ギルドへ報告 5
お待たせしております。
そう言えば、今日は受付嬢に向いていない損な性格をしている彼女の姿を見ない。キャシーさんの手にある袋の一つは、そういうことか。
「ランカさんの所に寄った方が良いですか? もし不都合があるなら、近くで待ってますから」
人気のない夜道を二人で歩きながら尋ねる。袋の中の果物は少なめだったのでそこそこ足しておいた。ソフィアやバーニィたちに散々配ってもまだまだ余っているのだ。<アイテムボックス>内の果物を空にしたとしても明日取れば良いので全く問題ない。
「ありがとう。ランちゃんの分を取っておかないと、みんな持っていかれちゃうと思って。あの子は自分から取りに行く子じゃないし」
「仲が良いんですね。お二人は長いんですか?」
「子供の頃少しだけ近くに住んでいたの。再会したのはこの数年の間よ。それまでは王都にいたらしいけれど。特にこの仕事を紹介したのは私だから気になっちゃって」
そういや、彼女はなんか事情があるような感じだったが……ああ、その事情の一端があれかな?
「キャシーさん、左前方の店は見えますか?」
「なに、いきなり? ってランちゃん!?」
こんな時間に普段着で出かけているのは不自然だが、そこまで込み入ったことを聞けるような間柄ではない。思うところはあるものの、目的であるランカさんとの合流は果たせた。もうここまで来れば家も近いというからここで別れることにした。
彼女からの礼の言葉を受けて家路についた。
翌日は休みにするつもりだったが、ついダンジョンに向かってしまった。
朝イチで二種類のボスを撃破し11層から順に下っていき20層まで攻略し、午後に転移環で王都に向かった。ちなみにキリングドールから魔石とミスリルは出たが、転移環は出なかった。毎日レアドロップを狙うのは虫が良すぎたか。だが、これだけでも相当の稼ぎだ。おおっぴらに出せないキリングドールのアイテムを抜いても金貨100枚が、僅か5寸(分)足らずで手にはいっているのだ。最早笑いが止まらない。ようやくこのふざけた借金返済も軌道に乗ってきたというところか。
午前の収入だけで金貨1300枚以上を得ることができた。未来は明るいといっていいだろう。
王都ではとりあえずの根拠地としてリットナー伯爵家に転移環を置かせて貰っている。バーニィはいつでも使ってくれて構わないと言ってくれているが、流石にそこまで甘えるわけには行かない。
ソフィアたちと合流する前に王都での不動産巡りと行きたかった。いくら本人にその自覚があまりないとはいえバーニィは立派な貴族様で伯爵家の次期当主だ。満足に王都から出たこともないという彼にアパートメントがすぐに紹介できるはずもない。
頼みの綱である兄のフェンデル伯爵は今は選挙戦の真っ最中で大忙しだ。あの状態の伯爵に今ちょっとお時間いいですか? と聞きに行ける勇気はなく、家宰のみなさんも当然そっちにかかりきりだ。
仕方ないが最後の手段だ、リノアのツテを借りてみるか。あいつには秘密にしておきたかったが、きっと説明させられるんだろうなぁ。
「リノアというのは、あの夜の娘かい? たしか例の一族だよね」
すでにバーニィとクロイス卿とは顔合わせしているので覚えているだろうが、あいつの副業までは知らなかったようだ。元はバーニィが指定した店なので存在は知っているはずだが。
今日も朝早くから訪れる予定だと伝えていたが、現時刻は3時過ぎだ。この世界は夜明けと共に動き出し日が落ちたら蝋燭勿体無いから寝ようか、という生活で一日は2食が殆どだ。3食を食べるのは体を動かす仕事についているものか、旅人、そして貴族くらいなものだ。俺は普段から2食で済ませているし小食とはいうものの食べられない事はないし、バーニィはまだ腹に物は入るかね。
「そういや、腹の具合は大丈夫か? 一応飯屋だからなんか頼まないとな」
「あ、ああ、そういえば何も……いや、大丈夫だよ」
なんと分かりやすい奴だ、だが丁度良い。二人でリノアの店に突撃しようじゃないか。
今日はこのあとソフィアたちと過ごす約束だが、リリィによればもう昼なのにまだ女性陣の準備ができていないようなので、公爵邸で落ち合うことにした。ソフィアはこれから毎日シルヴィアの鍛練に付き合う約束になっていた。
