第一章第三節⑨ Made in Japan
[Made in Japan]
2014.5.21 10:47:23 星見里研究所内部(廊下)
side:神空 鴉那
間一髪だったね。
目の前の降りきったシャッターの向こうにいたら、きっと越えることはできなかっただろう。
……あれ、でも、私が逃げた時、こんなシャッター降りてたかな?
「なあアナ」
「どうしたの?」
「さっきの地図が手元にないんだが、持ってたりしないか?」
「ううん、持ってないかも」
「っちゃあ……やらかしたか……すまん、ここからは地図がねぇ」
月夏でもそんなドジするんだ。
「大丈夫、この先は私も何度も連れて行かれたところだから」
第三試験室。
様々な技能試験も行われた、叶うならもう2度と踏み入れたくない場所。
でも、その先にあの人影が、師匠につながる可能性があるんだから。
「もう、戻ることもできないからね」
「だな……覚悟決めっか!」
カードキーの認証システムは……非常灯で赤い廊下に、ポツンと水色の画面が浮かんでいる。
あそこが、第二試験室の入り口。
「月夏、あそこが入り口だね。キーカードは無くして無いよね?」
「そっちは大丈夫だ。ほら」
暗いけど、割れてる様子などはなさそうだった。
「うん、大丈夫だと思う。
……もしかしたら、奴らがでてくるかも……ううん、きっと出てくる。
月夏、覚悟はいい?」
「ここまできてできてないとでも?」
「ふふっ、それもそうだね。
行こう、何が待ち受けてるとしても」
カードキーを翳す。
CHECK……ACTIVATED.
ドアが開いた。
エアロックは……今は機能してないね。
ただ、その先のドアを超えたら、何があるかわからない。
内潤卦を全身に、ショクバミで右腕を鉤爪に……ありとあらゆる可能性を考えて備える。
「先鋒は私がいくから」
「おう……任せた」
後ろは大丈夫。だから、前だけを見極めろ、アナ!
左手に逆手持ちしたライトを構えながら、第二試験室の通路に入る。
真っ暗な試験室内だけど、不気味なほどに何の気配もない。
敵はおろか、ネズミ1匹さえも。
……おかしい、静かすぎる。
「……妙に静かだな」
「うん、でも気を抜かないで」
壁を背にして一歩ずつ横に進んでいく。
奥からも、第三試験室側からも、気配は感じない。
何もないのか、それとも罠なのか。
細心の注意だけは欠かさぬようにしながら進み続ける。
カツン、カツン……
足音だけが響く中、ついに第三試験室との連絡ゲートまで何事も起きなかった。
「なあ、アナ」
「しっ、ちょっと確認するから警戒してて」
「お、おう」
ドアに耳をあてるが、ゴォォォという低い音しか聞こえない。
先程同様、カードキーは認証され、ドアも開いた。
「ふぅ……で、何かあったの?月夏」
「いや、何か感じなかったか?なんというか、視線のようなものを」
「視線?……ごめん、わからなかったかも。
でも、この状態で少しでも違和感があったら、多分何かあると思う。
月夏、多分、この先も何もないなんてことはないと思う。
進む準備は?」
「おう、任せとけ」
頷いて返す。
第三試験室への、ドアが開いた。
嫌な意味で、懐かしい光景だった。
部屋の半分は稽古場になってて、残りの半分にはコンピューターがたくさん。
いつもわからない画面をチカチカと照らしていた。
そしてなにより、一番奥にある貯水槽には、今も蛍光色じみた色の液体がなみなみと入っている。
それらが、蛍光灯に照らされて、あの日と変わらない光景を映し出していた。
……そう、隣の部屋は停電しているというのに。
人がいないということ以外は、何一つ変わらない、忌々しい場所のままだった。
「……行こう、この奥が、第三倉庫だから」
連れ込まれて、嬲られた記憶もある、あそこへ……
なぶられ……ズボン……やめ……
落ち着け!今はフラッシュバックなんかしなくていい!
落ち着け私!!
「大丈夫か!?」
月夏に肩を揺すられて我にかえる。
「あ、ごめんね……うん、大丈夫。
行こう、もう目の前に……」
バギィ!
突然背後、さっき通ったばかりのドアから異音が響く。
「月夏!散開して!」
左腕で突き飛ばし、自分も右へ飛ぶ。
バギ、ゴリ、ガリリと異音が響き、ついにドアも変形し、破られた。
そこにいたのは、これまでの奴らよりもずっと大きい、そして何よりも肥大した腕部が特徴的な新手だった。
「ミュータント……」
月夏がポツリと漏らす。
それに呼応するように声にならない叫びをあげる化け物。
その敵意は……何故か月夏に向いていた。




