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アナリティクス・プロジェクト  作者: 神空鴉那
第一章 第一節
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第一章第一節⑤ Take me higher

[Take me higher]

2014.5.19 22:22:22 白波月夏宅屋根上

side:白波 月夏


隠れてと言われてもそんな場所はこの家にはどこにもない。

視認されていないなら今いる屋根の上が一番マシなレベルだ。

「なぁ、2対1の方がいくらかマシになる可能性は?」

「月夏が内潤卦を使いこなせてるならね。アイツから守りながらじゃ戦えない」

先ほどまでとは天地ほどもある表情にギョッとする。

その目には先ほどの年相応の姿はどこにもなかった。

「月夏はなるべく後ろにいて……来るっ」

玄関のあった位置の屋根を吹き飛ばして黒い影が飛び上がってくる。

「ふっ!」

鴉那が目に追いつけない速度で飛び出す。

その右腕は先ほどとは打って変わって鉤爪化した、隠さない敵意の現れか。

その腕の一閃。

「ギギッ」

だがその一撃は大きなダメージとはいかなかったようで、化け物は屋根上に着地した。

一目見た瞬間に、これを見るなと本能が警鐘をかき鳴らす。

コイツは、ヤバい。


どす黒く変色した、ぬらりとした外皮。

その体を支えるには不相応に肥大化した脚部。

長くはないが、鋭く尖った尻尾。

そして……ありえない角度に折れ曲がった、悍ましさすら覚える人の顔だった何か。

まさに、化け物としか言えない風貌だった。


化け物が間髪容れず鴉那にタックルを仕掛ける。

「ゔっ」

足場の悪い屋根上では回避もできず弾き飛ばされる。

「大丈夫か?」

「大丈夫、アイツには借りもある」

こちらには一瞥もせず鴉那が答える。

それだけ余裕がないということか。

などと話してる間にもあの化け物はこっちに突っ込んでくる。

「月夏!」

「うおおお!」

間一髪左に転がって巻き込まれずに済む。

お互いに殴り合いの応酬と思われるのだが、最早目が追いつかない。

しかし、段々と鴉那の方が屋根端へと追い詰められ始めている。

このままじゃマズい。

だが、この戦いに俺の入る余地など……

いや、ひとつだけあるか。

内潤卦を、ぶっつけ本番で成功させること。

さっきのは殆ど偶然だ。だがやれなきゃ俺も鴉那もやられるだろう。

ええい、ままよ!

先ほどのイメージをトレースする。

片手に激情を、片手に平穏を。

だが、上手くいかない。

「クソ、なんでだ!」

失敗は焦りを呼び、焦りは失敗を呼ぶ。

分かってはいても、このジレンマには……

「ん?失敗?」

今一番強い感情はこれか?

わからない、だが

「ダメで元々だ!!」

右手に己の不甲斐なさを、左手には日中の、なんてことはない、続くと思ってた思い出を。

それを全身に巡らせるように……


「がはっ!」

鴉那はおそらく劣勢だ。

焦る気持ちが焦げた砂糖のように黒く膨らむ。

ーーーだが、それすらも糧にしろ。

全てを燃やせ。燃やし尽くせ。

瞬間、あの火事の夢が脳裏をよぎる。

だが、そんな夢如きで揺らぐほど、今の俺はブレちゃない。

「消えろっ!」

瞬間、世界が静寂に包まれる。

先ほどまで打ち合ってた化け物と鴉那の声も音も聞こえない。

音だけがどこまでも遠くに行ってしまったようにも思える静かな世界だ。

そして振り返る。

「成功した……のか……?」

そこにあったのは———


世界が、ゆっくり動いている。


さっきまでは目でも追えなかった動作も、今ではまるで0.5倍速再生をしている動画のようだった。

だが、自身の体もまるで重しが乗ったように重く感じる。

空気も、屋根も、ここにある全てがまとわり付くような、時間だけがゆっくりと流れる感覚。


少しだけあの感覚を絞るように呼吸を整える。

先ほどよりはずっと早いが、それでも十分いなせるだろう。

体も、うん、これならいけそうだ。

「き……ちゃ……だ……め……」

スローモーション動画のように歪んだ声のアナを尻目に化け物が一瞬振り返りかけたところに左膝裏へ足払いを仕掛ける。

足の筋肉が悲鳴を上げるが知ったことじゃない、動きやがれ。今だけでいいから。

咄嗟のことでバランスを崩した化け物の尻尾へ思い切り踏みつけ。

化け物の悲鳴が歪みきったノイズのように鳴り響くが、今は気にも止まらない。

そのまま両腕を押さえ込み叫ぶ。

化け物の抵抗と激痛が走る腕、そう長くは保たないだろう。

「今だ!!」

驚いた顔をしていたアナだったが、意図が通じたらしい。

「はあっ!」

ハッとした顔から一気に距離を詰め、その化け物の左胸に深々と鉤爪を突き刺した。

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