21層への挑戦
お待たせしております。
「えっと、反応はどっち?」
「西側だな。あの茂み辺りが怪しいと思う」
「オッケー。ここ掘れユウユウ!」
「その言い回しもしかして気に入ってる?」
あれから十日程経った。俺たち自身は絶好調なんだが、収入は冴えない状態が続いてしまっている。これまでの平均は約1500枚程度にしかなっていない。ギルドに卸すキリング・ドールの魔石やミスリルを抜いているとはいえ、それまでは2000枚近くを維持していたのにだ。まあ、理由はわかっているのだが。
ちなみに転移環はこの十日で一つだけドロップした。
約束通りセラ先生に渡したが、転移環はもうひとつないと運用できないので、そこは気長に待っていて欲しいところだ。
あと変わった事と言えば、俺に尾行が付くようになった位か。20層突破を大々的に発表したわけではないが、ギルド職員は理解しているし、そこから情報が漏れたのだろう。
かなりの技量を持つスカウトがご苦労なことに朝早くから夜まで俺の行動を張っている。流石にダンジョンの中までは入ってこれないが、外に出た時には誰かが必ず付いている状況だ。
レイアは尾行をかなり鬱陶しそうにしていたが、彼らも仕事だし、俺にやましい所はないのだ。
こういうのは逆に撒いたり隠したりすれば一層相手の気を引くものだから、放置か適当に相手をしてやればいい。
尾行する奴と偶然目があったり、偶然顔を見てしまったことはあるが、その程度の遊びをしたくらいだ。
ユウナに状況を確認してもらったが、ギルド経由なのは間違いないものの、人物の特定には至っていないそうだ。別に犯人探しをしたいわけではないので構わないが、どうも彼女がこの件で気負っているようなのでそこまで気にする必要はないと言っておいたが……素直に受け取るか疑問だ。
尾行については俺は朝一からダンジョンだし、出ればギルドかセラ先生の所でレイアを送る日々しかしていない。
博打に勤しんだり呑み屋のお姉ちゃんに入れあげているわけでもないから、尾行者も退屈だろう。
休日は”迷い人の結界”がある先生の敷地から王都へ跳ぶし、そこで多くの時間を過ごすから夜まで戻らないからな。
最近は尾行者も諦めたのか、数が減ってきたほどだ。
「今度は何が出るかな?」
「今朝からハズレばっかりだから、そろそろ当たりが欲しいところだな」
「まさかここから薬草が出たときはキレそうになったもんね」
「さて、取り出すぞ……おお!!、金貨の山だ!! 大当たりだぞ!!!」
「やった!! 金貨200枚はあるよ! でも、スカが続いていたからこれでようやくスタートラインってとこだね」
「いや、あんだけ負けてたんだ、ここはいい流れが着てるに違いない。次は……少し行った先の木の中間地点だな」
「それ、破産するフラグなんだけど……ここは幸運の女神である私の出番ね。よーし、この調子でお宝ゲットォ!」
今、俺たちは宝探しに夢中だった。
本来はダンジョンの行き止まり等に置かれている宝箱だが、迷宮状になっていない環境層では地下に埋まっていることに少し前に気付いたのだ。
これまでの階層では低層で中身に期待ができなかったり、遠回りになるから諦めていた宝箱だった。だが、環境層では遮る壁もほぼ無いし、さらに未踏破層の宝箱であれば逃す手はない。
ちなみに、ダンジョン内の金貨はそのままでは使えない。必ずギルドを通さないといけない規約になっている。というのもダンジョンで宝箱から出る金貨はこの国の金貨ではないこともある。さらに言えばこの時代のものかも怪しい。
金貨を鋳造した国の裁量一つで金の重さや大きさは決まるし、不景気の頃の金貨は中に他の金属が混じっていたりして実際は使っている金は半分以外なんてものもあるし、酷いものになると外側だけ金が張ってある偽物もある。
