兵学乃解
ここでは主に「汚染少女」本編中において使用される軍事用語、戦略・戦術用語及び作中用語等に関して、請謁ながら若干の補足解説を行いたい。
各単語は五十音順に配列されており、また語句の選定は筆者の独断に依って列挙されてある。なお欠番項目に関しては漸次、公開していく所存である。
記述には以下の文献を参考にするところ大である。
片岡徹也・福川秀樹 (2003). 戦略論大系別巻 戦略・戦術用語事典 美蓉書房出版
寺田近雄 (2011). 完本 日本軍隊用語集 学研パブリッシング
ブリタニカ・ジャパン(2013). ブリタニカ国際大百科事典 小項目電子辞書版
・1)「尉官」(イカン)
主に軍隊の階級において、大尉・中尉・少尉の位にある者を総称していうときに用いられる名詞。「佐官」の下。なお准尉は正式な「士官」ではないため、准士官と呼ばれる。それゆえ、通常は尉官には加えない。「士官」の項も参照されよ。
・2)「折襟」(オリエリ)
背広やワイシャツの襟のように、折り返すように仕立てた襟の総称。例えば戦前ドイツ陸軍などの軍装の類。
・3)「下士官」(カシカン)
各国の軍隊等は、その国軍の役割や性質、当該国が晒されている状況などによっても異なるが、概して数十万から数百万という大規模な組織集団であり、従って軍全体を統率する幹部軍人が現場隅々を遍く管理することは不可能に等しい。「下士官」とは幹部軍人たる「士官」を補佐しつつ、ともに「兵」を管理・監督する軍人で、いわゆる下級管理職に相当する。
・6)「軍隊」(グンタイ)
普通、兵器を効果的に利活用するために訓練及び組織した人間集団を指す。Armyは現在、慣例的に陸軍をのみ指す語となってはいるが、本来の語義としては広く軍隊全体を指すことに留意されよ。
・9)「伍長」(ゴチョウ)
軍隊兵士の階級を表す名称。兵長の上。総じて「下士官」の最下位に位置する。「下士官」の項も参照されよ。
・10)「佐官」(サカン)
主に軍隊の階級において、少佐・中佐・大佐の位にある者を総称していうときに用いられる名詞。「尉官」の上、将官の下。「士官」の項も参照されよ。
・11)「作戦」(サクセン)
軍隊が戦地において為す一切の事項の総称。すなわち「戦闘」・行軍・駐軍をいう。だが慣例として通常、戦略単位以上の部隊(師団など)の、ある期間における対敵行動を総括していう。
・12)「士官」(シカン)
士官(officer)とは、軍隊全体を管理する上級の軍人のことで、普通、佐官・尉官を総称していう。高級将校すなわち将官クラス(大将・中将・少将〈・准将〉)の軍人を除いて、通常、軍人は士官・下士官・兵の三種類に大別される。その中の最上位のクラスを「士官」と呼んでいる。
・13)「爵位」(シャクイ)
本作品の架空国家「帝政日本教国」において貴族階級を保証するための社会的な地位。特別な功績・実績、武勲などのある者に授与される。六爵位制を採り、上位から大公爵・公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵の順。これが狭義のいわゆる貴族で、これに騎士侯を加えて指す場合もある。ただし騎士侯位は正式な貴族とは認められず準貴族と呼ばれ、また一代限りの称号とされる。この点で爵位の世襲が認められる貴族とは区別される。
・15)「将校」(ショウコウ)
元々は中国の武官に対して用いていた言葉。少尉以上の武官をいい、すなわち「尉官」、「佐官」と将官をも加えて呼称する。従って、一般的には「士官」よりもより広義的な名詞である。高級指揮官を補佐する参謀将校、各部隊に付属する隊付将校、前任者という意味での先任将校などといった風に、ある名詞の接尾語として用いられる場合が多々ある。
・16)「小隊」(ショウタイ)
