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ギルドに報告 4

お待たせしております。


 月(この地では”ほし”と呼ぶ。月も星も同じ読みだ)明りが夜道を照らす中、俺達はギルドへの道を歩いていた。


「これで転移門を口外して欲しくない理由が理解してもらえたと思います」


「ああ。お前以外に転移門を扱えないことは理解した。今のままじゃ話を出しても揉めるだけだな。あの鍵となる棒はウィスカで出たのか?」


 探るような口ぶりのジェイクに俺は多少逡巡したものの、どういう経緯であの鍵を手に入れたのか考えると、そう簡単に手に入るものでもないから正直に話すことにした。


「王都に行っていた時にあっちのダンジョンで手に入ったんです。普通に階段降りたはずなのに、いつの間にか訳のわからん場所に飛ばされまして、とんでもない目に遭いましたよ」


 そこで遭遇したあの無茶苦茶なチートゴーレムにまで話が及ぶとダンジョンを管轄するギルマスとしては無関心ではいられなかったのか、食い気味に聞いてくる。


「ちょっと待て! そんな危険な階層が野放しになっているのか? 報告はしているんだろうな?」


「言いたいことは解りますが、何て報告をするんです? 王都のダンジョンはいつ不思議な階層に飛ばされるかわからないです。気を付けてくださいって報告して信用してくれますか?」


「いや、だがな……」


 納得できない様子のジェイクにユウナが助け船を出してくれた。


「兄さん、ただでさえ王都のダンジョンは貴族の遊び場で人気です。不確かな情報では対策も立てられませんし、不用意な立ち入り制限は貴族の反感を買います。ドラセナ様はそう危惧されるでしょう」


「くそ、だからダンジョンに貴族を入れて遊ばせるのは反対なんだ。メリットもデカいが、デメリットもデカすぎるんだよ」


 ユウナが首を振ってこの話題は終了した。

 王都の冒険者ギルドが貴族の介入を最小限に抑えつつ、友好的な関係を維持していけるのはその”遊び”を許しているからであると彼女は知っている。それに友好的関係からもたらされる貴族からの援助金はこの国中のギルドの分配されている事実を俺はクロイス卿から聞かされていたので、何も言わなかった。それに彼らからの庇護を得る事で各方面からの折衝、特に王都は王宮からギルドへの圧力が強いので、その干渉を上手く防ぐ事に貴族を利用しているのだ。

 正直、今この件で騒いでも誰も得をしないのだ。残念だが放置以外手はないだろう。


「とりあえず俺からヤツには話してみる。効果はないだろうが、事実を知っておくだけでも意味はあるからな」


 やはりギルドマスター間で連絡手段があるようだ。王都からユウナとレイアと共に戻った時、ユウナは明らかにジェイクに向けて連絡を入れていたはずだ。彼女が到着した時の彼の動揺がそれを証明している。

 通話石に似た魔導具があってもおかしくないし、意外と通話石を使っているのかもな。


 ジェイクに6層で例の事件に巻き込まれたと告げると、明らかな低層での案件に衝撃を受けているようだ。確かにこれが深い層なら訪れる冒険者は限られるし、被害もかなり少なく出来るというものだが低層ではそうも行かない。ありとあらゆる人が行き来する層で起こった出来事は誰の身にも起こりうる。


「ですが、これもまた証明できる話でもないんで、話半分に聞いておいてくださいよ」


「いや、内容が内容だ。職務上無視はできん。今までのお前の行動に嘘はなかったし、ダンジョンで使用するものはダンジョンで産出されるのが基本なんだ。帰還石や光灯石やら識別鏡とか色々あるが、その反応からするとお前ほとんど知らないだろ? そんな奴が適当につく嘘はすぐにバレるし、おまえはそこまで迂闊じゃないからな。それくらいは信用している」


 つまり、人格よりも能力を信頼しているというわけか。付き合いの浅い人間を簡単に信用するほうが逆に不安だからな。実に俺好みの判断基準ではある。


「結局、大事にならないと事態は何も動かないでしょう。大貴族の跡継ぎでも行方不明にでもなれば違うんでしょうが」


 その結果、ギルドが受ける損害を考えたのかジェイクは渋い顔をしたが、どこまでいっても冒険者は自己責任でやるものだ。

 自分の命を賭け、危険を省みず奥地へ挑むから大きな対価を得られるのだ。危険が嫌ならダンジョンなどに挑むべきではない。貴族にも命の保証はないと理解させてから遊ばせるしかないと思う。

 いくら護衛をつけてもあの層に飛ばされたら餓死するかあのチートゴーレムに殺されるしかない。今思い返しても<魔法完全無効>に<超硬化>は露骨過ぎる。俺も雷属性を生み出さなかったらソフィア達も危なかったのだ。今思っても別の攻略法があるはずだが、そんなアイテムとかなかったんだよな。



 ロクに戦わずに移動だけしたのでダンジョンにいた時間はほんのわずかだった。その後はギルドの連中と飲み会を行った。飲み会の原資はさっきのドロップアイテムを換金したようなので、飲み代無しの参加自由であり、多くの職員が集まったようだ。俺は最初だけ参加してすぐに抜けた。


 大して飲めない酒を無理して付き合う義理もないし、こっちは明日もある。むしろ休日である明日の方が予定が普段より詰まっているんだが。

 それに当初の目的であるギルドに一定の恩恵は与えたと思う。後は程々に距離を置いて付き合っていけば良いと思っている。




「あれ?」


「あら!」


 そんなことを考えてギルドを出た俺は、丁度同じく出ようとしているキャシーさんと鉢合わせた。彼女の手には俺が出した果物の入った袋があるが、数が二つある。


「もう帰るのですか?」


「ええ、身内の飲み会はちょっと……」


 言葉を濁すキャシーさんだが、その先は言わなくても解る。美人というのも大変だ。羨望と嫉妬と欲望がひとまとめにやってくる。俺は大変ですねとあいまいに頷いた。


「本当に年齢がわからない人ね。見かけ通りではないとは思っていたけれど」


 そりゃあ、酸いも甘いも知り抜いた年寄りらしいですから。人生の世知辛さもたぶん経験してるんでしょう。記憶ないけど。


「まあ、それは良いでしょう。お一人で帰られるんですか? こんな夜更けに?」


「みんなは()()だし、仕方ないかなってね」


 酔っぱらいに送らせたらそのまま送り狼に変身するんだろうなぁ。それに、彼女は暗に視線で俺の帰りが遅いからだよと責めているようだ。それはさすがに責任持てないが。


 やれやれ、と口には出さず内心ため息をついた。流石にここで”じゃあ、また今度”と言うわけにはいかないな。ここで会ったのが運の尽きか。なに、少し遠回りするだけだ。


 近くまで送ると提案すると、キャシーさんは当然のように受け入れた。むしろ、言われないはずがないと確信しているような印象だが、不思議と不快感を覚えない。

 やはり受付嬢は得な性格をしている。いや、そうでないとやってられない仕事なんだろう。


楽しんで頂ければ幸いです。


王都のダンジョンのアレはまたいずれ詳しくお話しする機会が来ると思います。

そう遠くない内に、遠いかな(汗?)

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