第一章第一節② 505
[505]
2014.5.19 09:27:45 白波月夏宅
side:白波 月夏
「は……?」
突然のカミングアウトに頭がフリーズする。
「半人半妖?」
「そう、人と妖怪のハーフって言えばいいのかな?」
「まてまてまて、突然ファンタジーになってないか?」
「? 師匠も妖怪だから普通にいるよ?」
あまりの展開に頭がまだまだ追いつかないが、今重要なことが出た気がする。
「師匠?」
「うん、うちを育ててくれた師匠。」
「ん?でも昨日見かけた時に周りにそれらしい奴はいなかった気がするが……」
「……置いてきちゃったの、あの、研究所に」
流石に少し情報過多すぎやしないか?
「OK、少しまとめさせてもらっていいか?違ってたら言ってくれ」
「わかった」
「まずアナ、君は人と妖怪のハーフだ。そして師匠と一緒に暮らしてた、これはいいか?」
「そうだね、ずっと転々として時々旅もしたけど」
「なんというか、ハードな生い立ちだな……それは置いておいて、その師匠は今は一緒に居ないわけで、研究所にいると」
「大丈夫だよ、ちゃんとあってる」
ここまでは大丈夫そうだが、今見えてるだけでも中々に厄介そうだ。
だがここまできて明け方に啖呵を切ったことを無かったことにするのは男が廃る。
覚悟を決め、続きを促す。
「だが別行動になってるってことは、何かあったんだな?」
「うん……ずっと前に大きな地震が連続あったのを覚えてる?」
「あの震災か……忘れやしないさ」
「それから少しして、その地震があった近くに用事があったみたいで、山の中を師匠と歩いてたら、捕まっちゃったの」
「捕まった?誰に?」
「わかんない……全身真っ黒で違いもほとんどない感じだったの」
「そいつは……ひでぇ奴らだな」
なんというか、この時点でも中々災難であるが、一つ気がかりがあった。
「だが、あの地震はもう3年前だぜ?その間どうしてたんだ?」
「う、うん……ええとね……」
「どうした?言いにくかったら大丈夫だぞ?」
「ううん、月夏には言わないとダメだと思うから。……そこでね、いろんな実験をさせられたの」
「実……験……」
「うん、戦わされたり、体によくわからない棒を入れられたり……」
「そんなことが……」
この時点で人として扱われてはいなかったのだろう。
初対面の時にあの反応だったのも、その後の自己肯定感のやけに低い行動も、おそらくはそれが原因か。
「それで……そういうことがない時は……男の人がやってきて……」
鴉那の目線が下に逸れる。
「まさか」
鴉那は頷き、少し震えていた。
腑に熱した石を投げ入れたかのように怒りが込み上げてくる。
だがここで怒鳴ったとして、鴉那が萎縮して終わるだろう。それに今の俺がどうこうできる問題ではない、悔しいが。
「……はぁ、すまない。ちょっと聞いてるだけでも許せねぇが、それでもまだ師匠に辿り着いてないってことは、続きがあるんだろ?」
「うん……ありがとう、うちなんかのために怒ってくれて」
少し先ほどの怒りの熱が残っているのか、少し口が回ってしまう。
「その自己卑下はやめようぜ。自分なんか、じゃない。自分のために、それじゃダメなのか?」
「ッ!」
言葉に詰まったのか、一度目を見開いてそのまま鴉那は俯いた。
「わ、悪りぃ!そんなつもりじゃ」
「ううん……ごめ……違うね、ありがとう」
目元が少し赤いが、前を向いてくれた。
「あー、いや、どういたしまして」
良かったと思いたいが、やはりあまり良くは無かったなとバツが少し悪いが、お見合いじゃないんだから話を進めよう。
「改めて、師匠はまだその研究所にいるのか?鴉那が脱出できたってことは何かしら脱出できたんじゃないのだろうか。
「わからないけど、うちは火事のどさくさで逃げれたの。少なくとも私があそこにいた時は師匠の気配はあったし……ただ、妖怪ともちがう、変な生き物に追いかけられて……」
あの夜他に誰か……いや何かがいた気配は少なくとも感じなかったのだが。一応あの姿についても聞いてみるか。
「あー、すまない。もしかしてあの夜何か飛んでるような気がしたのは……」
「あっ、見られちゃってたんだね。この街に入ってからは追っかけられてる感じはなかったから、きっとうちだよ」
すこし目を伏せながら鴉那は答える。
「あー……なるほど……ちなみに翼と手が今とすごい違っていたような」
「……怖かった?」
「あの時はな。だが今ではこうやって話せてる。それでいいんじゃないか?」
これは本心だ。たとえ人間でも話が通じない奴もいるのだから、逆だっているだろう。
「えへへ、月夏は優しいね」
「そんなんじゃねぇよ。ただまともに話せるやつで安心はしたさ。ただ……」
「ただ?」
少し目を逸らしながら言った。
「その服は流石にそろそろ変えに行かないか?」
ズタボロですこし危ういところまで見えそうな服を着た少女は、思いっきり赤面しつつ頷いた。