これでソフィアのこの国の立場は磐石だろう。祖国よりよほど快適に過ごせることになるにちがいない。狙った事とはいえ、上手くいって良かった。
二人して人が少ない伯爵邸を出る。伯爵の選挙戦のために殆どの人員が出払っているようで不気味なほどに閑散としている。
「本当に人がいないな。しばらく家帰んなくていいんじゃないか?」
「一応、来客はあるよ。そのときは僕が対応しないといけないんだ。兄上が枢機卿になられたら伯爵位は僕が継がなきゃならないから、慣れておけっていわれててね」
「おっと、未来の伯爵様にとんだご無礼を」
おどけたように言うと、バーニィは本当に嫌そうな顔をした。
「止めてくれよ。僕が伯爵なんて、今から気が重い。できるはずないよ、政治や領地経営なんてやったこともないし」
「みんな最初ははじめてさ。引き継ぎがあるだろうし、領地は慣れてる代官を指名すればいいんじゃないのか?」
慰めるように言ったつもりが、さらに気落ちさせてしまった。必ず訪れる未来に絶望しているようだ。
「俺にできる事があれば協力するから、そう気を落とすなよ」
「本当かい? 嬉しいよ、実はそう言ってくれることを待ってたんだ」
一転して笑顔になるバーニィに今までが演技だったと思い知る。バーニィのような性格で、こんな方法を取るとは予想外で完全に騙された。というか、彼の性格で出来る手口ではないな、こりゃ誰か入れ知恵した奴がいるぞ。
そんなこんなでリノアの働く店にやって来た。王都で働く民向けの店なので飯時は朝からやっているのは<マップ>で解っていた。今は昼が一段落している時間だと思うが、店は開けている。営業してなければ店にここまでの人の出入りはないし、初めてバーニィと共に訪れた時もこれくらいの時間だった。
「いらっしゃい! ってあれ? また来たんだ」
「おいおい、ずいぶんじゃないか。俺も予想外に早く来たのは認めるが。なんか適当に二人分食わせてくれ」
俺の他にバーニィがいる事を忘れていたのか、途端に畏まりそうになるから手で抑えた。ここで一々貴族用の挨拶をされたら大変だし、それを気にするような男でもない。
出されたオススメか売れ残ったかの品を食べつつ、例の件を話す。何をするかわからない怪しすぎる話に顔を顰めたが、とりあえずは当たってくれるらしい。考えてみれば自分達の機密活動拠点を一つ寄越せと言っているのだ、かなり無茶を要求した気がする。王都全域に網を張れる伝手の多さに期待していたが、最悪無理でも仕方ないと思うことにしよう。それに拠点そのものでなくてもいいのだ。ひっそりとして目立たない場所だって彼女たちの職業柄よく知っているだろうし。
その後は、ダンジョン産の食材を数多く提供して代金と調査代の代わりとしてもらった。やはりタイラントオックスの肉は非常に喜ばれたが、肉を買い取ると打診されて困ってしまった。友誼によって肉を送ることは可能だが、ギルドを通さずにダンジョン産の品を売買する事は許されていないから、向こう半年食事無料ということで何とか納得してもらった。それでも貰いすぎだと言っていたがこれで儲ける気はないので好きにして欲しいというのが本音だ。
「いや、この枝を買ったらいくらになると思ってんのよ」
「そこらへんはあまり気にしないほうがいい。これはそういう男だ」
「バーナード様がそう仰るのなら……」
その分物件を紹介してもらうことで話はついているはずだが、やはりこの枝一本分での店としての利益は相当なものになるようだ。ウィスカのレストランの店主も似たような事を言っていたしな。とても同じ肉があと三桁あるとは言えない雰囲気だ。人気店であるこの店が一番消費してくれそうなんだがな。
彼らが無理ならいっそこっちで店でも出すか。バーニィだって伯爵家の人間だしクロイス卿に頼み込んでもいいしな。人を紹介してもらって店を開くのも借金返済の一助になるかもしれん。
うん、今思いついたが、結構いけそうな気がしてきたぞ。
楽しんで頂ければ幸いです。
少し前に本編で触れましたが、この世界は魔物のせいで牧畜がほとんど行われません。なので肉が少なく、高いものになってます。安い肉は何とか食べられる魔物の肉なので味は悪いです。
日本人ならこれはムリ! と断言してしまうレベルです。
あ、日本人がそろそろ出ます。(唐突なネタバレ)




