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21層への挑戦 2

お待たせしております。



「今日はさすがに稼ごう。21層で敵を倒すよ」


「準備は大丈夫? ここからの敵の強さは段違いなんだから、油断しちゃ駄目だよ」


 ダンジョンの攻略は22層で止まっている。またも階段の位置が変わることはもちろん、敵の強さもさる事ながら、全体的な難易度が相当上がっているのでかなり慎重に行動している。

 

 敵が手強くなって倒すのに苦労した、というわけではない。

 相変わらず雑魚敵は一撃で塵に帰るし、集団で襲ってくる敵はただの美味しい敵であることに変わりはない。

 21層における最大の問題は、敵の展開の素早さにある。10層から11層に上がった時は敵が戦術を使用して巧みとはいえないもの、一応は考えて攻撃を仕掛けてきた。20層以降の敵も何らかの戦術の共通点があるのではと思っていたが、このような出方は予想外だった。


 21層に出現する敵は変わらず2種類で、デスハウンドとブラッドイーグルだった。問題はこの2種の敵が、こちらを補足すると凄まじい速さで距離を詰めてくるのだ。

 今までの俺の戦法は、先に敵を見つけて一気呵成に叩き潰すことだった。魔法の威力と連射力によって数の暴力で襲い掛かってくるこの迷宮に対応してきた。


 だが、この2種類の敵は攻撃の瞬間には既に危険を感じるほど近い距離にまで迫られている。これまでは俺は何とか対処して事なきを得たが、他のパーティでは魔法職が魔法を唱え始める間には、既に懐まで入り込まれてしまうのではと思うほど素早い動きをしている。

 

 いや、あれは素早いなどという生易しいものではないな。大型犬以上の体格をしたデスハウンドは俺が咄嗟に展開した範囲魔法を身を屈めて突破したのだ。それまでの敵は為す術なく魔法に飲み込まれていったのに、デスハウントは恐るべき速度で魔法に突っこみ、その命が潰える前に効果範囲を抜けたのだ。当然満身創痍にはなったものの、最後の力でこちらに襲いかかってきた。


 すでに息絶え絶えで脅威を覚える程の敵ではなかったが、敵の耐久力も高くなってきている事は確かだ。

 特に、こちらの攻撃よりも早く動き出しているのは驚異的と言える。これまで数に勝る敵を一方的に叩けたのは、<マップ>で位置と数を先に把握して確実に先制していたからだ。だが、このデスハウンドは俺を視界に入れた途端に全速力で集団すべてが襲い掛かってくるのだ。虚を突かれた俺が咄嗟に出した範囲魔法を突破されて肉薄を許してしまった。

 そんなヒヤリとさせる出来事が数回あってからは、このままでは何時か致命的な失敗を犯しかねないと思い、対策を練るべく21層では最低限の仕事をした後は宝探しと蜂蜜狩りに精を出していたのだ。



無論、宝探しに精を出したことも一種の逃避行動であることは理解している。一度22層まで降りた事もあったが、その時は途中で初めて手傷らしきものを負った。デスハウンドの捨て身の攻撃に対処が間に合わず、腕に爪で引っ掛かれたのだ。

 <結界>を張ってあったので傷を負う事はなかったものの、とうとう来るべきものがきたと痛感した。このライルの体は借り物だと思っているからなるべく傷つけないように遠距離攻撃中心でやってきた(武器の損耗も恐れていたが)のだが、敵の強さが俺の予想を超えてきた瞬間は流石に肝を冷やした。


 それからというもの、俺たちは対策を考えてきた。いちばん手っとり早いのはスキルがあればそれを使うのだが、そこまで都合は良くない。

 それに21層でこれなのだ、今までの傾向では少なくとも25層まではこのような敵が続くと見た方がいい。根本的な対策を取らないといつか致命的な失敗をするだろう。

 そういうわけで、21層を効率的に攻略するための準備が始まった。


 手段といっても様々だ。最初は困ったときのスキル頼みということで、リリィの手を借りて探してみた。候補としては周囲の動きを遅くする<時間魔法>なる怪しげなスキルがあった。だが、取得する前に<鑑定で>確認したところ、時間を遅くできるのは精々半径10メトルほど。21層を効率的に回るには範囲が狭すぎる。

