第一章第三節③ SpitfiRe
[SpitfiRe]
2014.5.21 07:34:59 旧道黒谷岳線
side:白波 月夏
「ここか……」
星見里運輸の敷地を迂回するように続く道路を通り過ぎて、立ち入り禁止の看板を超えた先にあったのは、鬱蒼と茂った木々に隠れた古いトンネルだった。
入り口には何かの石碑も立っているが、文字は薄れて読み取れなかった。
雰囲気あるぜ、全く。
「月夏」
「おっ、おう。どうした?」
「なんだろ、ここ、なんか嫌な予感が……やっぱ飛んでみる?」
これまでにない不安そうな鴉那の様子に、こちらも落ち着かなくなりそうだ。
「曇りとはいえ、ここまで日が登ってんだ。監視カメラでも見つかるし、避けた方がいいだろうよ。
……半人半妖が心霊スポットにビビるのか?」
「むしろそうだからかな……ここに居るのかはわからないけど、そう言われてるところのいくつかには、居るから」
……前門の虎に後門の狼か。
「へっ、なら居ない方にかけてみるってのは?」
「……むう、あとでどうなっても知らないもん」
トンネル内に足を踏み入れる。
向こう側は埋められているのか、はたまた蛇行しているのか。
出口はここからは見えない。
「本当に合ってんのかね」
「位置的には確かにほとんど真上になるから、あってもおかしくないとは思うけど……」
そう話しながら、一歩一歩進んでいく。
少し入っただけで、もう、外の鳥や虫の声も聞こえない。
ヒタ……
……なんだ今の音?
「なあ、アナ……」
「……何?」
「今変な音しなかったか?」
「……確証はなかったけどね、二人とも聞こえたのなら、あまりよくない状況かもね」
「戻るか?」
「ううん、多分こうなったらどっちにしろ向こうのテリトリー。戻るのが一番危ないんだ、こういう時は」
トン、トン
トン、トン
足音だけがトンネル内を響き渡る。
たった数メートルが、一歩先が遠く感じる。
またあの音が聞こえるのではないか?
その疑心は、一歩進む毎に重くなる。
入り口の光も、もう、届いてない。
もうどれだけ進んだろうか。
トンネルの側面に、それと思しき非常口があった。
何故か、狭いトンネルにも関わらず、左右両方に。
ヒタ……ヒタ……
また、あの音が背後から聞こえ始める。
それも、だんだんとこちらへ近づくように。
「なぁアナ」
「マズいね。こういう時に選択肢があるのは、片方は罠の可能性が高いかも」
ヒタ…
ダッダッ!
音の質が変わり、思わず振り返る。
入り口の光が歪な影の形に歪んでいる。
何かいる!
追手の奴らーーー
いや、人型じゃない!!
「月夏!」
「うおおおおお!!!」
追いつかれるのはマズいと全身が警鐘を鳴らす。
いちかばちかだ!鴉那の腕を引きながら左の非常口へ飛び込む。
ガシャン!ガン!!
その扉は入るや否やロックがかかり、そこに何かがぶつかる音がした。
……助かったのか?
息の上がってる二人、その目の前の扉からはもう音はしなかった。
「ふぅー、生きた心地がしなかったな」
ゲーム内だけで十分だ、あんなの。
「うん、あれは私じゃ勝てなかったと思う」
「そんなにか」
「うん、有効打がなかったから……
そういえば月夏、なんでこっちのドアにしたの?」
「右は山肌に向いてる側だからな、もし出るならそっちが正解なんだろうよ。
この規模のトンネルにあんな出口が二つもあるのも変だしな。もしかしたら、向こうはあの化け物が作った罠なのかもな」
だが真相はわからないし、もう一度来ようとも思えなかった。
「で、このラダーか。下に続いてるとなると、おそらくこれが……」
「きっと、入り口だね」
「覚悟、決めようかね」
何が起こるか、何が待ち受けているか。それはわからない。
ただ、この旅の終着は、もうすぐそこだろう。