軍隊の編制単位の一つで、中隊の下に置かれる部隊。普通、二つ以上の分隊より成り、少尉程度の軍人によって指揮される。
・17)「神学校」(シンガッコウ)
本作品における、教会経営の教育機関の総称。帝都の本部校を中心に十の支部校と、その支部校区の中に十の地方校が存在する。画一した神学教育の普及を謳いながら、一方で各校独自の特色ある教育活動を進めるなど多彩な学校色が売り。非教徒の学徒にも寛容。そのため倍率は決して低くはなく、各校初等部の倍率でさえ平均三倍を超える。
・18)「聖騎兵」(セイキヘイ)
聖年騎士団兵の略。本作品における架空組織の少年兵士。組織内の階級に関して次に概説するので、適宜参照されよ。なお、下位から上位の順に列挙する。
・「兵」:二等兵(訓練兵)・一等兵・上等兵・兵長
・「下士官」:伍長・三等園曹・二等園曹・一等園曹・曹長
・「准士官」:准尉
・「士官」:三等園尉・二等園尉・一等園尉・三等園佐・二等園佐・一等園佐
・「将官」:准将・三等園将・二等園将・一等園将・元帥・総帥
・19)「戦線」(センセン)
展開して戦闘に従事する第一線歩兵の線のこと。なお単に前線といって前の線、すなわち第一線部隊より成る線を示す場合もある。その場合、必要があるときにはさらに最前線の語を用いる。また戦地とは彼我両軍が戦争を交える全地域をいい、あるいは戦域とも称される。戦地ないし戦域の下位に戦区があり、彼我の前線部隊が取り組む戦闘の地域を戦場という。
・20)「戦闘」(セントウ)
実際に彼我両軍の部隊が銃砲を用いて戦うこと。戦術学では、戦いは戦争、戦役、戦闘、格闘の四つに区分され、これらは順に階層性を持つ。慣例として、比較的小部隊による交戦を戦闘、大兵団によるそれを会戦などと呼び分けることもあったが、現代戦においては会戦の語はほとんど死語と化している。
・21)「前衛」(ゼンエイ)
軍隊の行軍間において、その縦隊主力の安全を図るべく、警戒のために行進方向の前方に出す警戒部隊のこと。不意の敵襲に備え、敵の捜索動作を妨害し、かつ敵に対して我軍の行動の自由を確保し、なにより行軍行進を渋滞させないために、本隊前方の適当な距離に行進せしめた部隊のこと。「前衛」は一般に前衛本隊と前兵に大別され、前兵は尖兵中隊と尖兵に区分される。なお「前衛」はできうる限り諸兵科連合であることが望ましく、その歩兵部隊は全歩兵の三分の一以内をもって原則とされる。
・22)「曹長」(ソウチョウ)
軍隊兵士の階級を表す名称。総じて「下士官」の最上級に位置する。「下士官」の項も参照されよ。
・24)「退却」(タイキャク)
作戦軍が兵力を後方へ移動させる機動のこと。随意に作戦軍が「退却」する場合と、敵に撃退せられてやむなく「退却」する場合との二つが考えられる。また「退却」する作戦軍が取る作戦線を退却線という。退却線は普通、前線の作戦軍と後方の兵站機関とを結ぶ背後連絡線が選ばれるし、またその方が有利である。退却軍が退却先で軍を休養するだけの力があれば良いのだが、その力もなく、友軍との連絡もつかず、敵地内部で退却駐軍したとあれば、今後の生活は困難を極めるはずである。
・25)「大隊」(ダイタイ)
二個以上の中隊を以て成る、軍隊等の編制単位の一つ。およそ少佐相当の軍人がこれを指揮し、独立した本部を持つ。
・26)「中隊」(チュウタイ)
軍隊の編制上、本部を持つことのできる最小の部隊単位。大尉程度の軍人が指揮を執り、普通、四個程度の小隊より成る。
・27)「帝政日本教国」(テイセイニッポンキョウコク/テイセイニホンキョウコク)
本作品の舞台となる架空国家。皇帝を中心とした皇族主義・貴族主義であるが、立憲君主制や議会立法制、普通選挙制を受け入れるなど君子国家を志向する。「教会」とは協同で政府諸活動を担任し、軍事力や警察力なども融通し合う。
