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次期領主の憂鬱 3

お待たせしております。



 どう答えたものが悩んでいると、アンジェラからも言い募られた。


「私からもお願いします。大旦那様とお嬢様が約束された期間は今日までなのです」


 今日ウィスカに来たのにもう約束の期限なのか? それって初めから俺の転移環で帰る事を前提として立てた計画じゃないか!


「ダメだったですか?」


「いや、そんなことはありません。私もシルヴィアお嬢様とお会いできて嬉しかったですよ」


 上目遣いで6歳児にこんなことを言われたらダメなんて言えないだろうが!


「良かったぁ。私、ユウさんに会いに来たのも本当だけど、一番は大導師様に御礼を言いに来たんです。ユウさんは、大導師様の在所をご存じありませんか?」


「それなら彼女に案内してもらいます。これから先生の店に戻るつもりだったので手間というほどでもありませんし」


 レイアに視線を向けると頷いてくれた。意外というわけでもないが、レイアは小さな子供の扱いも手慣れたものだった。故郷に幼い兄弟がいるようで、その子たちを思い出すとか。


「マジか! 彼女はあの”八耀亭”で働いているのか!?」


「セラ先生のお眼鏡に叶ったようですが、珍しいんですか?」


「そりゃあもう! 偉大なる(グラン)・セラの気難しさは伝説的だぞ。多くの弟子入り志願を蹴散らして誰も認めなかったらしい。だからお前の話が出たときは皆驚いたみたいだぜ? あのセラに弟子がいるってな」


 あれ? 姉弟子の存在が消えていないか?

 だが、もともと人払いの結界が有るような店だ。内情を詳しく知っているやつも少ないのだろう。


「クロイス卿も同行を?」


「いや、俺も昔世話になった事があって、その時の礼を言いたいんだが、生憎と手土産がないんだよ。大の大人が手土産の一つもなしで礼に行くわけには行かんだろ? 今準備している最中でな、そのときに行くさ」


「なら、丁度いい。少し気晴らしに行きませんか?」


 俺は手招きしたバーニィが、不思議そうな顔をするなか、ウィスカならではの遊びを提案したのだ。


「えーっと、話が見えないんだけど」


 そりゃお前はさっきからアンジェラしか見ていないからな。状況から見て一週間ぶりなんだろうけど、露骨過ぎるぞ。見られている本人がなんか怒ってないか?


「この面子で、ウィスカで気晴らしとなると……いいのか?」


 ここに来てから固かったクロイス卿の顔は格好の遊びを見つけた悪戯小僧のようになっていた。




 そして今に至るというわけだ。


「しかしウィスカはホントえげつないダンジョンだな。完璧だと思った連携が崩されるとは思わなかったぞ」


「さすがに背後からの襲撃が5回続くと戦線に綻びが出ますね。ブラックイーグルを倒し損ねるとこうなるって聞いてても、実際に襲撃を受けると大変です」


 俺達は21層の()で休憩中だ。先程一匹討ちもらしたブラックイーグルがとてつもない量の援軍を連れて来たのだ。しかも交互に背後からの襲撃になるように手配しており、さすがに俺達も撤退を余儀なくされた。俺一人なら範囲魔法でなんとでも切り抜けるが、いくら腕に衰えが見えないクロイス卿といえど現役を退いてしばらく経つのだ。無理をさせるつもりもないし、公爵家家宰のラーウェル子爵からもくれぐれも無理をさせるなと前に視線で何度も念を押されている。


 クロイス卿は今や公爵家の年老いた当主以外で唯一の男子として色々な名代を仰せつかる事が多いらしく、公私共になくてはならない存在だった。

 今日は接待で来たのだし、気晴らしで大怪我などさせるわけにはいかない相手だったので、無理をすることなく()()に撤退したというわけだ。



 ダンジョンに潜るにあたって色々準備が必要かと思ったが、クロイス卿はシルヴィアの護衛としてやってきたので自分の装備をマジックバッグに入れて持ってきていた。バーニィは既に数回俺とダンジョンに潜っているため、剣以外の物は俺の<アイテムボックス>に入っていたから直ぐにダンジョンへ行くことができた。



「いや、今回ここまで追い込まれたのはバーニィがその盾を使いすぎたからだぞ。解ってるよな?」


 俺の指摘にバーニィは黙り込んでしまう。斬り込み隊長がその動きを鈍くしたら連鎖的に全ての事柄が停滞する。それを解らぬ男ではないが、つい楽しんでしまったようだ。気持ちは解るので強く責める気はない。

 彼は先程手に入れた魔導具の盾の性能を試していたのだが、この戦闘中にやるなよと注意したのだ。

 俺も一週間前にアイスブランドを手に入れた時は意味もなく一層のゴブリンたちを倒しまくった後、二人に自慢しに王都まで跳んだからな。

 ちなみに今は手元にない。最初の内はこれでデスハウンドを剣の錆にしてやると意気込んでいたのだが、やはり剣より魔法のほうが殲滅力が高くて泣く泣く諦めている。

 ならばと剣身に比べてあまりにも貧弱な鞘と柄を相応しいものに交換すべく、クロイス卿の知っている腕の良い鍛冶屋に預けているのだ。出来上がりが本当に楽しみである。



「いや、つい使いたくてさ。でも凄いよこの盾の魔導具! 腕輪型なのに腕を振り回しても全くズレないんだ。両手が使えるのは大きいね。しかも自分の意思で収縮可能だし」


 あ、コイツなんで俺が注意したか、さては理解してないな。この作戦はお前が大暴れする事が第一条件だ。それによって数の勢いを殺された敵をクロイス卿が片付け、残りを俺が殲滅するやり方だった。


