君ならではの感情。他者のために怒れることさ。多分君は、誰かのためなら立ち上がれる、今だってそうだろう?」
その言い分だと否定はできない。昨日会ったばかりの相手に服を買うだなんてのは確かに酔狂かもしれない。
「ふふ、まあ興味があるならそこの子に聞けばいいよ。ただひとつだけ言っておこう。
選んだ責任はいずれ果たす時が来る。それだけだね」
「選んだ、責任……」
「選ばないことを選ぶにしろ、選んだにしろ、それだけは、忘れないでね」
そう言いながら鳥居の方に歩いて行く。
「あっ、おい!」
呼び止めようとした時、急に一陣の風が神社を走り抜け、思わず顔を左腕で隠す。
腕を退けた後には翡翠の姿はなく、ただ、随分と久しぶりに綺麗な夕日が境内と街を照らしていた。