 俺が既に所持している<範囲拡大>を使用してこれなのだ。戦闘の度に一々使うのは面倒だし、後で述べる理由によっても不適格となった。


 次に選んだのは自分をさらに早く動くことを可能にする<超加速>たが、これも癖の強いスキルだった。自分の時間を早めるものかと思っていたら移動系のスキルだった。動きとしては俺が20層のボスを討伐するために19層を高速で跳んで移動したあの手段に近い。

 曲がり角の多いダンジョンの中であれををやると、新たに壁のシミが作られるだけだろう。リリィはブーストダッシュだ! と騒いで楽しそうだが、却下だな。


 結局、何も取らずに終わってしまった。スキルは非常に便利だが一長一短なものが多く、都合よく使い回すには向かないものが多い。

 今回も必要としているのはこれから先どのように戦っていくかの方策であって、早さや遅さはその手段に過ぎない。

 

この十日間はその試行錯誤に費やされたようなものだ。



「ええ、私は宝探しが面白かったけど。ユウも楽しんでたじゃん」


 相棒には嘘が通じない。ああそうですよ、戦い方自体は三日ほど前に出来上がって、今は完熟訓練中だよ。だが、仕方ないだろう、宝探しが楽しいんだよ。銅貨2枚のあとに金貨100枚とか出るんだぞ。元手のかからん博打なんだ。面白いに決まってる。

 訓練を言い訳にダラダラと宝探しを楽しみすぎたのは解っているので、今日からはきちんと闘うつもりだ。


 最近の日課であるボス行脚を終え、とりあえず14層で蜂蜜を手に入れる。一日の目標は蜂蜜詰め合わせが10個だ。14層での行動は早ければ四半刻で、遅くとも一刻で終わる。その行き帰りで環境層のアイテムを魔法を使って収集し、ゴーレムがいたら倒して幽霊達も遭遇したら倒す。

 この行程で大体2時間から、2時間半位で終わらせる。今日も朝5時にはダンジョンに入ったから、日課が終わってもまだ早朝だった。

 やはり転移門の効果は抜群だった。今までなら2時間半だと早くて9層の辺りを走っている頃なのに、今日は既に金貨500枚以上を稼いでいる。だから宝探しを楽しむ時間があったとも言える。


 だが、今日は本気で挑む。21層をくまなく探索し、余力を持って22層に辿り着いてみせる。



「今までだってけっこう余裕だったと思うけど?」


「いや、俺は石橋を叩いて叩いてさらに叩いた後。砕かれた瓦礫の上を渡る主義だ。ただでさえ二人という人手の少ない中で潜っているんだ。

 さらにこれから先もガンガン進もうって考えなのにもう危ない目に遭うというのはきっとなにかが間違っているのさ。少なくとも俺はそう思っている」


「そりゃあ、このダンジョン明らかにソロ討伐用じゃないでしょ。それにデスハウンドだって、ちゃんとバランスのいいパーティーなら普通に切り抜けられるよ?」


 リリィの言う通りなのは解っている。多分、ここに挑むような一流なら普通に前衛がデスハウンドの攻撃を受け止め、その隙に魔法職が一気に殲滅するいつもの方法で対処可能だろう。

 いくら速度が早くも盾持ちがしっかりと防御を固めればそう易々と抜かれはしないだろう。つまり、二人しかいない俺たちが単純に不利なだけなのだ。

 かといって新たな仲間を募っても俺に付いてこれるかは不明だ。レイアはその資格はもう十分あるが、何より本人が八耀亭での仕事を気に入っている。なのでいまから引っ張ってくるのは悪い気がする。

 バーニィは剣の腕は天下一品だ、近接戦闘は俺の上を行くだろう。隣にいてくれれば心強い存在だが、このダンジョンは魔法がないと話にならない。彼が範囲攻撃を持っているなら話は違ってくるが、もしあるならあの王都での悪魔たちとの戦いで使っているはずだ。

 それに、最近感じるのは相棒と二人のほうが気楽。相手の都合を聞かなくても良いし、好きな時間に探索に行ける。特殊な事情を持つ俺としてはひとりの方がよいという、いつもの結論になってしまう。


 だが、その為にこの準備をしたのだ。構想二日、準備三日で仕上げたこの戦術の緻密さを見るがいい。


「後の5日は遊んでただけだけどね」


 ええい、それは秘密だというのに。


楽しんで頂ければ幸いです。


多くの閲覧、ブックマークに感謝しております。

ストックとの勝負になりますが、これからも毎日更新できるように頑張ります。

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