第一章第三節⑧ The fiRe's on me
[The fiRe's on me]
2014.5.21 10:38:21 星見里研究所内部(非常電源室)
side: 神空 鴉那
電源は点いたみたい……
だけど、おそらく敵がいるのなら警戒体制に入るはず。
それに見つかりやすくもなるし。
あと、惨状から目を背けることもできない。
それでも、真っ暗な中ではこちらがジリ貧だし、選択肢はなかったわけだけど。
「サーバーも動き出したみたいだな……防犯システムとかは大丈夫、だよな?」
「守衛は居たけど、あとはわかんないかも……でもロボットなんかは見たことないかなぁ……
カード認証だったらいいんだけどね」
先程見つけたカードは月夏に持たせた方が良さそう。
元々そんなもの持ってなかったけど、連れられる時に警報がなった試しはなかったし。
もし顔認証なら……その時は頑張る。
「ま、なるようになるしかねぇか……
行こう、監視室とやらへ」
「そうだね!
……で、どっちのルートで行く?」
「……あ」
月夏がフリーズしたね。
でもどっちのルートも正直ごめんなのは私もそう。
「……ん?」
そういえばこの略図、室長室とサーバー室も隣接してるんだ。
「ねぇ月夏、ここなんだけど。
もしかして繋がってる可能性ってないかな?」
「……あるかもしれねぇ、少なくとも、探してみる価値はあるはずだ」
でも、サーバーに囲まれてこの部屋に、ぱっと見でドアらしきものはなさそう。
となると……隠し扉?
「月夏、ちょっとさっきの地図見せて」
一つ気になったことがある。
あの非常ハシゴの位置が、室長室からそう遠くない……
「ねぇここなんだけど」
「……!!そういうことか!
自分だけ逃げるためだとすると、十分にあり得る!!」
「やっぱりその可能性はあるよね?さっきは暗くてよくわからなかったけど」
「試す価値はあると思うぜ」
ハシゴ横にあるスペース。ここにもし室長室と繋がるルートがあるとしたら?
……尻尾切りとしたら、最悪だけどね。
「んー、見た目ではわからんな……」
月夏が首を傾げた。
「こういう時は音で確認する方がいいかも」
「爆弾で壊せる壁理論か、でも確かに素材が人間を通さなきゃ本末転倒だしな」
「そういうことだねぇ、ちょっと確認するね」
まずは反対側……コッコッ……硬くて詰まってる、普通にコンクリートっぽいかも。
反対側は……ボッボッ……何かで壁に見せかけてるだけかな、この感じは。
「月夏、ちょっと確認して」
「おう……んー、ちょっと殴ってみていいか?」
「気をつけてね」
「ふんっ!」
バガン!
景気のいい音を立ててボードに穴が開く。
「見た目だけじゃ判別つかないくらい手ェ込んでるな」
「もし間違ってたら今頃手が真っ赤だったかもね」
「お互いに確認した上だろ?そんときゃ御愁傷様ってやつだ」
月夏の軽口が、今は心強い。
それはさておき、まずここは大丈夫そうかな。
時折バチっとスパーク音がどこからか聞こえるが、確認に行く余裕はない。
こっち側は……認証キー?
「なんだこれ、4桁の数字?」
「これ何回か間違えたら局長のカードじゃないとリセットできないかもね……」
「うえ、マジかよ……何か心当たりは?」
局長……あのたぬき親父にゆかりのある数字……
誕生日……?0810
ERROR
……好きそうな、意味ありげな単語?1059
ERROR
「なあ、アナ……」
「黙って」
あとチャンスは一度……焦りで指先が震える。
何が、何が正解だろう……?
指紋の跡も残ってない……いや、そもそもここを使ったこともないのだろう。
なら0000か?
