第一章第二節② Back on the Rocks
[Back on the Rocks]
2014.5.20 06:01:11 浮寺駅前バス停
side:白波 月夏
「すいません、星見里行きで合ってます?」
「ああ、合ってるよ。
珍しいね、この便は大抵顔見知りしか使わないから」
乗りながら行き先確認をするが、大丈夫そうだ。鴉那はまだ眠いのか、席に座るや、また二度寝を始めていた。
どういった道かもわからないので、鴉那に一応シートベルトをつけておく。
「いやあ、妹の知り合いがあの辺にいるんすけどね。
この間火事があったって別の知人から連絡受けたんすよ。
大丈夫か顔を見に行きたいって言ってるんですけど、1人だと危ないだろうから、近くまでは同行しようかなって」
「ああ、あの小火かい?危うく山火事になりかけたっていう」
どうやら運転手のおっちゃんはそれで納得してくれたようで、眠っている鴉那については触れないで話を進めてくれた。気遣いが有難い。
時間が来たようで出発確認。
ドアが閉じられ、エンジンのかかった特有の重い音が響く。
他に乗客は乗っては来なかった。
なら、向こうが止めるまではそれとなく話を聞いてみようか。
「らしいですね、誰も犠牲にならなかったのが不幸中の幸いというか」
「違いないねぇ。だが妙なんだよなぁ」
「妙?」
バスロータリーから出る信号を待ちながら運転手はすこし首を傾げたので思わず食いついてしまう。
「ああ、いつも黙っているけど、あのあたりまで乗る客がいたんだがなぁ。
あの日からてんで見なくなってね……」
「そうなんですね……」
「テレビじゃ怪我人もいないって話だけぇのぉ。たまたま転勤のタイミングと重なっていただけかもだがなぁ。」
やはり、あそこでは何かが起きていたと踏んだほうが正解か……
鴉那は寝てくれてちょうど良かったのかもしれないな。
多分起きていたら馬鹿正直に話してこのおっちゃんを混乱させかねない。
「でもこの時期だと珍しいですよね?」
「そうなんだよなぁ、ないわけじゃないけどのぉ……」
元々鴉那が嘘をつく理由がなかったが、第三者であるおっさんとの会話から一つピースが嵌る。
多分その人物はもう……
「他にもそういう人、いるんですかね……急に見かけなくなったとか」
「お兄ちゃん、中々怖いことを言うねぇ。とはいえ、この国でそんなことはそうそうないだろうさ」
途中のバス停でも誰も乗ってこないまま、山道へ入る。
だが、ここまで対向車すらほとんど見かけない。そろそろ通勤の早い人たちはいそうなものなのだが。
「……そういえば誰もいませんね。いつもこんな感じで?」
「うーん、確かに赤字路線なのはそうなんだが、いつもは何人かはいそうなもんなんだがなぁ」
これに似た感覚は、つい昨日もあった……いや、まさか。
嫌な予感がする。
「鴉那、起きーーー」
「うおぁぁぁ!!」
運転手のおっちゃんが突然大声を出したと思った瞬間、急激な横Gに襲われる。
何か黒いものがフロントガラスにぶつかったような気がした次の瞬間、弾かれそうになるのを反射的に取っ手を握り、前の席に左腕を伸ばした。
一瞬重力がなくなり、ふわりと体が浮いたと思った次の瞬間、座面と床に叩きつけられる。
口を切ったのか、鉄のような味と生暖かい液体が口に広がった。
堪えきれず後ろに吐き捨てる。
「ってぇ……、お、おい、大丈夫か?」
「ったた……え?何が起きたのーーー」
車内をみて愕然とする。
埃だらけの車内……しかし先ほどまでとは車体の向きが変わっていた。
天井は気がつけば壁になり、先ほどまで山が見えていたはずの窓は、今では上を向き空しか見えない。
横転している……
事故ったのか……?
幸い、バスの形が大きく変わるような事故ではないようで大きな怪我は負わずに済んでいる。
「月夏!急いで!」
真横を向いていた鴉那も上の窓を開けようと奮闘していた。
軽油が漏れたのか、石油特有の鼻につく臭いがだんだんと強くなってくる。
「あ、ああ!」
運転席の方はガラスの飛散が激しく確認できないが……
「おい!?大丈夫か!!?」
だがその返答は返ってこなかった。
「クソ!なんだってんだよ!!」
「月夏!こっち!」
なんとか窓を開けることに成功して鴉那が脱出。それに続く。
バスの側面に立とうとしたその時、その頭上を大きな黒い影が飛び去っていく。
「奴がやったのか……!?」
その姿には見覚えがあった。
黒くぬっぺりとした肌、そして明後日の方を見た顔……昨日の夜の奴にそっくりだった。
ただ、その見た目には大きな違いがある。
昨日のやつは足が太く、尻尾が生えていた。
今日の化け物は痩せ細っており……
———そして、翼が生えていた。