・28)「鉄十字章」(テツジュウジショウ)
聖年騎士団が発行する勲章で、壱級・弐級の二種類がある。受勲者には高等部卒業まで勲章年金が毎年支給される。なお現実のドイツ軍においては実在する勲章で、戦前ドイツ軍には一級・二級のほか騎士鉄十字章と呼ばれるものや、あるいは柏葉章・剣章などを付属するもの、ダイヤモンドを散りばめたものなど功績に応じて多彩なバリエーションがあったようだ。
・29)「突破」(トッパ)
障害や困難を突き破って通り抜けること。軍隊の機動の一つで、主力軍を以て敵部隊の正面を突き抜いて彼軍を分断し、各個撃破を容易にする攻撃機動の方式のこと。
・33)「不期戦」(フキセン)
すなわち、遭遇戦のことである。比較的に不期、不意の戦闘のことであり、予期戦とは対を成す。通信傍受、レーダー索敵が一般化した現代においても尚、軍隊の行軍中に彼我両軍が突然に会遇することは完全にないとは断言できず、だからこそ捜索勤務は重要なのであって、指揮官はこのことを常に危惧しておかなくてはならない。
・34)「副官」(フクカン)
副官は普通、「フクカン」と呼称するが、より中国音的に発音すれば「ふっかん〈ふくくわん〉」となる。司令官や隊長に直属し、事務の整理・監督にあたった士官ないし下士官のことで、いわゆる秘書官としての性格が強い。副官には大別して二種類のタイプがあって、高級将校ごとに専属して直属する副官と、司令官・隊長という役職者に対して直属する副官の二つがそれである。前者の場合、その副官は長い期間にわたって副官としての職務を担任するが、後者の場合、人事の異動などによって司令官・隊長が交代すれば新任者の将校に直属する。
・35)「副長」(フクチョウ)
小隊・分隊などの諸部隊における副隊長のことを、本作品では副長と呼ぶこととする。
・37)「兵」(ヘイ)
軍隊等の軍人に対して用いる言葉で、いわゆる兵士。区分の上では「下士官」の下。軍隊や組織の規模によって、全体の階級数は様々であるが、兵とはその軍隊等で最下級の兵卒からおおよそ兵長までを指す。「兵長」の項も参照されよ。
・38)「兵站」(ヘイタン)
作戦軍の戦闘力を維持増進して、作戦を支援する機能すなわち補給、整備、回収、交通、衛生、建設、不動産および労務・役務を総称していう。しかし兵站という語本来には宿駅・停車場・宿站といった程度の意味しかなく、従ってLogisticsを兵站と訳すのは不適当である。なお輜重という言葉があるが、これには弾薬・糧食・衣服・病者や捕虜を輸送するという意味があり、よって補給部隊・後方支援部隊という意味合いで輜重部隊と表現することは適当である。
・39)「兵長」(ヘイチョウ)
「兵」の中で最上級の階級。兵長の上はおおよそ「伍長」であり、「下士官」とはこれより上から少尉(准尉)の下、すなわち「曹長」までを指すのである。
・40)「兵力」(ヘイリョク)
国家が戦争のために用いる一切の物をいい、主に人員と材料(戦資)とに区分される。ここでいう人員とはすなわち戦力のことを指し、また材料とはすなわち兵器・艦船・航空機・基地や要塞のみならず被服や装具など一切の資材を指す。
・44)「連隊」(レンタイ)
数個の大隊より成り、軍事戦術上最小の戦術単位とされる。普通、連隊三から四個程度で一個師団を形成する。なお師団とは、独立して作戦を展開できうる戦略単位の一部隊のこと。また師団を成さずに、すなわち戦略部隊を編まずに二から三個の連隊を取り纏めて成る部隊を旅団といい、旅団は戦術単位の最大級の部隊である。
(兵学乃解・終)
個人的に戦争学に興味があり、自身の後学のためにも書きまとめることにしました。欠番項目についてはお話の進度に応じて漸次、掲載していく予定です。