他国や商人からどのような目で見られるかはともかく、それでもその国が金貨といえば金貨になるのだ。どれだけ大金を積んでも買えない”信用”という価値を投げ捨てている現実に目を背けてはいるが。
長い歴史を持つダンジョンでは様々な年代の冒険者が挑んだようで、そのような金貨は敗残者の遺品として出てくるとされている。そういうわけで、ギルドで鑑定してこの国の今の金貨と交換しなければならないのだ。さっき手に入った200枚も、実際には150枚分に換算されれば上等だろう。
だが、魔約定は違う。<等価交換>がどういう判定になるのか知らないが、どんな金貨も一枚として扱っているのだ。それを知った俺は価値の低そうなクズ金貨(戦乱期のオウカ帝国産は本当にそう呼ばれている)を投げ入れて暗い復讐を行ったりした。もっとも、一日ぶんの利子にもならん額ではあるが。
あとは、ギルドの鑑定部への賄賂に使う位だ。もし換金額が不当に低い額になっても、よほどものでなければ目を瞑っている。
そう意気込んで始めた宝探しだが、想像以上に楽しかった。一応命懸けとはいえ、ほぼ流れ作業と化していた戦闘を繰り返していた俺たちにとってこの宝探しは先の読めない楽しい娯楽になったのだ。
主な舞台は17層と19層だ。16層は気軽に歩き回れる空間ではない。穴掘りなど始めたら牛の大群に襲い掛かられる。一匹と戦っている最中に数十匹は連れてくる様な平坦な地形で宝探しは危険すぎる。肉が大量に増え続ける一因だ。
18層は水の中に宝箱があるようで、さすがに水棲モンスターの巣に尾ビレも背ビレもついてない人間が宝探しと洒落込むのは自殺行為だ。なので安全地帯の17層と昼間はほとんど敵が活動しない19層を主に掘り返している。
正直、収入が減るほどのめりこむのはまずいと思っているのだが、目の前に埋まっている宝箱を感知するとつい掘って確認してしまうのだ。相棒が諌めてくれるでもなく、二人揃ってこれはスカだ、次こそは当たりを引いてやると息巻いてしまっては駄目だと思っても止められない楽しさがあった。
もちろん、外れを引き続けたわけではない。金額的にはあまり冴えなくても、非常に有用な魔導具が幾つも手に入っている。
そこいらに居るような低級の魔物の魔石でも使用可能な着火の魔導具や、尽きる事のない水を湛える魔法の水瓶は金貨10枚ほどの価値しかなくても、素晴らしい逸品だ。俺自身は必要としなくても、ライルの故郷の家族に是非とも贈ってやりたい品物だ。クズ魔石でも使える魔導具は田舎でも重用される。
ライルが子供の頃、近くの川から水を汲んでくるのは大変な重労働だった。これが夏ならまだしも、真冬の時期に手をあかぎれだらけにしていた事を思い出す。ライルがウィスカに出た今、水汲みの仕事を任されているのは恐らく妹のメルルだろう。
あの子が大変な思いをして水を汲んでいる事を考えると、今すぐこの水瓶を贈ってやりたい気持ちになる。だが、いくら単純な構造とはいえ魔導具は高級品だ。火種の必要がなくなる着火の魔導具は店で買えば金貨8枚は覚悟しないといけない。
今の俺には難なく買える額だとしても、普通に考えて裸一貫で田舎を出てきたライル少年に用意できる額ではない。確実にどうやってこの魔導具を手に入れたと問われるだろう。ライルが幸運に恵まれて故郷に贈り物をするほどの余裕が生まれたとしても、それは早くても一年は見なくてはならないと思う。
俺はいつかライルの家族に贈ろうと思い、それらの魔導具を売却せずに取っておくことにしている。
楽しんで頂ければ幸いです。
時間がない! まさかの予約時間まにあわず手動投稿です。