いや、そんなわけがない。
……ひとつだけ、思いついた。前二つよりもさらに乱暴な理論により出た数字。
それは、きっと自分よりも過酷なことをされていた師匠に関するものでは?って。
私ですら、いろんなことをさせられて……師匠はもっと酷いことをされてたに違いないし。
それにセキュリティ的には確かに訳のわからない数字だから。それなら、ワンチャンに賭けるしかない。
9805……デジタル書きなら、9B05……九尾の麗子。
ピーン。
静かな音を立て、画面が青い表示になる。
ロックも開いたのか、エアーの抜ける音がした。
「……よくわかったな」
「ううん、むしろ外れた方が良かったかも。
パスワードに使われるくらいっていうことは……師匠は、私よりも深いところに組み込まれてるに違いないから」
「なら急ごう、監視室はすぐそこのはずだ」
室長室のドアを勢いよく開ける。
しかし、そこは誰もいない、ものの散乱する部屋と化していた。
……おかしい。ここまで動いて何一つ追手どころかまともな生き物ひとつ見えてこない。
「アナ!これを」
探索してる間に月夏が何か見つけたようで放り投げてくる。
「防毒マスク……有機ガス缶……ないよりはマシかもね、もらっておきましょ」
投げて渡されたそれを身につける。
少し呼吸はしにくいが、研究室とも隣接していて何が起きてもおかしくはない。
こんな時に保険は持つに越したことはないから。
「よし、じゃあ入ろうぜ。少なくとも、何かはわかるはずだ」
「そうね、待ってて、師匠……」
バチバチとしたスパーク音がどこからか響き渡る一室。
機能も大半が落ちてしまっているか、ブルースクリーン状態だ。
ただ、いくつかの部屋のカメラはまだ生きているみたい。
ひとつ目が守衛室。
だが今はそこに誰も立っている気配すらなく、逆に不穏さが湧き上がる。
二つ目が、研究室の中ほどから奥を見るカメラ。時々スパークが走っているのはこの奥みたいだった。
大きいタンク……たしか私が連れてこられていろんなことをされてた時には中に子供らしき姿がいたけれど、今は割れて何も残ってない。
三つ目が第三倉庫……あれは!
「ね!月夏!」
「どうした!?」
他のモニターを確認していた月夏に三つ目のモニターを指差す。
「あれ、誰かいない?」
「……人影っぽいものはあるな」
「確認した方がいいかもって」
「まあ落ち着け、まだ敵かもしれない……」
バチィン!!
一際大きなスパーク音が響き渡ると同時に、研究所の奥側が赤く染まっていく。
ジリリリリリリリリ!!
火災報知器が鳴り響き、警告音が鳴り響く。
「防火扉作動、防火扉作動」
システムの無情な音声が鳴り響く。
マズい!このままじゃ閉じ込められる!!
研究室側のドアを蹴り開ける。
火は……まだこっちまでは広がってない!
「月夏!走って!」
足元には濡れている場所もある。
通電している可能性やどんな成分の液体かもわからない以上、触れない方がいいね。
「机の上を!」
「無茶言うな!」
「それしかないの!」
切羽詰まってる今、言い合いをしてる場合ではない。
「私が先導するから、内潤卦を使っていいからついてきて!!」
ショクバミで腕を翼にし、机の上にある障害物を薙ぎ払って足場を作る。
ガララ、ガシャンと落ちて砕ける音が響く中を飛び移りながら駆け抜けていく。
有機ガスではないのか、時折マスク越しに鼻につく臭いが辛いけど、今は1秒だって無駄にはできない。
「っけぇ!」
そのまま飛び込むように入り口のドアを蹴り開ける。
見えた!
防火扉まではもう10mちょっと……でももう半分以上下がってる!!
「月夏!」
「大丈夫だ、ここにいる!!」
月夏が部屋から出てきたのを確認して駆け出す。
その最中にも、扉は刻一刻と閉まっていく。
この分だと立って入るには厳しいかも!
「月夏!」
「わかってる!」
息はとっくに上がってる。
それでもやらないと!
スライディングと前転、それぞれで閉まろうとしている扉の下に潜り込んだ。
ガシャン
防火扉が閉じ、再び非常灯だけの世界が広がる。
荒い呼吸音だけが、この空間にやけに響いた。
「大丈夫?」
「死んでんじゃね?」
「生きてるよ」
また、進むしかなくなったわけだね……戻る気もないけどさ。