 それなのに今のバーニィは盾の効果を確かめたくて、わざと攻撃を盾で受けたりしていたからクロイス卿のほうに向かってくる敵が必然的に増えてきたのだ。そのため全体的に安全が脅かされる事になり、いったん退却を余儀なくされたのだが……まあ、言うまい。ダンジョン行きは俺が誘ったのだし、今回は遊びだ。早めに撤退したのもそのためだ。


「そうだな、気に入ったのなら嬉しいよ。クロイス卿だけいいアイテムが出たんじゃ不公平だからな」


「俺も気に病まなくて済むしな、それにしてもこんな退避方法を考えるとは……つくづく規格外だなお前は。現役の時に会えなかったのがホント悔やまれるわ」


 クロイス卿がダンジョンの壁を叩きながら呟いた。座って軽食を食べていたバーニィがその言葉を拾うと俺を見つめて指差した。


「やっぱりこれは普通じゃないですよね。おいユウ、何が普通の退避方法だよ。クロイス卿だって違うといってるじゃないか。危うくまた騙される所だった」


「普通じゃないかもしれないが、便利だろ? 特にここは探索中に安全地帯なんかないんだから」


「そうは言っても限度があるだろう? 普通ダンジョンの壁を土魔法でくりぬいて即席の休憩所にはしないと思うよ」



 俺達は今、バーニィの言うとおり21層のダンジョンの「壁の中」にいる。ダンジョンの壁は掘ったり傷つけたりしてもすぐに元通りになってしまう特性を持つことは話したと思う。俺も始めのころ、毎日変化する階段に時間を取られ、何とか下に降りられないかと土魔法で床を掘った事がある。

 その時は層そのものが降りる階段から受ける印象以上に深い事と、何故かモンスターがこちらを察知して大量にやってきたことによりとても穴掘りを続けられず断念している。

 

 だが、収穫もあった。何でも試してみるものである。


 それが、ダンジョンの壁の中を利用した避難所造りだ。やり方は同じで、土魔法で壁に穴を開けるだけだ。そのままではモンスターが入ってくるのでちゃんと穴を塞ぎ、空気穴を上部に開ければ完成のお手軽休憩所だ。

 モンスターが俺達を諦めるかがはじめは不安だったが、しばらく周囲をうろつくもすぐに去ってゆく。攻撃衝動が強い分、他は淡白なのかもしれない。今回もデスハウンドがしばらく壁を引っ掻いたりガウガウとやっていたが俺達が休憩中に諦めて去っていった。こちらとしては準備万端で反撃できるのでそのままでも構わないが、これはこれで有難くはある。



「それで、この層はこれで終わりか? お宝は全て回収済みでいいんだな?」


「ええ、俺のスキルによれば今日は7個全て回収しました。内容は……まあご存知の通り大収穫ですね。俺一人のときとは大違いですよ」


 今日の収穫は帰還石を除くとお宝4種に金貨150枚、そして特殊回復薬一つだった。4種の宝の内の二つは既に両人に渡っているものなので説明は省くが、残りの二つは良く出る即死魔法を一度だけ防ぐ”命の指輪”だった。金貨25枚もするアイテムだが、これも二人に渡したほうが意味のあるアイテムなのでそちらにある。


「俺が現役のときだってここまでの幸運はなかったよ。まさか特級(エクストラ)・ポーションがでるとはな。これ一つで金貨100は堅いぜ。もしもの時の保険だから、金のある冒険者なら誰でも欲しがるぞ」


 エクストラ・ポーション。現存する中では最高級の回復薬だ。死者さえ蘇らせるという噂のエリクシオル(神薬)・ポーションには及ばないが、瀕死の重傷さえたちどころに癒すというとんでもないポーションだ。回復魔法と違い、術者を必要とせず、必要な時にすぐ使える回復薬は冒険者にとっての必需品だ。回復役の僧侶とはまた違った意味での貴重さがある。


 通常のポーション、その上のハイ・ポーションときてエクストラという順番だが、ハイ・ポーションを抜かしてエクストラが来てしまったことになる。この中に誰かとてつもない幸運の持ち主がいるようだ。

 少なくともこれまでの探索で得られていない事から俺ではないことは確かだな。


「俺は回復魔法があるんで不要です。二人のどちらか持って帰りますか?」


 二人は信じられないモノを見る目でこちらを見てきたが、何度も言うが今日は接待だ。クロイス卿が楽しめればいいのだ。俺は多少稼げればそれでいい。


「お前なぁ。金貨100枚を普通に譲ろうとするなよ……お前が持っておけ。自分か他人か、どう使うにせよ、冒険者であるお前が持っているほうが有用だ。バーニィもそれでいいな?」


「ええ、もちろんです。この盾と指輪だけでお釣りがきますよ」


 謙虚な二人だなぁ。どの道モンスタードロップは山分けだから今の所の取り分はそれぞれ金貨150枚ということろだ。ダンジョンに入って二刻(二時間)でこの額は……今日は接待だから気にしない気にしない。


「そういうことなら遠慮なく。それよりどうします? 22層に行ってみますか? この3人なら危なげなく22層も行けますよ?」


 俺の言葉にクロイス卿が食いついた。


「いいのかよ? 現状の最下層だろう? お前が手こずるってことは相当ヤバイんだろう?」


「難易度的にはそこまで変わりませんよ。ただ滅茶苦茶面倒臭いんです。見れば嫌でも解りますよ」


 ここから22層への階段もすぐ近くなので、とりあえず降りてみようということになった。



楽しんで頂ければ幸いです。


最近していなかったご挨拶になります。

いつも閲覧、ブックマーク、感想、評価、誤字脱字報告を誠にありがとうございます。

皆さんの反応が私のエネルギーとなっています。

ストックが本当に厳しくなってきましたが、何とか頑張ってまいりますのでこれからもよろしくお願いします。

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